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なぜ、小沢代表側近なのか
長野ルートと小沢ルート

青山貞一 Teiichi Aoyama 5 March 2009

独立系メディア「今日のコラム」

青山貞一ブログ版


 前号では、「なぜ、政権交代前夜なのか」と題し、東京地検特捜部(以下、特捜部と略す)による小沢一郎民主党代表の公設第一秘書の逮捕を巡る疑義について述べた。

 本号では、「なぜ、小沢代表側近なのか」と題し、異例、異常な特捜部による今回の小沢代表第一公設秘書の逮捕劇について述べてみたい。

 まず「なぜ、小沢代表側近なのか」の理由について、特捜部は、@時効が近づいていること、A西松からの献金が突出して大きいことをメディアに説明していた。 しかしながら、これら2つのの理由は理由になるようで実は理由にならない。

 たとえば道路交通法違反の場合を例にとろう。

 覆面パトの車の前を乗用車が追い越し走っていったと仮定する。この道路の法定速度は40km/hである。Aの車は60km/hのスピードで覆面パト車の前を走って行った。そして次のBの車は80km/hで走って行ったとする。この場合、警察は、80km/hのBの車だけを捕まえ60km/hを不問に付すことは本来許されるわけはない。当然、Bの車の主は不公平感を持つだろう。

 今回の事件では、当初はあくまで各政治家からの政治資金管理団体から総務省に提出された政治資金収支報告書に記載された献金額をもとに出発している。したがって、小沢氏の政治資金収支報告書の献金掲載額や件数が多いというだけでこともあろうか片腕とされる公設第一秘書をいきなり逮捕することには違和感がある。また圧倒的に多い自民党幹部議員について不問に付すというのでは、公正、公平の観点から理不尽である。

 周知のように、件数で多いのは圧倒的に自民党幹部議員である。また前号のリストには掲載していないが、長野県の村井知事と静岡県の石川知事など知事も2つの政治団体による献金リストにいる。

 村井長野県知事の場合、政治資金収支報告書に記載された献金額はパーティー購入関連の20万円だけであったが、先に逮捕した西松建設関係者の証言で1000万円の選挙資金が村井知事サイドに渡っていたという特捜部のリークがある。なぜ、このリークがあったのかを含め後述する。

 上記が前提である。腑に落ちないのは、にもかかわらず、なぜいきなり小沢代表側近なのかということであり、謎が深まるばかりだ。

.......

 ところで、「なぜ、小沢代表側近なのか」について、日刊ゲンダイ2009年3月6日号の3面に興味深い記事がある。出所は特捜部捜査に詳しい司法関係者とある。

 地検特捜部、自民党ルートは視野にない綱渡り捜査
 長野案件が潰れて小沢案件に切り替えの舞台裏


が記事のタイトルである。記事の核心部分は次の通りである。

 特捜部捜査に詳しい司法関係者は次のように述べたという。

 「そもそも西松捜査は、”長野案件”(注:長野県村井知事の側近が自殺した例の一件、青山)で終わらせるはずだった。東証第一部上場の社長まで逮捕して、違法献金をもらった政治家を一人も暴かないのはバランスに欠くという考え方からです。ところが、連日聴取していた村井県知事の側近が首つり自殺してしまい、長野ルートは潰れた。この失敗に焦った特捜部は慌てて、小沢ルートに切り替えたのです。小沢秘書を逮捕したことで、目的は達成できた。それに年度末までに事件のケリをつける検察の捜査習慣からしても、起訴までの20日を計算に入れると、今週が逮捕のリミット。これ以上、捜査を広げ、長引かせる気はありません。仮にあるとしたら”謀略捜査だ”と検察批判の世論が高まったときだけです」(捜査事情通)

 私はご承知のように「独立系メディア」の2月26日から2月27日にかけ、以下の3つの論考を書き掲載していた。

 いずれも村井長野県知事の側近中の側近の右近氏が任意で2009年2月21日、22日、23日の3日間、連続して東京地検特捜部の厳しい事情聴取を受け、事情聴取が終わった翌実の2月24日、長野市の電柱で首つり自殺していたというものだ。

●特集:西松建設裏金供与と村井長野県知事側近の自殺
◆青山貞一:@村井長野県知事の側近中の側近、首つり自殺
◆青山貞一:A村井知事周辺に多額選挙資金供与、西松建設関係者供述
◆青山貞一:Bダンマリ決め込む長野県議会、知事側近の自殺に関連し 

 この首つり事件は、全国紙ではほとんど大きく報じられなかったが、田中康夫知事時代、特別職、地方公務員として長野県に大学教授と兼務で勤務していていた私としては、西松建設の裏金が村井仁氏の長野県知事選挙の資金として1000万円渡されていたという特捜部のリークに非常に注目していたのである。

 何と、村井長野県知事は、政治資金規正法に基づく政治資金収支報告書ではパーティー券20万円分を政治団体に買ってもらっていただけとしており、これは献金リストにも入っていた。

 パーティー券20万円分だけで特捜部がその後知事となった村井長野県知事の側近中の側近の右近氏をたとえ任意とはいえ3日間も事情聴取するのは??と思っていたのである。

 すると、2月26日の深夜になって一部新聞が、「特捜部は逮捕した西松関係者から政治資金収支報告書に掲載されていない1000万円の多額な選挙資金が村井知事側に供与されていたことをつかみ、側近中の側近を任意で地検に呼び事情聴取していた」ことがわかったのである。

 もし、西松建設側から村井県知事候補(当時)に渡った1000万円の裏金献金が特捜部が右近氏の自殺をいぶかしがるメディアや県関係者らへの対応としてリークしたように事実であるとすれば、この長野ルートは明白な政治資金規正法違反となる。

 だがにもかかわらず特捜部は、なぜ長野ルートを立件しなかった、いや出来なかったかと言えば、事情聴取した側近中の側近の右近氏が2月21日、22日、23日の実に3日に及ぶ事情聴取後の2月24日、こともあろうか長野に帰ってから首をつって死んだからである。当然、右近氏が死んでしまったので、当然のこととして起訴もできず、公判が維持できないと特捜部が立件を断念したのである。

 そうこうするうちに平成20年度末(3月31日)が近づいてきた。

 特捜部捜査に詳しい司法関係者の言によれば、上場企業の西松建設の社長まで逮捕した特捜部は、当初、長野ルートで幕を引く予定だったが、その思惑が消えてしまった。

 そこで急浮上したのが、政治資金収支報告書ベースで献金額が突出して大きい小沢ルートに切り替えたということになる。

 年度末まで一ヶ月弱しかないなか、東京地検特捜部は、焦って小沢ルートの立件に走る。

 そこでは、森喜朗、尾身幸次、二階派、加藤紘一、藤井孝男、川崎二郎、山本公一、旧橋本派、山口俊一ら自民党の総理、大臣、要職経験者などを捜査し立件化する時間的余裕がない、ということで圧倒的に数が多い自民党の代議士、すなわち
自民ルートの捜査はなしということになったというのである

 ちなみに政治資金収支報告書によると、小沢氏以外の議員側に対して行われた献金やパーティー券購入の総額が500万円を超えるのは、二階氏側と自民党の尾身幸次元財務相の資金管理団体「幸政会」が700万円、自民党の森喜朗元首相の同「春風会」が600万円である。

 もちろん、上記は政治資金収支報告書に記載された額であり、村井仁長野県知事側近にかけられた嫌疑のように、記載されない裏金の額(長野県知事側へ渡った額は1000万円とされている)は含まれていない。したがって、特捜部は、これらの代議士についても、報告書に記載されていない裏金の授受があるかについても徹底的に調べるべきである。

.....

 だが、もとより西松社長を逮捕した時点で、特捜部が村井長野県知事の長野ルートに絞り、それが右近氏の自殺に焦り、そこで急遽、立件案件を小沢民主党代表の小沢ルートに変えたとすれば、特捜部の考えはあまりにも、安易であり、保身的なものでしかないと言わざるを得ない。

 要約すれば、3月末までに、逮捕した容疑者を起訴に追い込むとした場合、当初予定した長野ルートが村井知事の側近の自殺で潰れたため、逆算、すなわち残りの小沢ルートで起訴し立件するとなると、当該問題の担当者であった公設第一秘書の逮捕は3月上旬となるというのが特捜部の筋書きのようである。

 ちなみに、通常、ある者を警察か地検が逮捕した場合、遅くても最大22日目に地検は起訴、不起訴、起訴猶予、さらに略式命令請求のいずれかを決めなければならない。具体的には、大久保公設秘書は3月4日に逮捕されたので、東京地検による起訴、不起訴、起訴猶予、さらに略式命令請求の判断は遅くても3月26日までに決めなければならない。

 という意味では、上記の「捜査事情通」の話は辻褄が合うのである。

 しかし、上記の特捜部の理由は、あまりにも役所仕事的な理由であって、自らの保身によりこともあろうか政権交代前夜の民主党代表である小沢一郎議員を逮捕することになりやしないだろうか? これについては前号で詳しく書いたので、本号ではこれ以上触れない。

 一言で言えば、これほど重大なことが東京地検特捜部のメンツや保身で勝手に決められて良いのかということだ。検察の保身によって、実質的に西松からの献金をもらっている自民党議員(全体の8割超)を野放し、大物議員らの秘書の事情聴取すらないというのは、きわめて公正さを欠く。

 特捜部の事情通は、先の証言のなかで、特捜部は「これ以上、捜査を広げ、長引かせる気はありません。仮にあるとしたら”謀略捜査だ”と検察批判の世論が高まったときだけです」と述べている。

 今でも多くの識者、有権者は、今回の特捜部のやり方に批判し、怒っている。「検察はなぜかおかしい」という国民や識者の声は日増しに増えていることから、特捜部は単に小沢代表の公設第一秘書である大久保氏を何が何でも起訴に追い込むことではなく、司法の信頼を得るためにも、最低限、自民ルートの議員らへの事情聴取を行わなければならない。

 3月5日、くだんの自民党の大物議員は、こぞって西松側に献金相当額を返却する旨をメディアに話している。もし、それで不問に付されるなら、当然、そのことを以前から言明している小沢代表も受けた献金相当額を西松側に返却すればよことになる。

 いずれにせよ、今回の特捜部の捜査には多くの疑義がある。

 参考・引用
 日刊ゲンダイ 2009.3.6号