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長野県の審議会事情(10)
〜陳腐な温暖化防止県民計画改訂〜


青山貞一

2008年2月10日



 2008年2月7日、池田さんと一緒に県議会4階で開催された平成19年度最後の長野県環境審議会にでかけてきたことは「長野県の審議会事情(9)」で述べた。

 今回は年度最後の審議会、案件としては以下に示すように、@長野県地球温暖化防止県民計画、A第四次長野県水質保全総合計画、B希少野生動植物回復事業計画として植物(タデスミレ)、蝶(オオルリシジミ)、雷鳥を絶滅危惧種の観点から長野県レッドデータのより上位に含めるという3つの答申案の最終確認、それに、審議事項ではなく、報告事項として長野県産業廃棄物条例案が議題となっていた。

  (1) 長野県地球温暖化防止県民計画の改訂について(答申)
  (2) 第4次長野県水環境保全総合計画の策定について(答申)
  (3) 希少野生動植物保護回復事業計画の策定について(答申)
  (4) 廃棄物の適正な処理の確保に関する条例案について(報告)

 ここでは、「地球温暖化防止県民計画」について少し触れておく。

 長野県では私が知事の政策アドバイザー時代に、地球温暖化対策条例を制定している。田中知事が提出する政策案や条例案にことごとく異論、反対をしていた県議会だが、こと地球温暖化対策に関連する事案には、比較的反対が弱かった。

 この地球温暖化対策条例は、おそらく田中県政で制定された唯一の主要な環境関連条例といってよい。以下にその全容を示す。

 長野県地球温暖化防止条例 
第1章 総則(第1条−第7条)
第2章 地球温暖化対策推進計画等(第8条・第9条)
          第3章 地球温暖化の防止に関する教育及び学習等
      (第10条・第11条)
第4章 排出抑制計画等(第12条・第13条)
第5章 自動車使用に関する地球温暖化対策等(第14条−第18条)
第6章 省エネラベルの表示等(第19条・第20条)
第7章 建築物環境配慮計画(第21条)
第8章 再生可能エネルギーの利用等(第22条・第23条)
第9章 雑則(第24 条−第29 条)
附則

 ところで、なぜ反田中一色だった県議会がこの条例を通したかだが、その理由はいくつかある。

 おそらく理由の筆頭は、当初、田中康夫氏を知事候補に引きずり出した八十二銀行頭取(当時)の茅野氏が、こと地球温暖化防止にご熱心であったことであろう。

 全国の都道府県では、1999年4月から施行されている地球温暖化対策の推進に関する法律を受け、県民・事業者・行政のパートナーシップによる地球温暖化防止を推進するための拠点として、地球温暖化防止活動推進センターなる組織を設置している。

 温暖化対策推進法では、国、地方公共団体、事業者、国民が地球温暖化の解決のために果たすべき役割を定めており、その中で都道府県にそれぞれ一つ「都道府県地球温暖化防止活動推進センター」を指定し、民間団体の活動支援、啓発・広報、照会・相談、日常生活に伴う温室効果ガスの排出実態調査・情報提供等を進めることとされている。

 都道府県地球温暖化防止活動推進センターは、その目的、すなわち民間団体の活動支援、啓発・広報、照会・相談、日常生活に伴う温室効果ガスの排出実態調査・情報提供等を進めることは、まだしも実際の活動は、温暖化問題が警鐘段階から実施段階に移った現在、さして目を引く活動をしているとは言えない。

 長野県では、田中康夫氏が知事に就任した翌年の2001年5月に地球温暖化防止活動推進センターを指定、設置し、田中知事の生みの親であった茅野実氏がそのセンター長に就任したのである。


 その茅野実氏だが、田中県政の後半からは、ご承知のように「反田中の急先鋒」となった。田中氏への憎悪が急激に高まり、最後は反田中の知事候補探しにご執心となっていたほどである。

 これについては、以下に茅野氏の田中康夫氏への反感、憎悪の過程が示されているので一読願いたい。

 ◆青山貞一:混迷極める長野県知事候補選定:
          田中知事生みの親、茅野實語録の検証

 ただ茅野氏はこと温暖化問題に関しては、異常と思われるほど熱心であった。

 その茅野氏は今も長野県環境審議会の委員であり、副議長を務めている。審議会で温暖化問題が議題となると、必ず挙手をしてご自分の意見をしっかりと述べている。

 聞くところによれば、クリントン政権時代のアル・ゴア元副大統領が企画・制作したかの地球温暖化に関する映画、「不都合な真実」を茅野氏が自費で県議会で上映し、全議員に見させたそうだ。

 茅野氏当人は、長野県民なら誰でも知っていることだが、超がつくほどのヘビースモーカー(愛煙家?)だが、なぜか地球温暖化問題に執拗にこだわっている。

 ......

 そんなこともあってか、長野県では全国に先駆けて田中知事時代に地球温暖化対策条例が制定、施行された。

 村井県政になってからも、茅野氏は環境審議会の委員を務め、上述のように温暖化関連事案で活発に意見を述べている。

 さて、本題の「地球温暖化防止県民計画」だが、この計画は田中県政時代に策定、施行されたが、村井県政誕生後、全面改定することとなり、その過程で環境審議会に答申されたのである。

 こと気候変動、温暖化問題に関しては、周知のようにアル・ゴアやIPCCがノーベル平和賞を受賞されたように、とりまく時代状況が一変した。

 しかし、それ以上に、本質的なことは、COP3と呼ばれる京都会議で日本が世界に約束した内容が、森林による温室効果ガスの吸収や京都メカニズムと呼ばれる二酸化炭素の国家間取引などを考慮しても、まったく達成できていないことがある。これは長野県でも顕著である。

 京都会議では、COPに参加する各国が、1990年に対比し、2008年から2012年の間に、温室効果ガスをそれぞれの削減することを約束した。日本の目標値は−6%である。しかし、現実には1990年に対比すると、マイナス6%どころか、基準年比でプラス7.6%となっており、−6%と対比すれば、実にプラス13〜14%となっている。

 この状況は長野県でも同じである。

 プラスとなっている理由は、自動車などの運輸部門と家庭・事務所などいわゆる民生部門とされており、「地球温暖化防止県民計画」の改訂となっている。

 そこまでは、分かるのだが、専門委員会で検討、策定された「地球温暖化防止県民計画」の改訂案は、残念ながらどこにでもある対策メニューの羅列であって、長野県ならではの特性、たとえば

@日本の中央に位置しながら山岳地帯にあり年間平均気温が高く暖房エネルギー需要が高いとか、

A日照時間が日本でも有数に長いので太陽光発電に適しているとか、、

B鉄道など公共輸送機関が非常に未整備で自動車依存が高いとか、

C地形、とくに丘陵地が多く自動車走行時に燃費が悪くなると

いった固有の地域特性がほとんど計画に反映されていない。

 さらに、温暖化対策が啓発、警鐘段階から具体的実施の段階に入っているのに、たとえば太陽光発電など自然エネルギー利用について、計画の具体性がきわめて乏しいのである。

 たとえば、長い日照時間を活用し、家庭や公共施設などで太陽光発電を活用する場合、かつて1kw当たり180万円もした太陽光発電モジュールは現在、50〜60万円/kwとなっており、県が低利ないし無利子で一世帯100万円まで貸し出せば、大いに設置が進むはずである。

 しかし、計画では自然エネルギーの活用のなかに太陽光発電とあるだけで、上記のように具体的な施策はまったくないのである。

 自動車に関しても、以前に比べると燃費が良くなったというグラフはあるものの、どうすれば自動車の走行距離を減らせるかがない。たとえば、あの米国、とくにカリフォルニア州では、乗用車に2人以上が乗ることを単に推奨するだけでなく、2人以上乗っている車にはすでに優先レーンが与えられている。



カリフォルニア州ロサンゼルスからサンディエゴに向かう
幹線道路でもカープールと呼ばれる2人以上が乗車して
いる車の専用レーンがすでにある!

2007年11月青山貞一が現地で撮影

 欧州各国、各地域では中心市街地での自転車利用を促進するために、自転車専用レーンがつくられ、大きな駐輪場も駅前に整備されている。

 ◆青山貞一、池田こみち:現地報告 EUの自動車レーン

 「地球温暖化防止県民計画」には、その種の具体的施策がほとんどなく、温暖化の解説や一般的対策が羅列されているのである。

 私は審議会で具体的に上記などを指摘しているが、せっかく「地球温暖化防止県民計画」を改訂するのに、温暖化問題の一般的解説と対策メニューの羅列だけではどうしようもない。

 何でもかんでも教育に期待するのも間違いである。

 池田こみちさんは、国、自治体、企業、県民など、それぞれ主体別、かつ対策別(断熱、省エネ、自然エネ利用など)に具体的なHOW TOを示したらと政策提言してきたが、最終答申案ではこれも生かされていない。

 これでは何のための改訂かが問われる。知事が替わったから新たな計画というのは、どこにでもあることだが、当然、その場合、新基軸、目玉がなければ税金の無駄遣いとなるだろう。

 温暖化問題は、すでに国、自治体など行政による警鐘、普及・啓発の時代がすぎ、メディアがこれでもか、これでもかと連日、よりビジュアル、かつリアリティーをもって報道している。

 いつまでも十年一日のような温暖化対策読本的計画書をつくっている場合ではないのである。