国際ダイオキシン会議
2004年 ベルリン会議 参加・報告
気中のダイオキシン濃度の状況
(分科会Env10の主な発表論文より)


2004.9.6〜9.10


池田こみち

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国際ダイオキシン会議会場玄関にて

 松葉によるダイオキシン測定監視活動は、大気中のダイオキシン濃度の監視活動であり、この間日本国内の大気中濃度がどのように改善されてきているかを継続的に監視してきたことは大変に意義のあることである。そこで、今回の学会発表の中から、大気中の濃度に着目した発表について、その概要を報告しておくこととしたい。大気中濃度については、ほとんどの国がfg(フェムトグラム:pgの1/1000の単位)で表記している点も見逃せない。

 日本全国の大気中ダイオキシン類濃度の平均値はCo-PCBも含めて、2002年度末時点で0.093pg-TEQ/m3と報告されている。都市部や発生源周辺では当然、これを上回る濃度となっている。松葉調査により監視を続けてきた九州・中国地域の平均濃度は松葉から換算して2003年度に0.066pg-TEQ/m3という結果が得られている。

 これらのデータと諸外国の測定結果を比較することは大変興味深いことである。以下、発表論文の概要を紹介する。(単位はわかりやすくするためpgとしている)

 時間の制約もあり発表者との十分な議論や意見交換はできなかったが、主な発生源が冬場の家庭での木材を燃料とするストーブであるとか、コプラナーPCBの大気中濃度がアメリカにおいて夏場に高いのは土壌中からの揮発による影響と考えられる、といった興味深い指摘もあり、今後の議論と継続的な調査が待たれるところである。スペインの都市部について、高濃度となっている原因が自動車であるとする議論については今ひとつ根拠が不明確であるので、EPAや日本など、自動車排ガスの原単位を研究している国からの情報提供も必要であると思われる。


<PCDD/F 及び PCBの大気レベル、傾向と発生源について>

1)デンマーク

 デンマークコペンハーゲンの首都周辺地域について、PCDD/Fのバックグランド濃度を把握する目的でデンマーク・ダイオキシン・モニタリング・プロジェクトが展開されている。以下の表を参照。

 都市部、農村部及び住宅地の濃度とともに、地域の発生源からの影響と長距離の移流について検討が行われた。季節別では、夏期(6月)が最も低く、冬期(2月〜3月)が最も高濃度となった。コペンハーゲン都市部と北におよそ30km離れた農村部Fredensborgとは同程度の濃度であったが長距離の移流による影響は、農村部の位置によって大きく異なった。冬期の暖房期には、コペンハーゲンから西に30kmの農村部Gundsomagleで高濃度となっており、冬期の暖房時期と重なっていた。これは、同時期PAH濃度が高いことと符合しており、家庭の暖房に木材ストーブが使われていることがダイオキシン類の主要な発生源となっていることを示唆している。

                単位:pg-TEQ/m3(I-TEQ)
農村部(北30Km) 都市部 村部(西30km)
Fredensborg Copenhagen Gundsomagle
平均 0.0231 0.0246 0.0706
最低 0.0045 0.0068 0.0089
最高 0.0867 0.0442 0.1799

 年間平均値は0.002 〜0.0583の範囲にあり、2001年のアメリカのNDANNのモニタリング結果の範囲に収まっている。

2)スペイン
 カタルーニャ地方で10年間にわたり29地点でPCDD/Fの継続的な観測が行われた。高濃度が見られた地域は、工業地域で0.005〜1.2pg-TEQ/m3(平均値0.14)であった。都市部では、0.008〜0.62pg-TEQ/m3(平均値0.11)で、都市近郊は0.007〜1.2pg-TEQ/m3(平均値0.12)あった。

 都市部では、自動車の排気ガスの影響が大きいものと思われる。農村地域は、0.005〜0.045pg-TEQ/m3(平均値0.028)、バックグランド濃度は、0.008〜0.028の範囲にあることが分かった。地域別のこうした傾向は、PM10やTSPについても見られた。

3)台湾
 2002〜2003年度の大気中ダイオキシン濃度(PCDD/F)について測定した結果が報告された。2002年8月から2003年11月にかけ、8カ所については、13地点のネットワークを活用し、毎月サンプリングを行った17サンプルを収集した。最高濃度は、2003年5月に、最低濃度は同6月に観察された。平均濃度は、0.062〜0.13pg-TEQ/m3の範囲となり、1999年度の調査と比較して改善傾向を示した。さらに改善するためには、台湾国内の19カ所の市町村の廃棄物焼却施設からのダイオキシンの排出を削減する必要があると考えている。

4)ポルトガル
 リスボンとポルトの工業地域における大気中のダイオキシン類濃度(PCDD/F)について調査を行った。ポルト地域では98年から稼働している焼却炉の影響が危惧されていた。この報告では98年6月から04年2月までの期間について測定を行っている。その結果、首都リスボンでは、世界各国の農村地域、すなわち非汚染地域と同等の濃度レベルであることが明らかとなった。一方、ポルトの濃度はリスボンと比較して明らかに4倍は高い濃度となった。ポルトの測定データの77%が0.04〜0.4pg-TEQ/m3の範囲となった。他の諸外国と同様、夏場に比べて冬場が圧倒的に濃度が高かった。ポルトでは3〜4倍も冬期が高い濃度となった。

 ここでも、冬期に高い原因は各家庭の木材燃料による暖房と考えられる。

 PCDD/Fの測定データと同族体パターンを含めたクラスター分析の結果、ポルトでは、2001年1月の冬場は特に、一般廃棄物焼却炉ではなく医療系廃棄物の焼却炉による影響が大きかったことが分かった。2001年はじめに同医療系焼却炉を閉鎖した後、同族体パターン(4塩化フランが増加)も地域のD/F濃度も大幅に改善された。

5)韓国
 京畿道(ソウルを中心とする北部地域)における大気中ダイオキシン類濃度(PCDD/F,Co-PCBs)について測定した。この地域は韓国国土の10%を占め、首都ソウルを含んでいる。また、人口は1千万人(全人口の21%)である。加えて、この地域にはおよそ12,700もの発生源が集中している。PCDD/Fのデータは2001年8月から03年12月の期間測定された。測定網の6地点について平均値が報
告されている。季節ごとに測定を行っており、最も四季のうちで濃度が高いのが冬、続いて春、夏、秋の順となる。Co-PCBの測定は、03年4月から6地点で始められた。Co-PCBの平均濃度は、0.024pg-TEQ/m3。最高濃度は、SiheungとAnsan(始興市と安山市)で観測され、それぞれ0.044と0.043pg-TEQ/m3であった。(いずれもWHO-TEQ)

6)米国
 2001年アメリカ合衆国大陸内のNDAMN(National Dioxin Air Monitoring Network)において測定された大気濃度について報告された。この報告は1999〜2000年の前回の報告の継続調査結果についてのものである。2001年に農村地域22地点で測定されたPCDD/Fの年間平均値は0.002〜0.028pg-TEQ/m3の範囲であった。22地点の全平均値は0.012pg-TEQ/m3。Co-PCBの年間平均値は、0.00015〜0.009pg-TEQ/m3の範囲にあり、全平均は0.001であった。D/Fについて、農村部よりさらに遠隔地については、さらに一桁以上低い濃度であった。遠隔地のCo-PCB濃度は、農村部に比べてさらに5倍以上低い濃度であった。Co-PCBについて、遠隔地の8地点の平均は0.00023pg-TEQ/m3であった。遠隔地については、冬場より夏場の方がCo-PCBの濃度が高くなった。これは、気温が高い方が土壌からの揮発分があり大気中の濃度が増加するためと考えられる。