国際ダイオキシン会議
2004年 ベルリン会議 参加・発表記
2004.9.6〜9.10


池田こみち

All Rights Reserved 転載禁

 第24回国際ダイオキシン会議(正式には International Symposium onHalogenated Environmental Organic Pollutants and POPs)が9月6日から10日までの5日間、ドイツの首都ベルリンで開催された。

 環境総合研究所は、第21回会議(於:韓国慶州)から毎年参加し論文を発表するとともに各国の研究者らとの交流を図っている。セベソ事件の裁判が始まった年からスタートしたこの会議も24回目を迎え、当初メインの課題であったダイオキシン問題に加え、臭素化化合物、難燃剤、農薬類、環境ホルモン物質などより幅広い化学物質問題がテーマとして取り上げられるようになり、年々論文数も増加している。

 今回会場となったのは、ベルリンの中心街にほど近いベルリン工科大学。同大学は、古くはカラー写真の技術を開発したヘルマン・ウィウヘルム・ヴォーゲル博士や電子顕微鏡の開発者でもあるエルンスト・ルスカ博士などを輩出した由緒ある大学である。会議は、同大学のメインビルディングの講堂、講義室、回廊式廊下、吹き抜けのロビーなどを利用して開催された。

会場となったベルリン工科大学

 論文発表に加えて30社あまりの出展があり、モニタリング、測定分析、試薬、処理技術などの新たな技術や製品のPRが熱心に行われていた。

 今年も40カ国から900人もが参加し、例年のように日本人の参加が最も多かった。事務局のまとめによると、提出された小論文は700あまり、そのうち、事前審査の結果、口頭発表論文が287本、ポスター発表が395本となったとのこと。

 初日6日月曜日の午前8時過ぎから、開会式が行われるメイン会場では、ステージに弦楽四重奏の四人の女性が登場し、クラシックの美しい音色を会場に響かせていた。二階席もある広い講堂は、徐々に満席となり熱い議論の始まりを感じさせる緊張感に満ちていた。

クラシック音楽の演奏

 開会宣言は総合座長をつとめるウォルフガング・ロタード氏とスタインバック教授(ベルリン工科大学副学長)が登壇。参加者に歓迎の意を伝えるとともに、ベルリン市の簡単な紹介も行われた。またスタインバック教授からは、ドイツにおける化学物質問題のこれまでの経緯と現状などについて報告が行われた。引き続き、クラウス・トファー氏(UNEP Executive Director)から、「ストックホルム会議とPOPs削減のための世界的な動き」について基調講演が行われた。

 10時15分からいよいよ5つの会場に分かれて論文発表がスタートした。今年の会議では全体で36もの分科会に分かれて研究成果が発表され議論が展開された。

         Dioxin 2004 の分科会一覧

Ana1:サンプリング、クリーンアップ、分離
Ana2:ガスクロマトグラフィーと質量解析(GC/MS)
Ana3:特殊な機器技術及びパターン認識
Ana4:キラル・ゼノバイオティックスと自然界のハロゲン化化合物
Ana5:POPs分析における品質(精度)
Ana6:バイオアナリシス
Ana7:ダイオキシンサロゲーツのオンラインモニタリング
Ana8:ダイオキシン類等の分析技術の進歩
Bro1:臭素化化合物:分析、濃度、傾向
Bro2:臭素化化合物:生物中の濃度、傾向と影響
Env1:土壌及び水質中の濃度
Env2:各種発生源からの汚染物質の排出状況
Env3:生物中の濃度(海域と陸域)
Env4:生物中の濃度(魚介類、亀、鳥類、植物等)
Env5:食品と飼料T
Env6:食品と飼料U
Env7:大気中の濃度レベル、移動と沈降
Env8:生物学的及び光学的変質(変化)
Env9:物理化学的特性、拡散とモデリング
Env10:海洋哺乳類の濃度とその影響
Flu1:フッ素化POPs
For1:ノンサーマル発生源と発生源目録
For2:サーマルプロセス(熱処理)
For3:回復措置と管理技術
Hum1:内外からの人体への化学物質の暴露
Hum2:人体の化学物質濃度とその傾向
Ris1:化学物質の暴露によるリスク全般
Ris2:リスク管理と法的側面
Ris3:PCBのリスク比較
Ris4:非ダイオキシン類似PCBのリスクアセスメント
Ris5:ベトナムにおけるダイオキシン
Tox1:運動、酵素誘発、Ah-リセプター
Tox2:発生及び発達毒性
Tox3:神経毒性とその他の影響
Tox4:疫学
Tox5:ダイオキシンの毒性に関する近年の進歩

 今回、私どもが発表した論文は、「Citizen Participatory Dioxin Monitoring Campaign by Pine Needles as Biomonitor of Ambient Air DioxinPollution」と題し、1999年度から2003年度までの5年間にわたり、九州・中国地域でグリーンコープ生協が取り組んできた市民参加による環境監視活動の成果についてとりまとめたものである。極めて科学的なスタンスからの論文が多いこの会議にあって、今回発表した論文はクロマツの葉が生物指標として有効であることとともに、市民による監視活動という社会的な側面を強調したものであり、異色であったことは想像に難くない。論文提出の際には、上記分科会のEnv7「大気中の濃度レベル」に参加を希望したものの、結果的には、松葉を試料としている点が興味深いという観点からAna1「サンプリング、クリーンアップ、分離」という極めて技術的な狭い分野の分科会に入れられてしまったことは予想外のことであり、とまどいもあったことは事実である。

<発表論文PDFファイル : 238KB>

 Ana1の分科会は、初日、オープニングセレモニーが終了した直後、同じメイン会場でスタートした。私の出番は2番目。15分の発表と5分の質疑応答が行われた。同分科会の座長はスペインバルセロナの化学環境研究所に勤務されるジョセフ・リヴェラ博士であった。事前に、なぜこの分科会になったのかを質問したところ、「松葉を試料としている点は多くの参加者にとって興味深く参考になると考えたからである」と答えられた。

口頭発表

 ともあれ、私の発表は10:35から10:55まで、事前に送付しておいたパワーポイントも無事に作動し、なんとか無事に終了した。質問はフロアからと座長からの2つ出された。ひとつは、「落ちた松葉を使用した場合はどうか。」というもので、これまで落ち葉を使用して分析した経験はなく、興味深いがおそらく大気中の濃度を監視する上では適当ではないと考えられる。もうひとつは、「山火事の際に周辺の松葉を測定すればその影響が把握できるのではないか」という質問である。これについても、山火事現場の周辺に松があれば実施することは可能だが、発生源が焼却炉などとは異なるので、どのような濃度になるのか、またどのような同族体パターンとなるかについては、実際にやってみたことがないのでわからない。

質疑応答

 会場には、開会式の後、2階席も含めて200名近くが残っていたが、発表終了後複数の参加者から大変興味深い内容だったとのコメントを頂いた。残念だったのは分科会のテーマが「大気環境レベル」ではないため、本来聞いてほしかった人たちに聞いて頂けなかったことである。

第一分科会会場

 ともあれ、今回の私たちの研究成果は、ダイオキシンをはじめとする有害化学物質の環境中への排出を抑制する上で、市民の理解と参加がいかに重要な物であるかを訴えたものとして極めて重要なものであり、世界各国の科学者にそうした取り組みを発信できたことは大変よい機会だった。

 台湾の中央研究院から参加していた龍さんは、台湾でもダイオキシン問題に対する市民の関心は高いが、学術研究と行政と市民の間に入るERIのような研究者がいないために、なかなか市民の理解も進まず政策を推進する上での課題も多いと話していた。今後、こうした市民参加型の環境監視プロジェクトを台湾などにおいても展開できれば非常に有効ではないかと思われる。

 論文数が多いため、すべての発表を聞き、ポスターに目を通すことは到底不可能であるが、例年、各国の研究者と親しく交流し議論することができることが一番の楽しみでもある。また、開催される都市を歩き、歴史や文化に触れることも大いに楽しいことである。

 なお、今回の会議では、松葉を生物指標とした類似の調査レポートとして、ポーランド国内の測定結果に関するものが発表された。詳細は別稿とするが、松葉による大気中のダイオキシン濃度の測定は各国で応用されていることが窺える。