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大マスコミは
なぜ政府批判に急変したのか

日刊ゲンダイ
Jan. 2010


大マスコミの怪しさに唖然


 今年の正月の新聞は、さながら小沢疑惑一色だった。「小沢氏から現金4億円」(読売)、「東京地検 任意聴取も検討」(産経)、「(小沢の元秘書の)石川議員 在宅起訴へ」(朝日)と、こんな調子で、いずれも1面デカデカである。
小沢一郎8
 見出しだけ見ると、明日にでも逮捕されそうな勢いなのだが、もちろん、そういう話はない。それじゃあ、今後、疑惑が炸裂するのかというと、そうでもなさそうだ。

 なにしろ、いくら紙面を読んでも、何が疑惑なのかさっぱり分からないのである。

 各紙とも小沢の資金管理団体「陸山会」が2004年に購入した世田谷区の土地取引がおかしいという。

 土地代金の3億4000万円には小沢の資金、4億円が充てられたのに収支報告書に記載がない。

 そのうえ、小沢サイドは当初、定期預金を担保に銀行から4億円を借りたと説明していたのに、融資の実行前に支払いが終わっている――とまあ、こういうことを書き連ね、「何か裏があるのだろう」と勘ぐるのだが、この先をどこも書いていない。

 確かに、この4億円が怪しい裏金ならば、ひょっとしたら事件になるかもしれない。しかし、現時点での疑惑はこの程度で、雲をつかむような話なのだ。水谷建設からの裏金じゃねぇか、なんて報道もあったが、こちらは1億円とか5000万円の話で4億円とはずいぶん差がある。

 要するに、何が疑惑なのかも分からないまま、ただ「怪しい」とバカ騒ぎし、それが元旦の紙面になった。少なくとも読者にはそう見えるのだ。

大マスコミも民主党の敵だったか

 この“乱暴さ”には少なからず、驚いてしまう。

 天下の大新聞が“疑惑”にもならない段階で針小棒大に騒ぐ。それも幹事長、小沢の疑惑だ。自民党政権であれば、絶対にこんな「無理」はしないはずだ。それが相手が民主党政権だと、競うように“書き飛ばす”。

 各紙の小沢嫌いもあるのだろうが、この辺に大マスコミの民主党に対するスタンスが透けて見えてくるのである。

 読売新聞社会部で数々のスクープを連発した大谷昭宏氏も呆れていた。

 「4億円の原資について、ある程度の見通しがあり、その金が何かの見返りである可能性があるのであれば、疑獄事件として1面で大きく報じるのも分かります。しかし、現時点では政治資金収支報告書に4億円の収入の不記載があったという、それだけの話でしょう。

 それなのに元旦号で書いたのは、明らかに検察のリークに乗っかったのです。捜査の経緯をリークして、民主党政権にダメージを与えたいのが検察の思惑。一方、大マスコミも民主党政権は面白くない。なにしろ、今の新聞社のトップ、幹部は自民党の派閥担当だったような人ばかりですからね。両者の思惑が一致して、こういう紙面になるのです」

 大谷氏から見ても、きわめて意図的な作り方だというのである。こんな新聞が相手では、民主党も大変だ。鳩山政権の敵は官僚だけではない。大マスコミも牙をむいている。それが最近、ますます顕著になってきたのである。
難クセばかりつけて肝心のことは書かない

 こう考えると、大新聞が鳩山故人献金疑惑にことのほか執拗なのも納得だ。金に汚かったのは自民なのか、民主なのか。メディアだって百も承知のくせに、鳩山を攻め立てる。

 昨年末の予算編成の報道もひどかった。年内に編成できるのか?国債発行は44兆円以内に抑えることができるのか? マニフェストの実行はどうした?とこんな難癖ばかりつけて、肝心のことはさっぱり書かない。

 民主党は昨年9月29日の閣議で「マニフェストに従い新規施策を実行するためにすべての予算を組み替え、新たな財源を生み出す」方針を閣議決定した。
そのためにシーリングをはずし、概算要求は膨らんだのだ。

 さらに10月23日にも大胆な閣議決定がなされた。

@複数年度を視野に入れた予算編成
A予算編成過程の透明化
B年度末の使いきりの排除
C政策達成度の評価性の導入だ。

 菅直人はこれらを評して「革命的」と自画自賛していたが、こうした改革を政権発足後、わずかな間に同時並行でこなし、かつ事業仕分けの公開など、できることからどんどん実行に移していけば、なるほど、予算編成で多少の混乱が出るのはしょうがない。これが政権交代なのである。

大マスコミも事業仕分けされる運命
事業仕分け3 
それなのに、大メディアは旧政権と比較して「モタモタするな」と批判する。事業仕分けに「横暴だ」とかみつく。

 普天間見直しにしてもそうだ。二言目には日米関係に亀裂という。

 「米国人に聞いても亀裂という人もいれば、そうでもないという人もいる。亀裂という人だけを集めて書けば、日米関係は大変という記事になる」(元AP通信記者でビデオジャーナリストの神保哲生氏)

 一事が万事、こんな調子なのである。

 ようやく政権交代が実現し、国民主導の政治が動き出そうとしているのに、「そりゃないだろう」と言いたくなるのだ。

 もちろん、権力を批判するのはメディアの仕事だ。だから、批判記事は大いに結構。しかし、彼らは自民党政権でもそうだったか。違うから怪しいのだ。

 「大メディアが民主党にかくも冷淡なのは、その改革路線が自分たちにとって不都合だと考える幹部がいるからでしょう。

 彼らが派閥の担当記者出身だったというだけでなく、民主党は記者クラブをオープンにさせ、TVと新聞の資本・業務提携にも規制をかけようとしている。

 いずれも海外では当たり前のことなのに、日本のメディアは規制で守られている。メディアは決して報じないが、既得権益の恩恵という点では、まったく手をつっこまれていないのが大新聞・テレビなのです。

 しかし、民主党政権になれば聖域はなくなる。だから、彼らは新政権に批判的になる。同じような境遇の業界とつるんで、抵抗するわけです」
(神保哲生氏=前出)

 民主党政権では党と政府が一体化し、自民党にあったような“根回し機関”の部会や政調もなくなった。

 官僚の会見も中止になり、次官会議は廃止になった。記者が情報を取れるところは少なくなり、ほとんどの情報が公開されつつある。こうしたこともメディアを苛立たせている一因だろう。このままではメディアも“事業仕分け”されてしまう。飯の食い上げになるわけだ。

 政権交代を国民的視点ではなく、自分たちの損得で論評すれば、民主党政権への点は辛くなる。

 大メディアが民主党政権にかくも厳しいのは、政権交代を意味を直視しようとせず、あえて目をそらしているからとしか思えない。

(日刊ゲンダイ 20010/01/04 掲載)