コラム 2004年 元旦に思う

ハプスブルグ家没落の教訓と
永世中立国、オーストリア


青山 貞一

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◆ハプスブルグ家 没落の教訓

  ところでオーストリアと言えば、中世以降、四百年にも及び人口で五五〇〇万人、当時の欧州の過半の土地を領有支配したハプスブルグ家(王朝、帝国)を思い起こす。

 ハプスブルグ家が武力でなく「政略結婚」によって領土を拡張したことはつとに有名な話だ。が、そのハプスブルグ家の中枢に君臨した女帝マリアテレーザのひとつの居城がウィーン郊外にあるシェーンブルン宮殿である。

 私が聴いた真冬の夜のシェーンブルン宮殿コンサートの白金の間は、マリアテレーザがよく使っていた居室、白金の間であると言う。シェーンブルン=「美しい泉」は一世を風靡したハプスブルグ家の夏の離宮として使われた巨大な宮殿である。

夏のシェーンブルン宮殿(2002年8月、青山) 冬のシェーンブルン宮殿(20031年1月、青山)
冬のシェーンブルン宮殿(2003年1月、青山)

  ※ 中世から近世の欧州は、ハプスブルグ王朝、ロマノフ王朝、そしてオスマン
     王朝の三王朝、その三王朝(帝国)が欧州領土の大半を支配(下図参照)。
  ※ ロマノフ王朝:ロシア最後の王朝(1613年ー1917年)、ツアー(ロシアの皇帝)
     ミカエル(即位1613-1645) に始まり、ロシア革命ときのニコライ二世で終る。
  ※ オスマン王朝:中央アジアから移住したトルコ族のオスマン家により1299年ア
     ナトリアに建国されたイスラーム国家,最盛期は,アジア,アフリカ,ヨーロッパ
     にまたがる大帝国、1922年のトルコ革命により滅亡した。(1299年〜1922年)
  ※ ハプスブルグ王朝:(1273年〜1914年) 

出典:NHK教育テレビ

 十九世紀後半、そのハプスブルグ家は次々と不運に見舞われる。一八八九年、ルドルフ皇太子は愛人と自殺、息子の死で悲嘆にあけくれたエリザベート妃は、シェーンブルン宮殿に住むのを嫌い欧州を転々、一八八九年にスイスで刺殺された。その後一九一四年、王位継承者フェルディナンド皇太子がサラエボで暗殺される。

 オーストリア・ハンガリー帝国の皇帝フランツ・ヨゼフは、その七月二八日、別荘の書斎でセルビアへの宣戦布告文書に署名、これが第一次世界大戦につながることになったのは有名な歴史的事実だ。

 周知のように、この署名が欧州全体を戦争に巻き込みハプスブルグ王朝(帝国)の崩壊に追い込む。それににとどまらず、あのヒトラーという二十世紀最悪の独裁者を生むことになったのだ。

 欧州の領土を席巻したハプスブルグ家、オーストリア・ハンガリー帝国の末路はあのヒットラーに終わるのである。


◆知られざる永世中立国、オーストリアとその憲法
 
 日本人に意外と知られていないことがある。それは今日のオーストリア(人口約八百万人)が、スイス同様永世中立国であると言う事実だ。現在、このような永世中立国は世界で以下の4カ国がある。
 もともと武力によらず政略結婚で欧州の土地の過半を制したハプスブルグ家だが、その最後はヒットラーと言う近代史上最悪の独裁者を生む結果となった。その史実から、新生オーストリアは、自国防衛のための軍隊は有するものの、海外には一切軍を派兵しないこと、つまりスイスに類する永世中立国化を憲法にしっかりと明記している。
 
 2003年1月、米英がイラクが大量破壊兵器を隠し持っているとイラクに戦争を仕掛け、世界中が緊張につつまれていたとき、私はちょうどこのオーストリアにいた。スタイナーさんの父親とイラク問題について議論したとき、オーストリア政府は、仮にEU各地にある米国空軍の軍用機に対し、絶対オーストリア領土を通過しないよう米国政府に通告していると伝えていると、話してくれた。徹底した永世中立国である。この数ヶ月前も私はオーストリアにいたが、そのときはじめてドイツのシュレイダー首相がドイツはイラクに兵も金も出さないと国会で言明した。ドイツもオーストリアも、過去の痛ましく忌まわしい歴史の教訓があるからだ。


◆オーストリア憲法 第9a条

 以下はオーストリア憲法の永世中立に関連する部分(第9a条)である(アンダーラインは青山)。オーストリア市民は兵役義務はあるものが、その代替役務もある。なぜか、オーストリア憲法でも防衛に関する部分は第9条である。

 (1) オーストリアは包括的な国土防衛を旨とする。その任務は、外からの独立、
    並びに連邦領土の不可侵性および統一を保持すること、特に永久中立
    の維持および防衛である。またこれとともに、憲法的機構および行為能力
    並びに住民の民主主義的自由を外からの武力による攻撃から保護し防衛
    することである。
 (2) 包括的な国土防衛には、軍事的、精神的、市民的および経済的国土防衛
    が含まれる。
 (3) すべての男子オーストリア市民は兵役義務を有する。良心的理由により兵
    役義務の履行を拒み、これより免除される者は、代替役務を果たさなけれ
    ばならない。詳細は法律によって定める。
 (4) オーストリア女性市民は、自由意思により軍人として連邦軍に役務を提供す
    ることができ、この役務を終わらせる権利を有する。

    その3につづく