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「弱毒性」インフル判明後も
過剰対応で疲弊する日本
青山貞一 
20 May 2009
独立系メディア「今日のコラム」


 私は今回の新型インフルについて前に以下を書いた。

◆青山貞一:米国主導、日本追随で繰り返されるインフルエンザ大騒動 

 今回の新型インフルエンザの毒性がかなり早期の段階から「弱毒性」であることが分かり、米国ではオバマ大統領が「馬が出てしまった後に馬屋の戸を閉めても意味がない」と言明、通常の季節インフル並みに対応にしたことは賢明であった。

 米国の状況については、早期の段階でカリフォルニア州サンディエゴにいる知人からの報告を独立系メディアに掲載した。以下参照。

Date: Wed, 29 Apr 2009 08:38:47 -0700
Subject: 豚インフルエンザ 
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青山先生、

 豚インフルエンザ(こちらではスワイン・フルー)のニュースが今日のコラムに掲載されていたので、サンディエゴの日常生活について御報告致します。

 豚インフルエンザで、日本が水際対策のため、大変な騒ぎになっているようです。

 また、カリフォルニアでは非常事態宣言が出されたと報道されているようです。

 サンディエゴはメキシコのティファナと国境線で接しており、何十万人が毎日国境を通過しています。

 さぞかし大変な騒ぎになっているだろうと、御想像されていると思いますが、実際には日常生活は何ら変わりません。

 町で買い物をしていても、マスクをかけている人を見たことがありません。本当に非常宣言が出ているのだろうかと疑いたくなります。

 ただ、気をつけて見ていると、トイレなどで、手を入念に洗っている人の数が増えているようです。

以下略

 周知のように例年の季節性インフルエンザでも世界全体ではかなりの人間、とくに病弱な人、お年寄り、幼児、喘息など呼吸器疾患などの人が重篤な症状となり亡くなっている。

 事実、私自身、50歳過ぎ的から重度な喘息患者となり今でも持病として喘息があるが、季節性のインフルエンザはもとより、いわゆる風邪にかかると一気に症状は悪化、酷いときは救急車で近くにある昭和大学第一内科や救急センターに担ぎ込まれた。

 しょっちゅう救急車を使うと申し訳ないので、その後は自宅に比較的近い医院で深夜であれ早朝であれ点滴などをしてもらうようにしている。いずれにせよ、「風邪」はまさに万病のもとである。

....

 本題の新型インフルだが、早期段階で新型インフルが季節性インフル並みであると分かった時点で、日本政府は米国や欧州諸国同様、通常のインフル対応に切り替えればよかったのである。

 通常の季節性インフルに対しH5N1、すなわち強毒性インフルの対応を水際対応を含め行えば、社会機能はどこの国でも麻痺するだろう。経済的損失も計り知れなくなるはずだ。

 麻生総理大臣がテレビで「冷静な対応が必要」などと偉そうにだみ声でのたまっているが、ことのはじめから冷静な対応が必要なのは日本政府だったのである。

 下の図は主に通常の季節性インフルエンザによる死亡数の推移を示している。毎年、それなりにかなりの人が亡くなっていることが分かる。


出典:http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1955.html
注)超過死亡概念とは:超過死亡はインフルエンザが流行したことによって
総死亡がどの程度増加したかを示す推定値で、 死因は問わない。

 かなり以前に「弱毒性」と判明しているにもかかわらずH5N1の強毒性インフル並みの対応をなすことが果たして国、自治体として正しいことなのかどうか私は当初から大きな疑義を感じていた。

 というのも、下の朝日新聞の記事にあるように、弱毒性、すなわち通常の季節性インフルエンザであると分かった後からも、日本では他の先進諸国と対比し、どうみても過剰な対応をとっているとしか思えないからだ。

 事実、日本人研究者が海外の学会を欠席したり、日本国内で予定されていた国際的な学会が急きょ中止されたりするケースが続出しているが、その多くは東大、北海道大、東北大、名古屋大、京都大、大阪大、九州大などいわゆる旧国立大学である。どうみても関係省庁から各大学に何らか「渡航の自粛や禁止を求める」事務連絡がでているとしか思えない。

 これは何も日本の研究者が海外の学会などに行く場合だけでなく、米国の学会事務局が、日本に行く国際便で新型インフルエンザの患者が出た場合、ホテルで足止めされる可能性があることもある。

 記事にあるように、米国のある学会事務局が上記の説明をした上で出欠を取り直したところ、一気に日本に行く研究者の欠席が増えたという。

 そもそも新型インフルが弱毒性と判明したにもかかわらず、到着した航空機に検疫官が乗り込み体温検査を行い、感染推定者をホテルに当初10日間、その後も7日間も拘束すると言うこと自体、異常である。

 ただ、この種の問題について、国に未然防止などを強調されると自治体や企業、大学関係者はどうしてもそれに従わざるを得ないのが日本である。まして国が関係組織の長に事務連絡や通知を出した場合は、号令一下、何の疑義も持たずすべて上からのお達しに従うのが日本社会である。

学会にも影 渡航自粛で軒並み欠席「なぜ日本だけ…」
朝日新聞 2009年5月18日17時4分

 新型の豚インフルエンザの感染者が世界各地で確認されている影響で、日本人研究者が海外の学会を欠席したり、日本国内で予定されていた国際的な学会が急きょ中止されたりするケースが出ている。仲間に冷静に対応するよう求めている研究者もいる。

 「科学的な判断が可能な皆様には、過剰反応ではない客観的な判断をお願いします」。レーザー技術の日本人研究者ら約190人に最近、こんな電子メールが届いた。31日から米国メリーランド州で開かれる国際学会への参加を呼びかけるためだ。

 メールには、米国にいる学会関係者が、日本の研究者の学会欠席が目立つと指摘していることが書かれていた。他国の研究者にそのような動きはないらしく、「なぜ日本だけが……」と不思議がられ、新型インフルエンザを「トウキョウフルー(東京インフルエンザ)」と呼ぶ現地の研究者もいるという。

 この学会に参加する電気通信大の植田憲一教授は「日本からだけ大量のキャンセルが出る事態になると、国際舞台での日本の存在感が下がることが心配だ」と話している。

 感染防止のため、教員や学生に渡航の自粛や制限を呼びかける大学も増えている。

 東京大は4月末、全学生と教職員に発生国への渡航自粛を要請した。期間は「当分の間」。5月5日に予定していた南米チリの東大アタカマ天文台の開所式も延期した。発生国からの帰国者は10日間は体温を記録し、大学内ではマスクをするよう求めている。

 ほかにも、北海道大、東北大、名古屋大、京都大、大阪大、九州大が渡航の自粛や禁止を決めている。

 一方、東京都千代田区の城西国際大学キャンパスでは、21〜24日に予定されていたアメリカ映画・メディア学会の東京大会が中止された。32カ国から出席する予定だった約750人のうち、3分の1が欠席を申し出たからだ。

 同大メディア学部によると、米国の学会事務局が、日本に行く国際便で新型インフルエンザの患者が出た場合、ホテルで足止めされる可能性があることを告げて出欠を取り直したところ、一気に欠席が増えたという。東京大会は50周年記念大会で、同大キャンパスではシンポジウムや上映会が予定されていた。

 私は過去何度か繰り返されるこの種の日本独自の過剰というか、異常な対応とタミフル利権について論考をその都度、書いてきた。

◆青山貞一:日本政府とラムズフェルド元国防防長官のタミフル利権疑惑!?(再掲) 2007年

◆青山貞一:ラムズフェルド米国防長官のタミフル利権疑惑!?(再掲) 2006年

 数年前、私が大学と兼務で長野県に勤務していたとき、衛生部長とこの問題を議論したが、長野県にも膨大な量のタミフルの備蓄があると聞かされた。世界中で売られている米国製のタミフルの推定70%を日本一国が購入しているという事実を含めると、今回の措置についても多くの疑義、いや疑惑を感じざるを得ないが、そこはラムズフェルドなど利権にまみれたブッシュ政権からオバマ政権に変わった米国、対応もいち早い。

 他方、未だに旧来の米国に追随する日本が見え隠れする。

 すでに政府の間違った対応により日本社会は2兆円規模の経済的損害を受ける可能性があるという試算もあるようだ。

 以下は、かの植草一秀先生の最新論考である。
 

 問題のインフルエンザだが、今回、感染が問題になっている新型インフルエンザはH1N1型のウィルスで、「弱毒性」であることが報告されてきた。

 ところが、政府のインフルエンザ問題への対応は「強毒性」の鳥インフルエンザ、H5N1型ウィルスを想定したものである。

 政府の対応は二つの重大な失敗を犯している。

 第一は、「水際対策」と称して国際空港での「検疫」に重点を置いたことである。テレビ報道は空港でのものものしい「検疫」体制を過剰報道したが、先進国でこのような対応を示した国はない。

 新型インフルエンザは10日間程度の潜伏期間があるため、入国した人のすべてを10日間程度隔離して発症を確認しなければ意味がない。また、感染しても発症しない人が存在するため、この方法を用いても、国内への感染を遮断(しゃだん)できるとは考えられないのだ。

 第二の問題は、政府が想定した「強毒性」と、現実に感染が広がっている「弱毒性」との間には、巨大な落差が存在することである。「弱毒性」ウィルスによるインフルエンザの致死率が1〜2%程度であるのに対し、「強毒性」ウィルスによるインフルエンザは致死率が60%を超すとされる。

 政府が強毒性ウィルスを前提とした対応を強行した背景のひとつに、パフォーマンスを好む舛添要一厚労相の強い意向が存在すると指摘されている。国内初の感染が確認された5月9日、豚インフルエンザ対策本部幹事会は、本来、厚労省庁舎で開催される予定だったものを、舛添厚労省の強い意向により、首相官邸で開催されたと伝えられている。

 感染者が発生したことを舛添大臣が記者会見で、「重大報告」として発表することにより、国内での過剰反応が拡大していった。

 急激に感染者が増加している関西地方では、経済活動に重大な影響が出始めて
いる。一般市民は過剰反応して外出を極力控えるようになるだろう。関西地方の消費活動が急落することは明白である。

 国民の健康と安全を確保することは重要だが、致死率60%の感染症への対応と、致死率2%の感染症への対応が同水準であるはずがない。舛添厚労相は、政府対応の切り替え方針を表明し始めたが、政府の責任を免れるものではない。

 弱毒性ウィルスが強毒性ウィルスに突然変異するリスクには十分な警戒が必要だが、この点は、季節性インフルエンザでも懸念がゼロであるわけではない。舛添厚労相は「感染を水際で止める」と豪語していたようだが、この発言を示す間にウィルスは国内に侵入していた。

 他の先進国で、日本政府のようなパニックに陥っ政府は存在しない。政治的な思惑で新型インフルエンザが利用された疑いが濃厚である。政府の対応がなぜこのようなものになったのかについての検証が求められる。

 植草先生は、「政府の過剰な『インフルエンザ報道』により、陰に追い込まれたのは『民主党新代表報道」だけではない。鴻池祥肇(こうのいけよしただ)官房副長官更迭(こうてつ)報道、麻生首相の「子供二人を設けて最低限の義務を果たした』発言などが、陰に隠され、不問(ふもん)に付されたのである」と、上記の論考のまえがきで述べられている。

 私は自宅でNHKで民主党代表選挙を見ていたが、その最中に政府の新型インフル情報で5分前後、ライブが中断したのは事実である。