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鳩山首相政治献金問題、
元公設秘書立件へ」
との報道について
郷原信郎
第77回定例記者レク概要 2009.11.25
名城大学コンプライアンス研究センター長
Dec. 2009
独立系メディア「今日のコラム」

 昨日、今日の記者レクのテーマとして二つご連絡したのですが、昨日の夕方あたりから鳩山首相の政治献金の問題もいろいろ報道されていますので、この問題についてもコメントをしようと考え、急遽テーマとして追加しました。

 まず、この鳩山首相の献金問題ですが、「元公設秘書立件へ」と報じられています。このこと自体は前から予測されていたところだろうと思います。お配りしたのは11月の中旬に共同通信の社会部長会で講演したときの、該当部分のスライドなんですが、とにかく元公設秘書の違反の成立は明らかで、しかも、その違反の事実が当初の会見で鳩山首相が認めていた、政治資金収支報告書に寄付者が架空人だとか、亡くなった人の名前で書いてあったということだけではなくて、小口の匿名献金についても虚偽記入であったようだということです。それを含めると、違反に当たる寄附の金額が2億円ぐらいに上ると見られるということですが、このあたりのところはこれまでに報道されているところからも概ね明らかで、とくに予想に反する事態ということではないわけです。

 問題はその中身の問題です。お金がどこから来ているのかとか、税務上の問題が発生するのかどうかとか、違反が成立するとして、はたしてこの事件についての処分はどの程度が相当なのか。量刑の問題ですね。そのあたりが焦点になってくるのかなと思います。

 この社会部長会で使ったスライドでも、サブタイトルとして書いたわけですが、「検察にとって煮ても焼いても食えない事件」というふうに私は見ているんですが、まさにそういう事件であるというところが、最後の決着のところがどうなるのか、なんとも予想しがたい部分が出て来ている原因ではないかと思います。

 金額的には、過去の政治資金規正法違反、収支報告書の虚偽記入の事件と比較しても、相当多額の違反事実であることは間違いないと思います。そして、結局それがどういうことかというと、政治資金がどこから提供されていたのか、ということに関して、実は自分、あるいは自分の親族の方からの資金であるのに、それが他人の個人から小口で政治資金の提供を受けていたように収支報告書に書いていたということです。そういう意味では政治資金の透明性が害されたことは間違いないわけで、政治資金規正法の目的から言うと、許容しがたい事件だという評価になるんだと思います。

 ただ、一方で今までこの政治資金規正法違反という事件が刑事事件として、検察の処分の中でどう扱われてきたかというと、政治資金の透明性を害したから違反だ、悪質だというような観点からばかり、政治資金規正法違反が考えられてきたかというと、必ずしもそうじゃないと思うんですね。やはり旧来的な贈収賄事件までは立証はできないけども、贈収賄事件的な事件ということで、初めて犯罪としての悪質性についてピンと来るというような考え方が行なわれてきたというのが実情ではないかと思います。

 そういう観点からすると、なんと言っても今回の事件はそういう第三者の企業とか故人から多額の献金をもらったという事件じゃないものですから、なかなか刑事事件の処罰価値という面でピンと来ない。そして、検察もおそらくいまひとつピンと来ないと思いますけど、なによりも国民の評価もかなり醒めてるんじゃないかという気がします。2億円もの政治資金規正法違反だ、とんでもないと、多くの国民が思ってるかというと、必ずしもそうではなくて、自民党がいくら国会で追及しても、そして新聞が一面で書いても、いまひとつ反応が鈍い。ということで、これは純粋法律的に考えると、けっこうな犯罪だし、それなりの処分をしてもおかしくないのですが、どうもそこのところがピンと来ないし、国民も醒めてる、冷ややかということで、煮ても焼いても食えないということになるんではないかというのが、私の印象です。

 ですから結局、問題は税務上の問題というところにかなりポイントが絞られてくるんじゃないかという感じがします。一つは、架空の寄付の事実をでっち上げていた、要するに寄付をしてもいない人から寄付を受けていたことにしていたことに関して、寄付金の控除証明書を寄付をしてもいない人に渡していたという事実があったと言われています。もし、それが最初からそういう人が寄付をした事実がないのに、寄付をしたようにして税金を免れるということに加担する目的で行なわれていたとすると、脱税への加担ということで、悪質な行為ということになります。ここは、今回の行為を評価する上での一つのポイントになることは間違いないだろうと思います。

 二番目に、まさに今回、問題になっているところですけども、もし資金が親族から出てる場合です。実のお母さんなどから出てる場合、この場合、税務上の問題はどうなるんだろうか。税務上の問題というのは、課税当局の見解と、最終的に司法上の判断がどうなるのかということ、そしてさらに払わなくちゃいけない税金を払ってなかった場合に、それが重加算税の対象になったり、あるいは脱税というふうに言われるかという、いろんな面で考えてみないといけないと思います。

 まず第一に、もしこのお金が実のお母さんから来たお金で、もろにそのお母さんの方のお金がボーンと政治資金管理団体に提供されそれが架空人の名義とか、死んだ人の名義の寄附とされていたというのは、それはちゃんと開示されてなかったという意味で、政治資金収支報告書の虚偽記入であると同時に、その個人の寄付の上限を超えるということで、形式上は政治資金規正法に違反する寄付ということになります。

 その場合に、税務上の問題がどうなるかということですが、たしかに資金管理団体も、政治団体も法人格がありませんから、権利能力なき社団ということになると。権利能力なき社団であれば、その代表者に対しての贈与というふうに見なされて、贈与税の対象になる可能性があるということにはなろうかと思います。ですから、税務当局としてはそれが贈与税の対象だ、という見解で課税しようとしてくる可能性は当然あると思います。

 ただ、その考え方が最終的に司法上の判断として維持されるかどうかというところは、これはけっこう微妙なんじゃないかと思うんです。過去にも政治資金として提供されたものを個人の用途で使ってるんじゃないかという疑いが出た場合に、それをどうやって所得税の対象にするのかというような問題、いろんなところでこの問題というのは刑事事件の処理に関連しても出てくる問題でした。

 ここの政治資金と個人の資金の線引きというのは、なかなか簡単じゃないんですね。そうなると、たしかにこれは形式上はその個人に帰属するということなのかもしれないけれども、その実態は政治活動のために資金管理団体に出されて、政治活動のために使われているということになると、それ、本当に個人に帰属させていいのかというところに関して、いろいろ主張する余地は出てくるように思われます。そうすると、そういう判断が微妙な問題については、脱税がどうのこうのという問題にはなりにくいように思います。そういう意味で、親族の資金であった場合の税務上の問題というのが、脱税ということになる可能性は低いような感じがします。

 報道によると、母親からの貸付金だったというようなことが言われていますが、これは事実がそうかどうか、まったくわかりません。そうであったら、ほとんど税務署も政治資金規正法上も問題ないわけですが、もし仮に貸付金ではなくて、実のお母さんから資金がボーンと資金管理団体に入っていたとしても、税務上、非常に微妙な問題があるということだと思います。お母さん自体は、提供したお金がどう使われるかよくわからないまま、お金を出していたという場合はどうなるかということになると、話は別になってきますし、この辺は事実関係がわからないと、なかなか簡単には判断ができないという感じがします。

 最後にこの事件の量刑をどう考えるかということなのですが、これまたむずかしい問題ですね。形式的に政治資金規正法違反の規模という面から言うと、たしかに先ほども言いましたように、2億円の政治資金規正法違反というのは、かなりの金額です。当然、処分としては、公判請求だ、禁錮刑求刑だというふうにも思えるわけですが、ただ、そこが先ほども言いましたような、刑事事件としての処理価値というのはなかなか微妙な面があることも否定できないと思います。

 現に過去の政治資金規正法違反の量刑というのははっきりした基準にしたがってやられているわけではなくて、けっこう揺れ動いているわけです。比較的最近の例で言えば、日歯連事件の1億円のヤミ献金問題で、政治家では村岡氏は起訴され、事務局長も起訴された。しかし、大物の政治家は不起訴になったと。とりわけ、たしか野中氏は起訴猶予になったわけです。その量刑と比べると、プラス面、マイナス面といろいろあるわけです。たしかに今回、処分が問題になっているのは鳩山氏の元秘書ですから、レベル的に言えば、日歯連事件で起訴された派閥の事務局長と同じぐらいのレベルですけども。

 ただ、刑事事件的に悪質性ということからいうと、明らかに日歯連という団体が政治上の何らかのメリットを期待して送ったヤミ献金で悪質ですし、そういったもろもろのバランスを考えたときに、あの事件での起訴猶予という処分があり得たことと、今回の事件の量刑の関係をどう考えるか、ここもなかなか微妙なところかなという感じがします。略式請求なのか、公判請求なのか、最終的に検察がどう判断するのか、微妙なところだろうと思います。

 いずれにしても、この事件、私は以前から総理大臣の政治資金の問題が検察の捜査の対象になり、最終的に処分の対象になるというのは異例の事態で、ほんとに慎重にこの問題をみんなで見守らないといけない。民主党側も、そして鳩山総理大臣の側も発言も慎重に行なわないといけないということをずっと言い続けてきましたが、ことここに至ると、改めてそう思います。

 本当に最後、こういう非常に微妙で、「煮ても焼いても食えない事件」を検察がどう食うかという問題ですから、やっぱり食べ方が信頼できるということじゃないといけないと思うんですね。そういう面で、この事件に対する検察の最終的な処分の判断を静かに見守るべきではないかと思います。