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なぜ中国のシステムは西洋の民主主義よりも
多くの選択肢を提供できるのか?
マーティン・ジャック 
環球時報 2021年5月10日
 Why Chinese system can offer more choices than
Western democracy: Martin Jacques
 
Global Times: 2021-05-10

翻訳:池田こみち Komichi Ikeda(環境総合研究所顧問)
独立系メディア E-wave Tokyo 2021年5月12
日 公開 


イラスト  Liu Xidan/GT

<著者、マーティン・ジャックについて>
著者は最近まで、ケンブリッジ大学政治・国際関係学部のシニアフェローであった。現在、清華大学現代国際関係研究所客員教授、復旦大学中国研究所上級研究員。ツイッターでは @martjacques をフォロー。opinion@globaltimes.com.cn

 中国と西側の違いが最も顕著に表れているのは、その統治システムである。

 1945年以来、西側の典型的な統治形態は、普通選挙と複数政党制である。これは、70年以上にわたって西側の主要な切り札であり代名詞となっており、中国を含むすべての国が、西側のシステムを採用すべきだと考えている。

 これには何の驚きもない。西側諸国は2世紀にわたって、自らの統治システムが他のすべての国のモデルなのだという普遍主義を信じてきた。そして、宗教にも似た熱意をもって、西側の民主主義は、これ以上良いものにすることができないほどの最高の統治形態であると考えている節がある。

 ここで、少し歴史的な背景が必要となる。

 1918年から1939年の間に、民主主義が存在していたのは、アメリカとイギリスを筆頭とする西欧諸国のごく一部に過ぎなかったことを思い出してほしい。さらに、西欧の民主主義の見通しについては、深刻な疑念があるはずだ。

 西側では民主主義の本拠地とされる米国でさえ、その将来は保証されているとは言い難い。1月6日のアメリカ国会議事堂での暴動は、南北戦争以来の民主主義に対する最大の脅威となった。トランプ氏の民主主義への公約や発言には大きな疑問が残る。米国の例が最も顕著であるが、フランスやイタリアなど様々な国で、民主主義は深刻な圧迫感/圧力を受けている。

 1945年以降の民主主義は、経済成長、生活水準の向上、西欧諸国の台頭など、特定の歴史的条件の下で相対的に持ちこたえてきた。しかし、1980年以降、特に2008年(注:リーマンショック)には、これらの条件がますます厳しくなっている。西側の衰退が明らかな時代にあって、その民主主義は、困難で不確かな未来に直面している。

 西側の民主主義が普遍的に適用できるという考えは、中国に関しては最も不合理である。中国の統治と国家運営は、世界がこれまでに経験したことのないほど古く、最も成功している。

 フランシス・フクヤマは、中国の統治は2千年の間、他のどの国よりも継続性があると主張しているが、その通りである。中国の歴史と文化は西洋のそれとは大きく異なっており、中国の統治システムはこの違いを最も重要な形で表現してきたし、現在もそうである。

 中国の統治システムの有効性は、1949年以降、特に1978年に明らかになった。先見の明とプラグマティズムの組み合わせが、人類史上最も顕著な経済的変革をもたらしたのである。その結果、中国は米国と肩を並べるようになり、米国からは世界の覇権を脅かす存在とみなされるようになった。

 中国の統治システムは、欧米では長い間嘲笑されてきたが、アメリカの民主主義システムに対する強力な挑戦者として台頭した。過去40年間、どちらがより効果的で、どちらが国民に最も恩恵を与えてきたかは疑問の余地がない。

 中国の統治システムに対する欧米の基本的な批判は、一党制であるために選択の余地がなく、政権を担う政党が交代する複数政党制でなければ選択の余地がないというものである。しかし、証拠はそうではないことを示している。

 毛沢東から鄧小平への移行期には、国家や計画に加えて市場を導入し、相対的な孤立を避けて世界との統合を目指すなど、政策や哲学に大きな変化があった。この変化は、1945年以降の西欧の民主主義国家が行ったものよりも深遠かつ広範囲に及ぶものであり、そして中国共産党がそれに対して単独で責任を負っていた。

 言い換えれば、一党独裁体制は、確かに中国の形態においては、西側の民主主義国家よりも、非常に広範囲で、かつ多くの選択肢を提供することができるのである。さらに、この40年間、中国の制度は、改革と更新の絶え間ないプロセスによって特徴づけられており、硬直化した西側の民主主義国家に典型的な状態とは対照的である。

 最後に、統治システムの真の試金石は、過去70年間のような短い期間でのパフォーマンスではなく、はるかに長い歴史的期間でのパフォーマンスなのである。

 後者の場合、中国の統治には非常に驚くべき特徴がある。

 過去2千年の間に、中国は、漢の時代の一部、唐の時代の一部、間違いなく宋の時代の一部、明の初期、そして清の初期の各時代において、世界の中で卓越した地位を共有していた5つの時期を経験している。

 注)中国史時代区分表については、青山貞一・池田こみち
   共編著、シルクロードの今を往く、中国歴史・文化概説の
   中国史時代区分表が参考になる。


 言い換えれば、中国は非常に長い歴史の中で、自らを改革する並外れた能力を示してきたのである。正確に言えば、5回もである。他の文明では、1回、せいぜい2回くらいはやっているかもしれないが、5回もやった文明はない。英国がこれを再び達成する可能性は極めて低いし、米国も同じだ。

 しかし、中国は、中国共産党の指導の下、5回目の世界有数の国になろうとしている。中国には、他の国や文明が成功したことのない方法で自らを改革する驚くべき能力があることは、歴史が証明しており、中国文明とその統治能力の強さ、回復力、ダイナミズムを物語っている。

<著者について>
著者は最近まで、ケンブリッジ大学政治・国際関係学部のシニアフェローであった。現在、清華大学現代国際関係研究所客員教授、復旦大学中国研究所上級研究員。ツイッターでは @martjacques をフォロー。opinion@globaltimes.com.cn