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相も変わらぬ

SPEEDI情報隠し

民間でも公表の動き

記事全文

東京新聞 こちら特報部

April 29 2012
独立系メディア「今日のコラム」



◎相も変わらぬ「SPEEDI隠し」 文科省、滋賀に情報提供せず 
 大飯再稼働への影響考慮? 県独自にシミュレーション 
 民間でも公表の動き


 国が東京電力福島第一原発事故時に〓隠蔽〓いん〓ぺい〓した緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)。反省したのかと思いきや、所管する文部科学省は相変わらず情報公開に後ろ向きだ。さらに驚いたことに、SPEEDI隠しの片棒を担いだ経済産業省原子力安全・保安院も新たな予測システムを導入しようとしている。国の対応に不信感を募らす自治体や民間の間では、独自の予測図を公表する動きも出てきた。(佐藤圭)


 原発銀座の福井・若狭湾岸で福島級の事故が起きた場合、滋賀県はどうなるのか―。同県は、SPEEDIの拡散予測図の提供を文科省に要請しているが、ズルズルと先延ばしにされている。

 予測対象の原発には当然、政府が再稼働を急ぐ関西電力大飯原発も含まれているだけに、県では「関西全域が汚染される結果になるのは目に見えている。再稼働への影響をおそれているのではないか」との見方も出ている。嘉田由紀子知事は橋下徹大阪市長らとともに、政府の再稼働方針に批判的だ。

 滋賀県は、従来の原子力防災対策重点地域(原発から半径八〜十`圏)に入っておらず、SPEEDIの情報提供対象外だった。だが、福島事故で東日本全体に放射性物質がばらまかれたことを考えれば、敦賀原発から最短十三`の滋賀も「立地自治体並み」の対応が迫られる。近畿千四百万人の水源である琵琶湖を抱えていることも県固有のリスクだ。東日本大震災直後から地域防災計画の見直しを検討していた県としては、拡散予測シミュレーションは基礎データとして欠かせなかった。

 嘉田知事は昨年五月二十三日、SPEEDIの運営を委託されている公益財団
法人・原子力安全技術センター(東京)を訪ね、情報提供を求めた。一週間後に
文科省から返ってきた答えは素っ気なかった。「提供対象外なので安全技術センターに指示を出すことはできない」

 県は文科省への働きかけを続ける一方、独自の予測シミュレーションを試みた。国を当てにしていては、防災計画の見直しが進まないからだ。利用したのは、県琵琶湖環境科学研究センター(大津市)の光化学スモッグの拡散予測システム。同センターの前身である旧琵琶湖研究所の研究員だった嘉田知事が直接指示した。

 独自の予測シミュレーションでは、大飯原発、美浜原発、高浜原発、敦賀原発でそれぞれ福島事故と同規模の放射性ヨウ素131などが六時間放出したと想定した。二〇一〇年の気象データに基づき、滋賀に影響が出やすいとされる北風が緩やかに吹く日を選び、計百六パターンの予測図を作成。昨年十一月二十五日に公表した。それよると、県内の半分以上で屋内退避か、甲状腺の被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤の服用が必要になる。いずれの原発事故でも琵琶湖の広い範囲が汚染される可能性を示していた。

 【ここから左面】

 ようやく文科省が、SPEEDIの情報提供対象自治体に滋賀県などを追加したのは今年二月三日のことだ。防災重点区域を半径三十`圏に広げることに伴う措置だが、この方針は昨年十一月の原子力安全委員会作業部会で決まっていた。同省の自治体・住民軽視≠フ姿勢は、その後も滋賀県を〓翻弄〓ほん〓ろう〓し続けた。

 県は早速、独自の予測シミュレーションと同じ前提条件で、計百六パターンのSPEEDI予測図の作成を依頼しようとした。ところが、文科省は「たくさん言われても困る」とごねた。

 防災計画の改定が三月末に迫っていた。仕方なく文科省の言い分を受け入れ、県に最も影響がある八パターンを厳選。同月一日、文科省に情報提供を求めた。すると今度は「SPEEDIの運用を見直しているので時間がほしい」と渋った。結局、SPEEDI情報が得られないまま、二十六日の県防災会議で、防災計画の改定が正式決定した。

 文科省は、提供時期について「準備中」と繰り返すばかりだ。県原子力防災チームの田中弘明・主席参事は「独自のシミュレーションの精度をSPEEDIで確かめたかっただけに残念だ。早く提供してほしい」といらだちを隠さない。

 二〇一二年度のSPEEDI運営経費は、一一年度比二割増の約九億三千万円。周辺の放射線量から放出量を逆算したり、予測範囲を拡大するなどの機能強化を図るためだ。

 一方、保安院も一二年度、米国で開発された予測システム「MACCS(マッ
クス)2」を導入する。原発立地県などが避難計画を策定する際、年間の拡散予
測を提供する予定だ。費用は、委託先の独立行政法人・原子力安全基盤機構(東京)が運営交付金約二百六億円の中で賄う。

 ただ、自治体や住民が利用できなければ、税金の無駄遣いだ。保安院も文科省と同様、事故時にSPEEDI情報を入手していたにもかかわらず、公表しなかった前科がある。保安院は、マックス2の提供対象範囲について「原則的に原発立地自治体」と説明する。滋賀県などの隣接県は対象外になるかもしれないのだ。

 「道路や橋だけではなく、システム開発も利権化している。国が研究所や業者とつるんで予算額をつり上げている。しかも結果が問われることはない。今回のSPEEDIように、実際に試されたケースは例外だ」

 こう批判するのは、民間の環境シンクタンク「環境総合研究所」(東京)の青山貞一所長だ。

 同研究所は二十年前から最近、独自の予測モデルをパソコンで開発し、この一年は原発事故に対応させてきした。使用しているのは五万円台のパソコンだ。

 「二百五十`四方の広域を一`単位、しかも複雑な地形や建築物を三次元で考慮したシミュレーションだ。百三十億円も投じたSPEEDIと同じか、それ以上のことが、頭を使えば市民価格で実現できる」

 大飯原発で福島級の事故が発生した場合の拡散予測図では、近畿一帯が幅広く汚染される状況が一目瞭然だ。今後は、全国各地の原発の予測図を専用ホームページで順次公開していく。

 「国が情報を隠すのであれば、私たちがやるまでだ。原発がなくなれば一番いいが、再稼働されてしまえば、自己防衛しなければならない。日ごろから予測図を確認しておけば、いざという時に役立つ」