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米軍のアフガン増派
早くも泥沼化の予見

青山貞一 Teiichi Aoyama 
31
Dec. 2009、5 Jan 2010
独立系メディア「今日のコラム」


 アフガンで次々に米国関係者をねらい打ちにした自爆テロが起きている。

 オバマ大統領は就任直後からイラクに駐留する米軍をアフガンに移動させ、アフガン駐留の米軍を増派すると言明している。

 しかし、私が以下の論考で歴史考証したように、アフガンはいくら米軍が増派しても、米国が手におえる相手ではない。それは歴史が証明していることだ。

※青山貞一:カイバル峠の世界史的意味〜米アフガン増兵に関連し

 ごく最近、米国CIA関係者やカナダ軍、合わせて13人がアフガン人の自爆テロで死亡した。

 世界中の識者がオバマのアフガン米軍増派を疑問視する中、まさにアフガン戦争泥沼化の予見だ! 

アフガンで相次ぎテロ 米国人8人、カナダ人5人死亡

2009年12月31日11時5分

 ロイター通信によると、アフガニスタン東部のホスト州の軍事基地で30日、自爆テロがあり、米国人8人が死亡した。CNNは、8人がいずれも米中央情報局(CIA)の関係者と報じた。

 この軍事基地は、オバマ米政権が進めるアフガン復興事業の拠点の一つで、爆発は基地内で起きたとの報道もある。

 また、同通信によると、南部のカンダハル州でも同日、カナダ軍の装甲車が攻撃を受け、カナダ軍兵士4人とカナダ人記者1人が死亡した。

朝日新聞


基地で自爆テロ、米国人8人死亡、CIA関係者、アフガン東部

(CNN) 米政府高官は30日、アフガニスタン東部ホスト州にある基地で自爆テロが起き、米国人8人が死亡したと述べた。全員が米中央情報局(CIA)関係者とみられる。

同日にはまた、南部カンダハル州で路上仕掛け爆弾が爆発、カナダ軍兵士4人と同国の記者1人が死亡した。カナダ国防省によると装甲車両が襲われた。

アフガンでは、イスラム強硬派勢力タリバーンによる爆弾テロの攻撃多発などで治安が悪化しているが、外国人13人が一度に死亡するのは異例。アフガン東部や南部はタリバーンの主要拠点となっている。

米政府高官によると、ホスト州の基地攻撃では単独の自爆犯が体育施設に侵入、爆薬を詰め込んだベストを起爆させた。別の米国人6人が負傷した。実行犯が施設内へ入り込んだ手口は不明。

米軍筋によると、同基地は以前、ホスト州の建設事業の拠点として使用されていたが、現在はCIAがヘリコプターを駐機させるなどの情報収集基地として用いていた。

カンダハル州の攻撃は、カンダハル市から南へ約4キロ離れた地点で発生。カナダ軍兵士らは通常の哨戒に当たっていた。カルガリー・ヘラルド紙の女性記者(34)は同行取材していた。別の兵士4人と文民1人が負傷している。

アフガン軍事作戦でカナダ人記者が死亡したのは初めて。カナダ国防省によると、同軍事作戦で死亡したカナダ軍関係者はこれで計138人となった。

CNN

 この種の米軍関係者の死亡は、ここ2ヶ月を取っただけでも以下の記事にあるように、分かっているだけでもかなりの数に及んでいる。
 米国防総省関係者によると、米軍増派規模は3万2000〜3万5000人が有力視されているが、本格的増派以前に、はやくもアフガンの米国に対するリベンジが始まっていると言ってよいだろう。 


アフガニスタンの地形図と主要地域
(カブール、カンダハール、ジャジャラバード、マザリシャリフなど)
Source:CNN

※アフガンの米軍増派8万人案も 大分合同新聞

 大義も正義もない米国のイラク侵攻は、石油資源の収奪を目的とした侵略行為であることが明らかになった。米国が理由とした唯一の侵攻理由である大量破壊兵器も見つからなかった。

 その後、米国は日本を道連れに巨額の復興援助金を傀儡のイラク政府に投入したものの、それらも砂漠の中に露と消えつつある。

 今後、米政府の傀儡にしかすぎないイラク政府がまともにイラク国民の過半に信頼される政権となる見通しはない。しかも、傀儡のイラク政府は、したたかなロシア、中国へのエネルギー外交のもと、石油採掘権を両国に貸与するなど、まさにベトナム化している。

 このように、今や米国はイラクの石油利権の収奪も思うままにならない状態に陥っている。

 オバマ大統領は、就任直後からイラクからアフガンに軍隊を移動させると言明していたが、アフガンや隣国パキスタンへの米国軍の増強は、間違いなく、イラク以上に泥沼化する可能性がある。
 
 米国のアフガン増兵については、すでに以下の論考に詳述したが、今後、私が指摘した諸点を含め、米国は国内の経済財政の極度な悪化とともに、間違いなく取り返しが付かない泥沼の道に踏み出すことになる。

※青山貞一:カイバル峠の世界史的意味〜米アフガン増兵に関連し

 そもそも、9.11以降、ブッシュ元大統領が歩んだ道は、いずれも利権、権益に満ちたイスラム系独立国への侵略行為である。

※青山貞一:エネルギー権益からみたアフガン戦争「世界」岩波書店

 この11月から英国でイラク戦争検証の公聴会が始まり、トニー・ブレア元首相も証人喚問されるようだが、英国同様、日本でいち早くブッシュに尾っぽを振ってイラク戦争に追随した小泉元首相をこの種の公聴会を開き証人喚問しよう。

※イギリスでイラク戦争検証の公聴会始まる!―ブレア前首相も証人喚問


イラクにおける一日あたりの自爆テロによる犠牲数


一日あたりの銃撃死亡/処刑数

※Iraq Body Count(イラク戦争での死亡者推定数)

 そして、この間分かってきたこととして、ブッシュもと大統領がアフガン攻撃の根拠としたオサマビンラディンやタリバン、アルカイダなど、米国が言うところのテロリストは、反米イスラム勢力の総称であり、その一部がアフガンやパキスタンを根城としていることはあっても、けっしてアフガンに限定した勢力ではないと言うことだ。

 その意味でなぜ、オバマがアフガンに3万人規模の増派(最終アフガン軍事駐留規模は10万人)を行うことに多くのひとびとが疑問を投げかけている。国内で10%を超える失業率や多くの軍人を抱える米国の失業対策事業ともとられかない愚行である。

 その意味で、いくら米国が最新鋭の武器と巨大な軍事勢力、それに欧米日の資金を背景にアフガンで掃討作戦を展開しても、けっしてリスクは減らない。今回のアフガン掃討作戦にドイツのメルケル首相は膨大な資金拠出をするらしいが、メルケルは正気かと言いたい。

 メルケルに首相が代わってからドイツの外交、軍事戦略と戦術はおかしくなっていると思わざるを得ない。

独メルケル首相、アフガニスタン電撃訪問
出典:The Epoch Times

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は3日、アフガニスタンを電撃訪問した。首相就任以来、初めてのアフガン訪問。

 先月、ドイツ連邦議会はドイツ連邦軍部隊のアフガニスタン派遣の延長を承認したが、ドイツ国民の派遣に対する支持は弱まっているという。


メルケルとカルザイ

 議会下院は455票が支持、79票が反対、48票が棄権という結果によりアフガニスタン駐留を1年延長することを決定した。現在アフガニスタン北部には3千人以上のドイツ軍兵士が北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)に派遣されている。また、精鋭部隊約200人をイスラム原理主義組織「タリバン」や国際テロ組織「アルカイダ」などの武装勢力掃討を主な任務とする米軍主導の多国籍軍にも派遣している。

 NATOは、タリバンの脅威が大きいアフガニスタン南部地区へのドイツ部隊の派遣を求めているが、ドイツは拒否し続けている。

メルケル首相の決意 (熊谷徹ブログ)

 前略

 メルケル首相が危険を冒してアフガニスタンに行ったのは、生活条件が過酷な前線にいる兵士たちの士気を鼓舞するためだけではない。最大の理由は、ドイツ市民の間で、軍のアフガニスタン駐留への支持が急速に弱まっていることだ。

 ある世論調査によると、5年前には回答者の51%がドイツ軍のアフガン駐留を支持していた。だが今では、支持者の割合は29%に急落している。さらに「アフガン駐留が原因で、ドイツ国内でのテロの危険が高まっている」と考える市民の割合は56%に達し、「将来、ドイツ軍は外国での任務に派遣されるべきではない」と考える市民の比率は、2年前には34%だったが、今では50%に増加した。

 米軍がイラクの泥沼で苦しむのを見て、ドイツ市民の間でも「自国の将兵たちが、出口の見えない対テロ戦争に巻き込まれるのではないか」と危惧を抱く人が増えているのだ。歴史をひもとくと、英国、ソ連の例を見るまでもなく、アフガニスタンに軍事介入して平定できた国は、一つもない。

 後略


 米国がテロと呼んでいる者は、実はひとりよがりで傲慢な米国、それも金融資本主義、拝金主義とそのグローバル化で世界各地の文化、歴史、社会経済を破壊してきた米国に対峙する地域を問わずイスラム勢力となっていることに早く気づかなければならない。

 事実、米国がアルカイダと呼ぶ勢力は、アラビア半島の南イエメンにも、インド洋の孤島、コモロイスラム共和国にも、インドネシアにも、フィリピンにもいるのである。

 米国自らが最低限ブッシュ大統領時代中東地域に行ってきたことを反省することなしに、アフガンに増兵しても、間違いなくベトナム化、泥沼化は避けられず、膨大な軍事費、戦費のためにさらなる財政赤字は避けられない。

 日本はこんな馬鹿なことばかりしている米国に追随するのではなく、中国、インドなどのアジアの新興勢力との友好を深め、経済、環境分野の交流を促進することが求められている。

アフガン増派 危うい米軍の出口戦略

北海道新聞社説  

 オバマ米大統領が新たなアフガニスタン戦略を発表した。

 その柱は《1》来年夏までに3万人の米兵を追加増派《2》アフガン治安部隊を育成し権限を移譲《3》2011年7月からの米軍撤退開始を目指す−の3点だ。

 アフガン駐留米軍は、オバマ政権の下で過去最大規模の約10万人となる。米国は北大西洋条約機構(NATO)諸国にも5千〜1万人の増派を要請する方針だ。

 オバマ氏は演説で「国際テロ組織アルカイダは新たな攻撃をたくらんでいる」とし、米国と同盟国の安全を守るための増派に理解を求めた。

 最大の焦点は、泥沼化したアフガン戦争から抜け出す「出口」を示せるかどうかだった。

 オバマ氏は撤退開始時期を初めて明示した。だが、計画通りに進むかどうか極めて危うい状況と言える。

 アフガンへの攻撃開始以来、9年目に入ったが、9・11米中枢同時テロの首謀者とされるアルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディン容疑者らはいまだに捕捉できていない。

 新戦略で撤退の完了期日を示せなかったのは、「出口」への道筋が不透明だからにほかならない。

 増派の決断自体、疑問点が多い。

 駐留軍の死者は約1530人に達し、このうち約930人を米兵が占める。増派に伴う費用は1年で約300億ドル(約2兆6千億円)とされ、オバマ政権の足元を揺るがす。

 政権内に加え、NATO諸国でも増派に反対や慎重論が出ていた。

 現地では米軍の誤爆で市民が犠牲となり駐留軍への憎悪が募る。増派は反発をさらに広げる恐れがある。

 オバマ氏は「あなた方の国を占領するつもりはない」とアフガン国民に呼びかけ、将来は現地政府に治安維持を任せる考えを強調した。

 その前提となるのは、アフガン政権の統治能力の向上だ。だが、2期目の政権をスタートさせたカルザイ大統領は大統領選での不正発覚から、その正統性さえ疑われる。

 アフガン駐留米軍司令官を務めた経歴を持つアイケンベリー駐アフガニスタン大使は、政権の汚職体質を理由に、増派に反対していた。

 カルザイ政権が腐敗を一掃し、国民の信頼を確立できなければ、今回の新戦略は肝心の基盤さえも失うことになる。

 新戦略では反政府武装勢力タリバンの打倒を事実上断念し、攻撃対象をアルカイダに絞り込んだ。オバマ氏は「暴力を放棄するタリバンに門戸を開くアフガン政府を支持する」と対話を呼びかけてもいる。

 アフガンに平和の展望を開くため、民生支援を打ち出した日本も復興プロセスに積極的に参画したい。