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国土強靱化で幸福はこない

アマルフィ海岸に学ぶ持続可能社会

青山貞一・池田こみち

掲載月日:2013年5月25日
独立系メディア E−wave Tokyo

無断転載禁


 この、6月3日〜6月14日の予定で、ここ5年間継続して現地調査ででかけていますイタリア南部のソレント半島、アマルフィ海岸で第3回目の現地調査を行います。

◆アマルフィ海岸とは


アマルフィ市役所にある古代アマルフィ海洋共和国の紋章
撮影:青山貞一

 2008年の時は、ローマでスリに現金、カードを取られ、レンタカーも借りられず、1日900円ほどの周遊の路線バスで現地に行きました(笑い)。

 2011年の2回目は、着いて早々に日本で3.11の地震、津波そして原発事故が起き、会う人会う人、「貴方は福島原発事故を知っているか?」ということになりました。帰国ではアリタリア航空が成田に飛ばず、半日遅れやっとのことで関空経由で帰ってきました。

 同地の魅力を最初に知ったのは、長野県に特別公務員として環境保全研究所長と知事政策顧問で赴任していたとき、田中康夫知事(当時)がよくイタリアに私費ででかけており、ポジターノやバーリなどからメールをよこしていたときです。

 イタリアにはそれ以前から、セベソはじめあちこち現地調査や論文発表などででかけていましたが、2008年、スリにあいながら路線バスを使いやっとのことででかけたアマルフィ海岸で忽然と出現する希有で秀逸な景観に驚嘆しました。

◆アマルフィ海岸の中心地、アマルフィ


  
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S10 2008年3月

 しかも、この地の地形は岩手県三陸に近く、切り立った山がティラニア海に劇的に落ちる急傾斜地のリアスであり、その連たんする急斜面の崖に20以上の自治体(コムーネ)がへばり付くように9世紀以来つづいている様は、何とも魅力的なのです。

◆崖にカラフルな家や店がへばりつくポジターノ


ポジターノにて  撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S10


ポジターノでみた紺碧の地中海(ティラニア海)
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S10

 イタリアは日本同様、それ以上の地震大国、とくに南イタリアは古くから巨大地震と津波が何度も襲っており、あるときは8万人以上が亡くなっています。

 そんな地質学、地形学的特徴をもつアマルフィ海岸が、なぜ9世紀以降現在まで、小さくともキラリと光る希有で秀逸なまちを持続してきたかに魅せられました。

 ここでは、9世紀からつづくような曲がりくねった道路、イタリア街道(Corso Italia)など歴史的道路はあっても、日本の三陸のような立派な高速道路や高規格道路は一切ありません。もちろん、いつ再舗装されたのかも分からない道路ばかりです。

 その意味で同じような地形をもつ日本の三陸地方は、何度も何度も津波で壊滅的な影響を受けながら、住居の高台移転はなし崩しとなり、鉄とコンクリートによる国土強靱化的な道路、橋梁づくりが行われ、「国土交通省功成って三陸海岸のまち枯る」的な、至って官僚的なまちづくりが繰り返されてきたと思います。

◆青山貞一:繰り返す津波被害の半分は人災である? You Tube

 以下は10世紀以上、地震、津波を防御してきたアマルフィ海岸、ソレント地域の立体的な土地利用イメージです。


アマルフィタイプのイメージ  
出典:青山貞一、池田こみち:三陸海岸 津波被災地 現地調査O復興に向けての提案-2


ソレント(ドブロブニク)タイプのイメージ
出典:青山貞一、池田こみち:三陸海岸 津波被災地 現地調査O復興に向けての提案-2


サンタニェーロ側から見たソレント
この角度でもやはり切り立った断崖絶壁の海岸線が続く

撮影:青山貞一

 ここではオリーブ、オレンジなどの農業、地中海漁業、それにおそらく世界有数の世界遺産となっている海岸の観光が主要産業です。

 しかも、イスラム文化の洗礼を受けたことからアマルフィ大聖堂はじめ多くの主要建築物が他には見られないキリスト教文明とイスラム文明のアマルガムではなく、化合物的な異質な美しさがあります。


アマルフィ大聖堂 
撮影:青山貞一

◆9世紀頃から鰯とその加工で北イタリアまでその名が
  とどろいていたアマルフィ海岸東部にあるチェターラ



チェターラの漁港に着いた漁船?  撮影:青山貞一 デジカメ Nikon CoolPix S8

 日本では持続可能社会など持続可能という言葉が蔓延していますが、アマルフィやソレントの現地を見ていると、持続可能社会の本来の意味がよくわかります。

 イタリアはチェルノブイリ原発事故以降、原発をすべて捨て去っていることは有名ですが、ローマ、フィレンツェ、ミラノなどの大都市は、今でもエネルギー消費が多く、海外から電力を輸入するなどで凌いでいます。

 しかし、同じイタリアでもひとたびアマルフィなど南イタリアの地方都市に行くと、10世紀続いている小さなまちや村に出会えます。そこでは、小さいがキラリと光る、歴史と文化それに自然、生活、家族、友人をたいせつにする、質素ではあるが精神的にリッチで幸福な持続可能社会をみることができるのです。

 今回、環境行政改革フォーラムの論文集にそのサワリを書きましたが、そのひとつは主産業の漁業は海面で、しかし、住居、生活は高台をモットーにマルフィ海岸やソレントのまちづくりが行われてきたことにあります。

 ぜひとも、日本の三陸でも国土交通省主導の国土強靱化計画の延長ではない、アマルフィ海岸やソレント半島を見習ったまちづくりを切望する次第です。