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伊方原発事故時の大分
への影響予測評価
(大分講演会概要)

B3次元シミュレーションの前提と方法

青山貞一

環境総合研究所顧問 東京都市大学名誉教授
掲載月日:2016年1月31日
独立系メディア E−wave Tokyo
無断転載禁

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◆ 3.シミュレーションの前提と方法

3−1 調査・予測の前提

 原発事故時に原発から周辺地域に飛散する放射性物質のシミュレーションモデルを構築するためには、福島第一原発で実際に起きた事故の影響を測定することからはじめなければなりません。

 2011年4月から6回にわたり東京から福島、さらに宮城まで現地測定調査を実施しました。

 以下は調査、予測の前提としての核種です。予測は全核種を対象として実施可能ですが、測定は、ヨウ素131とセシウム134,137を中心として行っています。


出典:青山貞一パワーポイント


出典:青山貞一パワーポイント

3−2 3次元流体シミュレーションの前提条件と必要データ

 地形を考慮した3次元流体シミュレーションでは次の4つの要因が重要なものとなり、かつ関連するデータが必要となります。このうち最も重要かつ入手が困難なのは、発生源の強度、すなわち原発が事故を起こし周辺に放射性物質を飛散させる強度です。


出典:青山貞一パワーポイント


1)発生源の強度
  〜逆シミュレーション手法を用いた発生源強度の推定〜 

 まず最初は、原発事故時の発生源強度の推定です。地震、津波などによって事故が起きることはあっても、事故における放射性物質の量や時間当たりの放射能放出量をあらかじめ予測することは物理的に不可能です。


出典:青山貞一パワーポイント


出典:青山貞一パワーポイント


出典:青山貞一パワーポイント


出典:青山貞一パワーポイント

 私達、環境総合研究所では、福島第一原発事故における各種の現地調査の結果と2011年3月15日に起きた福島第一原発事故時の各地のモニタリング・ポストにおける空間放射線量率及び同時刻の気象(風向、風速など)をもとに、独自に研究開発した逆シミュレーション手法を用い発生源強度を推定しています。

 この逆シミュレーション法は、後述するように環境総合研究所が独自開発した手法であり、原子力規制庁や国の機関、民間研究機関にもない技術です。

 以下は原発事故時の発生源強度を推定するための環境中の空間放射線量から原発事故時の発生源強度を推定するための逆シミュレーションモデルの概念図です。この逆シミュレーションにより、原発事故時に事故による発生源の強度をかなりの精度で把握することが可能となります。

 この逆シミュレーション手法は、厚木基地に隣接する産業廃棄物焼却施設からのダイオキシン類排出に関連した民事訴訟において、米国政府からの依頼により環境総合研究所(東京都目黒区)が新規に開発した方法です。この手法は、原因から結果を推定するのではなく、結果から原因を推定するものです。

 以下は学会に発表した論文の概要です。


出典:環境総合研究所(東京都目黒区)

参考;青山貞一、梶山正三、鷹取敦、環境大気濃度から排ガス濃度を推定する手法の研究
    −厚木米海軍基地に隣接する産廃焼却炉を事例として−
    http://eritokyo.jp/independent/etc/prtr/atsugi1.html
    出典:境行政改革フォーラム2001年度 研究発表会

 この手法を用いれば、原発の周辺に設置されているモニタリング・ポスト(MP)と風向風速計のデータをもとに、実時間に近い短時間のうちに原発事故から排出される放射能の強度を推計し、3次元流体シミュレーションを開始することが出来ます。これは世界でもあまり例のない手法と言えます。

 下は福島第一原発事故時の発生源強度を逆シミュレーションする上で使った測定データの一部です。

広域データ1

出典:環境総合研究所(東京都目黒区)

広域データ2

出典:環境総合研究所(東京都目黒区)

原発周辺データ

出典:環境総合研究所(東京都目黒区)


出典:環境総合研究所(東京都目黒区)


◆伊方原発における逆シミュレーションの可能性について

 下図は伊方原発におけるモニタリングポストの位置と風向表示です。環境総研の逆シミュレーションは、これらモニタリングポストの線量データと風向、それに地形から事故時の発生強度を推定することが出来ます。

 すなわち環境総研が研究開発した発生源強度を得るための逆シミュレーション手法は、要約すると、複数のモニタリングポスト(位置、標高)と風向、風速(m/s)、それに周辺の地形データをもとに発生源強度を得るものです。発生源強度は事故時にほぼ数秒で得ることが出来ます。


伊方原発におけるモニタリングポストの位置と風向表示
出典:四国電力

 以下は伊方原発周辺の地形図です。原発が設置していある面とモニタリングポストが設置されている面の地形、標高が著しく異なるためいわゆるダウンドラフト現象が起きることが予想されます。したがって、それらダウンドラフト現象を考慮して逆シミュレーションを行うことがきわめて重要となります。


伊方原発の地形      出典:ヤフー地図


伊方原発の地形(標高)    出典:ヤフー地図

 さらに、愛媛県全体には以下のように多くのモニタリング・ポストがあるので、これらを用いれば逆シミュレーションは十分可能です。


出典:原子力規制庁


(2)伊方原発における気象データ

 次は気象です。

 下図は年間を通じた伊方原発周辺の風配図です。それをみると原発に近い瀬戸アメダスは、夏が南風、冬が北風が卓越していることが分かります。これらのデータだけだと大分方向に拡散する可能性が少なく見えます。


伊方原発周辺の年間気象 出典:環境総合研究所(東京都目黒区)
元データ:気象庁アメダス


伊方原発周辺の月別気象詳細  出典:環境総合研究所(東京都目黒区)

 しかし、原発事故時の影響は、それこそ1時間なり2時間でも大分方向、すなわち東系の風が吹きさらに大分に雨が降っていれば、大分が汚染され続けます。福島第一原発事故時に、本来北北西ないし北西の風が卓越する3月15日に、何と東系の風、正確には東南東の風が吹き、結果的に原発から西北西の飯舘村そして福島市方向に放射性物質が大量に拡散したことを思い起こします。

 すなわち、風向は気象庁の年間風配図ではなく、そのときの風が重要であり、伊方の場合でも東系の風が一時でも吹けば、大分各地は飯舘村や福島市のようになる可能性は十分にあるのです。


出典:環境総合研究所(東京都目黒区)


出典:環境総合研究所(東京都目黒区)


(3)伊方原発における地形データ

 下は伊方原発周辺の詳細地形図です。非常に複雑なことが分かります。放射線が拡散する風下方向だけでなく、背後に山や谷がある場合でも大きな影響を受けます。


伊方原発周辺の地形 出典:環境総合研究所(東京都目黒区)


伊方原発から見た大分県方面の地形  出典:青山貞一講演時使用パワーポイント


佐田岬と伊方原発   出典:青山貞一講演時使用パワーポイント


佐田岬の突端と豊後水道、大分県諸地域との位置関係
  出典:青山貞一講演時使用パワーポイント

◆伊方原発における地理データ


伊方原発周辺の土地利用


伊方原発周辺の道路網


(4)測定条件 地表面の素度について 
   〜福島県内現地調査

 以下は2011年6月17日、福島県の各地域の放射線量を測定したときの調査ルートです。調査は東京から開始し、福島県内では図の矢印の経路を自動測定しながら走行しました。このときの現地調査ルートは概ね次の通りです。

 横浜市出発(2011年6月17日)→東京特別区縦断→東北自動車道→宇都宮市(1泊)→那須塩原→白河市→西郷村→白河市→天栄村→須賀川市→郡山市→本宮市→大玉村→二本松市→福島大学→福島市街地→二本松市(2泊目)→福島市→川俣町→飯舘村→南相馬市→相馬市→南相馬市→川俣町→山木屋(川俣町)→二本松市(3泊目)→本宮市→三春町→田村市→小野町→いわき市→広野町→楢葉町→いわき市→北茨城市→常磐自動車道→つくば市→柏市→東京特別区。

 なお、要所で車をとめてマニュアルで地表面及び地上1mの高さでγ線を測定しました。


福島放射線現地調査ルート図
出典:株式会社環境総合研究 

  以下は福島県内での放射線量測定時に撮影した写真です。いずれも地表と地上1mを測定しています。測定器は環境総合研究所と東京都市大学の4台を用いています。


出典:青山貞一パワーポイント


出典:青山貞一パワーポイント

 以下は地上1mの高さで測定した測定結果です。東京に近い埼玉県の戸田橋で0.06μSv/hであった線量は、福島県内に入ると上昇し、とくに飯舘村では3.71μSv/hにまで上昇しました。

 以下で一基礎自治体毎に数10から数100のデータの平均を示しています。

 福島放射線現地調査結果(移動測定結果の主要市町村別平均値)

出典:環境総合研究所(東京都品川区、現在目黒区)

 ところで測定結果を見ると、地点別の放射線量の高低とは別に、地表面における測定結果が地上1m高の測定結果に比べ、約2〜3倍も高いことが分かりました。これは、福島第一原発から飛散、拡散してきた放射性物質が雨や重力により地面に沈降し、地面から放射線を地上に向けて輻射していることが原因と推察されます。

 これは事故後、原発から放射性物質が周辺地域に移流、拡散する際に降雨の有無が、その後の積算線量に大いに関係することを示すものと言えます。すなわち、放射性物質がある地域を風により通過して行ったものなのか、それとも降雨により当該地域に沈降し、そこから地上に向け放射線を放射しているのかについての見極めが有用なものとなります。

 さらに拡散し重量により放射性物質が地表に沈降する際、そこに樹木、立ち木、コケなどがある場合には、それらに放射性物質が付着することにより、そこから放射線を空中に向けて放射することになることも分かりました。一方、地面がアスファルトやコンクリートで覆われている場合には、降雨により表面に沈降した放射性物質は洗い流され、当該地点で測定した線量が低くなることも判明しました。


つづく