エントランスへはここをクリック   

大マスコミが報じない
JALの深刻な経営危機

青山貞一

東京都市大学大学院教授

15 September 2009
初出:独立系メディア「今日のコラム」


 このところ日本航空(JAL)に対し米国デルタ航空、アメリカン航空などからの出資問題が新聞、テレビ報道で囂しい。事情を知らないひとからすれば、昨今のJALをめぐる報道は海外航空会社のJAL争奪線にすら見える。

 だが、実態はJAL争奪戦どころか深刻な資金繰りの悪化にどう対応するか、いわば資金不足の自転車操業状態にある。もし、JALが通常の企業であるならとっくに倒産している。

 たとえばJALがこの8月に発表した最終的な赤字は、4半期ベースとしては過去最悪、まさに“瀕死”の状態にある。

 JALはこの間、”再建策”をなんどとなく繰り返しててきたが、経営再建のメドがまったく経ってない。経たないばかりか、経営は悪化している。

 にもかかわらず、大マスコミはこれらの事実を報じず、あたかも海外航空会社がJALを争奪するかのごときの報道を横並びで繰り返している。これも日本の大メディアの特徴、すなわち国(この場合は国土交通省)の大本営的プレスリリースだけを垂れ流しているからだ。

 そんな中で海外の航空キャリアーからの巨額の資金供給前に、巨額の公的支援を受けており、各方面から激しい批判も上がっている。

 当然、JALは社長以下、その経営能力そのものが厳しく問われるおり、国際線からの撤退など抜本的な改革案もあがっている。

 JALにはここ3年間で4500億円が投入されている。それは増資、優先株発行、銀行融資などを含めてのことだ。

 4500億円と言えば、民主党が中止を宣言している公共事業の象徴、八ッ場ダム事業の表向きの総額(4600億円)に相当する額であり巨額なものだ。

 本来なら4500億円の資金投入でJALの経営が何とかなるはずだが、問題は4500億円の投入でもJALが再生できないところにある。

 JALは2009年6月には日本政策投資銀行と大銀行から政府保証を付け1000億円の融資を受けているが、さらに今期中に2000億円規模の融資を受けなければならない状態にあるといわれている。


一段と厳しさを増すJALの経営
羽田空港にて  撮影:青山貞一 Nikon Cool Pix S10

 いずれにせよ、ここ数年繰り返してきたJALの資金不足は一段と深刻化している。

 その理由は、まず激しさを増す一方の航空業界の国際競争にJALが対応できないことにある。もともとJALが日本の日の丸を背にした親方日の丸の国策会社としてつくられたことに帰因している。

 周知のように、いくらJALが経営危機に見舞われてもパイロット、フライトアテンダントの給与は高額なまま、7つもある労働組合、いまや99空港となった日本の地方空港への無理な対応、そのための路線と機材の集約と削除、海外他社と比べ過剰な人員の整理など課題は山積している。

 国際線ひとつをとってみても、米国でも多くのキャリアーが倒産している。カナダは3社あった国際線はエアーカナダ1社になっている。そもそもEUでもドイツ(ルフトハンザ)、フランス(エアーフランス)、デンマーク(スカンジナビアン)、イタリア(アリタリア)、オーストリア(オーストリア)、ロシア(アエロフロート)など、英国のブリティッシュ空港、バージンアトランティックを除けば、国際線は一国一社となっている。

 果たして日本に国際線のキャリアーが2社(JAL、ANA)が必要なのかが以前から問われているし、事実、JALにとって国際線への対応はかなりの負担になっている。

 国際線は国内線に比べ搭乗率は良いが、それでもJAL、ANAは北欧線、EU線ともに激しい国際競争にさらされている。日本の空港がハブとなっていない現状も、たとえば国内線と連携がとれず、結果的に巨大ハブ空港をもつ韓国(大韓航空)に太刀打ちできない状態にある。


那覇空港にて  撮影:青山貞一 Nikon Cool Pix S10

 事実、JAL、ANAは国際線で何とか採算をとっているが、それでもIATA加盟の国際的キャリアーとのチケット安売り合戦にさらされ、搭乗率がそこそこあっても経営状態は良くない。したがって、国際線ではJALが撤退しANAに一本化させる案も前からでている。

 ただ、上述したように狭い日本に99もの地方空港がつくられ、しかも2000m以上の滑走路をつくってきたため、そこにジャンボや中型機を投入するには、機材、パイロット、地上要員ともにJALにとっては大きな資金面での負担となる。

 JAL、ANAともここ数年、いくら地方の知事が路線廃止の中止を要望しても、福島空港のようにバッサリと路線を撤収しているのはそのためだ。

 地方空港は国際線と異なり、搭乗率は平均して低い、その上でジェット機着陸料など空港利用料が他国の空港に比べて途方もなく高いこともある。

 搭乗者が少なくとも空港利用料が同じであるから搭乗者が少ない地方空港に就航するとなると機材、パイロット、整備要員に加えこの利用料が大きく航空会社の経営にのしかかってくる。

日航、国際20路線廃止 経営改善へ3年計画、運航経費3割減 日経新聞

 したがって、将来、国際線をANAに一本化し、JALを国内線だけに就航させる場合でも、経営改善は容易ではないと言える。

 これはこんな狭い日本のなかに、平均して1県2空港を各知事と国土交通省(前は運輸省)の官僚と一緒になり、次々と空港を建設してきたことと無縁ではない。

 ちなみに以下に示すように、日本と面積でほぼ同じの米国カリフォルニア州には、民間空港は16カ所しかない。これに対し、日本には富士山静岡空港を含め99カ所の民間空港がある。





 これも公共事業天国ニッポンの負の帰結であると言える。

 今後を展望しても、長距離路線を別にすれば、国内路線はさらに高速化するJR新幹線や高速料金無料化との関係でも経営は厳しくなるだろう。

 さらに国際線でも、すでに日本の地方都市の住民は、EU諸国に行く場合、地方都市→仁川→EU諸都市の方が、地方都市→成田→EU諸都市よりはるかに格安となっており、大韓航空の利用者が急増している現実がある。

 いずれにせよ、

1)アジアのハブ空港などの戦略性をもたない行き当たりばったりの日本の航空運輸・空港政策と

2)全国的な公共事業天国による100カ所にも及ぶずさんな空港立地

3)それに親方日の丸の放漫経営体質

がJAL、ANAのとどめのない経営悪化を加速化していると言わざるを得ない。

 大メディアは 西松JAL社長は、「年収960万円」「都バスで出勤」の倹約者などとたたえているが、JALは、もはや崖っぷちにある。