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退避等措置計画編における

警戒事象・特定事象・緊急事態

青山貞一

東京都市大学名誉教授・環境総合研究所顧問
掲載月日:2013年7月19日
独立系メディア E−wave Tokyo
無断転載禁

 
  ニセコ町の原子力防災計画における「避難等措置計画」は、大きな地震や津波が起き、あるいは他の要因により原発に苛酷な事故が起きた場合、電気事業者から緊急事態の通報が原子力規制委員会などに行き、最終的にニセコ町長が町民に待避、退避等の判断を行い、それを受けて町民等に広報、指示伝達する流れ、それにより町民等が屋内退避したり、バスなどで避難することに係わるものである。。

 これらは、いかなる事態が緊急事態に当たるのか、ニセコ町がどうやって住民等に広報、指示伝達するのか、さらにどの方向に向かい、どのような手段で退避するのか等、いずれも重要なものである。

 おそらく、すなわち第三章 緊急事態における配備体制の第一節 事故発通報の流れは、原子力防災計画、避難等措置計画のなかで、もっとも重要なことであると思われる。

 第三章 緊急事態における配備体制
  第一節 事故発通報の流れ
  第二節 各事態における応急活動の内容

 この流れは、@警戒事象  A特定事象さらに B原子力緊急事態 の3つに分かれる。それぞれは、以下のように規定されている。
 
 @警戒事象 後志総合振興局内(UPZ自治体がすべて含まれる)で震度6弱以上の
         地震、泊村(原発立地自治体)で震度5弱以上の地震が発生した場合。
         北海道から大津波情報が発せされた場合
         原子力規制庁の審議会又は原子力防災課事故対処室長が警戒を必要
         と認める原子炉施設の重要な故障等

 A特定事象 これには、原子力災害対策特別措置法の第10条に基づく流れである。
         以下にその全容を示す。第10条は国、道、所在・関連市町村への通報
         義務となっている。

通報事象と基準 第 10 条 (国・県・所在市町村・関係隣接市町村への通報義務)
敷地境界付近での放射線量の検出 5μSv/h以上
排気塔等からの放出による敷地境界での放射線量の検出 5μSv/h相当以上、累積放射量
50μSv/h以上に相当
火災、爆発等に起因した管理区域外での放射線量又は放射性物質 50μSv/h以上又は
5μSv/h相当以上
事業所外運搬での放射線量の検出 100μSv/h以上
臨界事象(原子炉外) 臨界事故発生あるいはその蓋然性が高い

第 10 条 (国・県・所在市町村・関係隣接市町村への通報義務)
@通常の制御棒挿入による原子炉の停止ができない
A原子炉冷却材の漏洩による非常用炉心冷却装置の作動
B全ての給水機能の喪失時に非常用炉心冷却装置が作動しない
C原子炉から熱を除去する機能の喪失時に残留熱を除去する機能が喪失
D全ての交流電源からの電気供給が停止し、その状態が 5分以上継続
E直流電源が一となる状態が 5 分以上継続
F原子炉停止時に原子炉水位が非常用炉心冷却装置が作動する水位まで低下
G燃料プールの水位が燃料が露出する水位まで低下
H中央制御室が使用できなくなることによる原子炉停止機能又は残留熱除去機能が喪失

B原子力緊急事態 これには、原子力災害対策特別措置法の第15条の流れで
         ある。以下にその全容を示す。第15条は原子力緊急事態として通報
         義務となっている。

通報事象と基準 第 15 条 (原子力緊急事態)
敷地境界付近での放射線量の検出 500μSv/h以上
排気塔等からの放出による敷地境界での放射線量の検出 500μSv/h相当以上、累積放射量
5mSv/h以上に相当
火災、爆発等に起因した管理区域外での放射線量又は放射性物質 5mSv/h以上又は
500μSv/h相当以上
事業所外運搬での放射線量の検出 10mSv/h以上
臨界事象(原子炉外) 臨界状態

 なお、第15条は原子力緊急事態である。

第 15 条 (原子力緊急事態)
@原子炉の全ての停止機能が喪失
A原子炉冷却材が漏洩した場合に非常用炉心冷却装置による原子炉への注水ができない
B原子炉格納容器内の圧力が当該格納容器設計上の最高使用圧力に到達
C残留熱を除去する機能が喪失した時に原子炉格納容器の圧力抑制機能が喪失
D全ての交流電源からの電気供給が停止し、原子炉を冷却する全ての機能が喪失
E全ての直流電源が停止した状態が 5 分以上継続
F原子炉容器内の炉心の溶解
G原子炉容器内の水位が燃料が露出する水位まで低下
H中央制御室及び中央制御室外において、原子炉停止機能又は残留熱除去機能が喪失
       
  字が小さく見にくいが、特定事象と 原子力緊急事態 の全容を一表にして示す。

出典:原子力規制委員会

 警戒事象は、原子力規制委員会→北海道(→総合振興局・振興局→その他の道内市町村)→関係町村(PAZ3自治体、UPZ10自治体)さらに、関係防止機関として、岩内警察署、倶知安・余市・寿郡警察署、岩内・寿郡地方消防組合消防本部、要諦山麓・北後志消防組合本部に通報される仕組みとなっている。

 特定事象は原子力事業者(原子力防災管理者)である電力会社から同時並列に国の原子力規制委員会、北海道庁、関係町村(PAZ3自治体、UPZの10自治体)、さらに、関係防止機関として、岩内警察署、倶知安・余市・寿郡警察署、岩内・寿郡地方消防組合消防本部、要諦山麓・北後志消防組合本部に通報流れる仕組みとなっている。

 緊急事態宣言は、上記の原子力緊急事態により内閣総理大臣が緊急事態を宣言を宣言することを指す。 

 以下は、前出のニセコ町における初期レベル、警戒レベル、緊急事態レベルに対応した体制である。


 出典:ニセコ町原子力防災計画

 ここでいくつかの疑義がある。緊急事態レベル(敷地境界付近等)で500μSv/hと言う非常に高いレベルの放射線量が検出されないと、第3非常配備、すなわち緊急事態レベルにならないという問題である。

 確かに、内閣総理大臣の緊急事態宣言により町長等が最終的に町民の待避、避難などを伴う緊急事態レベルであるとしても、福島第一原発事故の場合、その段階では、風向、風速、地形によるが数10km離れた地点で50μSv/hが観測されている。

 2013年4月以降、UPZ圏に多数設置された放射線量測定器は、設置管理者である国以外に北海道、市町村、さらに住民まで誰でも見ることが可能であり、初期レベル以降、測定値が急激に上昇している場合には、町長の判断で緊急事態レベルに準ずる措置ができないものかと考える。

 また敷地境界付近ないし施設内での5mSv/h〜10mSv/hは、原発施設の作業員にとっても外部被曝量として非常に高い値であり、同時に吸引する放射性物質などからの内部被曝量をあわせると、暴露時間いかんでは健康、生命に影響を及ぼす値であると推察できることもあり、第 15 条 (原子力緊急事態)の現場における事態、状況との関連もあるが、より低いレベルで緊急事態レベルとすべきであろう。


<参考> EAL(緊急活動レベル)及びOIL(行政介入レベル)について

 ところで、第6回委員会では、7月下旬に原子力規制委員会が公表したいわゆる新基準のうち、EAL(緊急活動レベル)、OIL(待避・退避等のための行政介入レベル)については、依然として明確になっていなかった。

 従来から原子力防災計画策定委員会で議論してきたのは、それらEAL及びOILのレベルの値、たとえばEALが時間当たりで500μSv/h、OILが時間当たりで50μSvという値の妥当性である。

 これは上記の緊急事態レベルに相当するものであろうが、やはり高すぎるのではないか、そしてより低いOILレベルあるいは時間当たりの上昇率などに基づき、ニセコ町長が独自の行政判断を下せないものかなどについて議論してきた。

 これらレベルは、従来から世界各国のレベルを見ると、いずれも非常に高いことが分かる。

 以下は委員会当初に青山が参考資料として提出したものである。ただし、以下は原発から10km程度離れた地域のであり、30km圏(UPZ)のものではない。

 累積線量を暴露時間で単純に割った値は、屋内待避で約200μSv/h、避難で約300μSv/hであり、ともに非常に高い値となっている。仮にこの値の半分が等価線量(内部被曝)であるとしても、屋内待避で約100μSv/h、避難で約150μSv/hであり、依然として高い。

 もっぱら、以下の各国の行政介入レベルは原発から5〜10km程度離れた地域における値である。


・16カ国の屋内退避基準(行政介入レベル)

実効線量                          原発からの距離
16カ国の幅             5〜10mSv
全体の2/3の国          10mSv                   
カナダ        1日      5mSv        10km        
オーストラリア    2日      10mSv                   
フランス        2日      10mSv        10km        
ドイツ         2日      10mSv
スウェーデン     2日      10mSv       12〜15km
米国         4日      10〜50mSv    
日本(日数不明)          10〜50mSv    8〜10km

・16カ国の避難基準(行政介入レベル) 

実効線量
16カ国の幅            10〜300mSv   原発からの距離
カナダ        7日      50mSv       7km
フランス       7日      50mSv       5km
日本         7日      50mSv
今回の避難基準  7日     100mSv
米国         4日     10〜50mSv
ドイツ         7日      100mSv
スウェーデン    7日      50mSv       12〜15km

・16カ国の等価線量屋外退避基準(行政の介入レベル)

等価線量
16カ国の幅             10〜500 mSv
日本        7日       500mSv

出典:原子力規制委員会

 日本の原子力規制委員会は、暫定値としてEALを500μSv/h、UPZ(30km圏)を50μSv/hを提案している。このOILは、以下の諸外国の値の半分以下に相当するが、福島第一原発事故直後の浪江町、飯舘村など約30km圏で50〜60μSv/hが計測されている。このときの大熊町の福島第一原発の正門近くで200μSv/hが観測されていることからしても、このOILは依然と高いと思える。

 以下は、単純な正規プリュームモデルを使い有効煙突高が50mと100mの場合の風下30km地点での地表面での1時間当たりの空間放射線量(μSv/h)をシミュレーションしたものである。ただし、地形は一切考慮していない。大気安定度はDである。有効煙突高が100mの場合、30km風下で20μSv/hが計算値としてでている。したがって、せいぜい原発施設近くでEALが200μSv/hの場合、UPZ圏でOILが20μSv/h程度がぎりぎり妥当なレベルではなかろうか?


図  有効煙突高が50mと100mの場合の風下30km地点での
    地表面での1時間当たりの空間放射線量の計算値
出典:青山貞一、鷹取敦、環境総合研究所(東京)

 以下は原子力規制委員会のPAZ、,UPZ内、UPZ外の3つのゾーンに対応した防護措置実施のフローの例である。以下では、原発事故数時間以内から数日後、1週間以内、一ヶ月以内の時間経過との関連においてOIL1からOIL5まで5段階の行政介入レベルを設定しているが、具体的なレベルの数値は書かれていない。


出典:原子力規正委員会

 その他、安定ヨウ素剤の摂取については次回の委員会で議論することになっているが、以下のような記事もある。これについては、環境総合研究所の鷹取敦氏は、次のように述べている。

 「アレルギー等で安定ヨウ素剤服用の副作用が大きい人への対処はあいまいなままのヨウ素剤の提供はリスクを伴う。アレルギー体質など飲まない方がいい人を予めどう把握するのか、いざという時に自分だけ飲めない人のリスクと恐怖にどう対処するのか等の問題がある。 「優先的に避難させる」という人もいるが、避難する前、避難する過程での吸入による被ばくを軽減させることが目的なので、「優先避難」だけでは解決できないと思う。」

◆NHK・ヨウ素剤 40歳以上も服用認める
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130720/k10013169321000.html
7月20日 7時13分

 原子力発電所での事故の際、甲状腺の被ばくを防ぐヨウ素剤について、国の原子力規制委員会は、これまで「服用の必要はない」としていた40歳以上も、「リスクが残るという懸念がある」として、希望があれば服用を認めることになりました。

 原発で事故が起きた際、甲状腺の被ばくを防ぐために服用するヨウ素剤について、6月見直された国の防災指針では、半径5キロを目安に事前に配布することや、自治体が配布の前に住民向けの説明会を開くことが盛り込まれました。

 原子力規制委員会は、自治体から要望を受けて、ヨウ素剤の配布や服用のルールをまとめた解説書を作成しました。

 解説書には、服用の具体的な方法や副作用に関する説明のほか、これまで「服用の必要はない」としていた40歳以上も、希望があれば服用を認めることが盛り込まれています。

 また40歳以上について、「近年の研究をみると、甲状腺がんの発生のリスクは年令とともに減るが、高齢者においてもそのリスクが残るという懸念がある」と説明しています。

 原子力規制庁の森本英香次長は、19日の会見で、「ヨウ素剤は甲状腺の機能を下げるリスクもあるため、自治体には副作用についてもしっかりと説明してほしい」と話しています。


つづく