エントランスへはここをクリック   

世界の知性は

「テロ」の本質をどうみるか


青山貞一

掲載日:2006年9月24日、
   2007年11月2日
   2009年1月7日、1月17日 
独立系メディア「今日のコラム」特集:ガザ問題


 欧米日本では、ひとたび「テロリスト」とレッテルが貼られると、日米日本の為政者によって「テロとの戦い」が宣言され、テロと名指しされたひとや組織へのいかなる武力、軍事力、暴力が肯定される。

 さらに欧米日本のマスメディアの圧倒的多くは、それら為政者の「テロとの戦い」を肯定的にとらえ、ひとたび「テロリスト」とレッテルが貼られたひとや組織は無視されたり、攻撃、殲滅されても仕方ない存在として報道されることとなる。

 アフガン戦争しかし、イラク戦争しかり、そして現在、ガザ地区で繰り広げられている紛争しかりである。そこでは最新鋭兵器、大量虐殺兵器が公然と使われるが、欧米日本の大メディアはほとんどその実態、実像を報道しない。

 日本の大メディアに至っては、現地に記者すら送り込まない。実際、今回のイスラエルによるガザ地区攻撃では、上記のような偏見に満ちたイスラエル側に立った米国の報道を垂れ流すばかりで、申し訳程度に死んだあるいは傷ついた子供やお年寄りを映し出しているだけだ。

 そこでは事の本質、すなわち彼らが「テロリスト」と呼び捨てるひとびとや組織について、それらが誕生した歴史的経緯、民族・宗教的の背景、価値観、欧米諸国がイスラエルを財政、武力面で支援してきた事実には、ほとんど触れられない。

 本論では、欧米日本の大マスコミの多くが無視する「テロ」の本質を世界の知性として知られる識者に語ってもらう。

◆N.チョムスキー(マサチューセッツ工科大学教授)


マサチューセッツ工科大学のノーム・チョムスキー教授

 米国、とりわけブッシュ政権の対外政策に痛烈な批判を浴びせ続けてきた世界の知性、マサチューセッツ工科大学のノーム・チョムスキー教授は、米国をして世界最大の「ならずもの国家」と公言してはばからない。

 今年、80歳になるノーム・チョムスキー教授は、ベトナム戦争以来の米国の外交政策を痛烈に批判し続けている。 

 とくにニューヨークのマンハッタン島で起きたいわゆる「9.11」以降、チョムスキー教授の史実に基づいた鋭い言論は、海外はもとより米国内でも高い評価を得ている。

 ロックバンドU2のボーカル、ボノはチュムスキー教授を、
飽くなき反抗者と呼んでいる。闘う言語学者、それがノーム・チョムスキーなのである。 

 イラクとの「対テロ戦争」をめぐる米国ブッシュ大統領の対外政策について、チョムスキー教授はインタビューで、「テロ」の本質について次のように明快に答えている。 

  第一に、「対テロ戦争」という言葉を使うにあたっては多大な注意が必要です。そもそもテロに対する戦争というものはあり得ません。

 論理的に不可能なのです。

 しかも、米国は「世界最大のテロリスト国家」です。

 ブッシュ政権で政策決定に係わっている人々は、国際法廷でテロとして批判されてきた人々です。

 米国が拒否権を発動しなければ(このとき英国は棄権しています)、安保理でも同様の批判を受けていたはずの人々なのです。

 これらの人々が「対テロ戦争」を行うなどということはできません。問題外です。

 これらの人々は、25年前にもテロリズムに対する戦争を宣言しています。しかし、私たちはこれらの人々が何をしたかを知っています。

 中米諸国を破壊し、南部アフリカで150万人もの人々を殺害する手助けをしてきたのです。他の例もあげることができます。

 ですから「対テロ戦争」などというものはもともと存在しないのです。

 「テロリズムはどう定義するのか」というインタビューの質問に対し、チョムスキー教授は次のように答えている。 
 
     
 テロとは他者が『われわれ(米国)』に対して行う行為であり、『われわれ(米国)』がどんなに残虐なことを他者に行っても、それは『防衛』や『テロ防止』と呼ばれるのである、と。


 以下は、チョムスキーがインタビューに答える形で話した「米国の対テロ戦争」と「米国のイラク攻撃」の全文である。長文ですがぜひ読んで欲しい。

  「対テロ戦争」:チョムスキー・インタビュー 2002年7月3日

.......

◆イクバール・アフマド(思想家)


イクバール・アフマド(Eqbal Ahmad)

 ノーム・チョムスキー教授の友人にイクバール・アフマド(Eqbal Ahmad)がいる(いた)。ノーム・チョムスキーやE.サイードの盟友でもあるそのイクバール・アフマド氏は「テロ」にどう言及しているのであろうか?
 
 アフマド氏は1999年11月にイスラマバードで病気で亡くなったが、彼は「9.11」が起る3年前の1998年、「テロリズム---彼らの、そして、わたくしたちの」と言う講演をしている。彼はその講演のなかで、テロリズムについて非常に示唆に富んだ話をしている。

 当時刊行されたイクバール・アフマド発言集「
帝国との対決」(太田出版03-3359-626)、大橋洋一・河野真太郎・大貫隆史共訳)から以下にその核心部分を引用してみたい。

 
テロリズムに関する第一の特徴的なパターン、それはテロリストが入れ替わるということです。昨日のテロリストは今日の英雄であり、昨日の英雄が今日のテロリストになるというように。

 つねに流動してやまないイメージの世界において、わたしたちは何がテロリスムで、何がそうではないかを見分けるため、頭のなかをすっきり整理しておかなければなりません。

 さらにもっと重要なこととして、わたしたちは知っておかねばならないことがあります。それは何がテロリズムを引き起こす原因となるかについて、そしてテロリズムをいかにして止めさせるかについてです。

 テロリズムに対する政府省庁の対応の第二のパターンは、その姿勢がいつもぐらついており、定義を避けてまわっていることです。

 わたしはテロリズムに関する文書、少なくとも20の公式文書を調べました。そのうちどれひとつとして、テロリズムの定義を提供していません。

 それらはすべてが、わたしたちの知性に働きかけるというよりは、感情を煽るために、いきり立ってテロリズムを説明するだけなのです。

 ここで代表例を紹介しましょう。

 1984年10月25日(米国の)国務長官のジヨージ・シュルツは、ニューヨーク市のパーク・アヴェニュー・シナゴーグで、テロリズムに関する長い演説をしました。

 それは国務省の官報に7ぺージにわたってびっしり印刷されていますが、そこにはテロリズムに関する明白な定義はひとつもありません。その代わりに見出せるのは、つぎのような声明です。

 その一、「テロリズムとは、わたしたちがテロリズムと呼んでいる現代の野蛮行為である」。

 その二はさらにもっとさえています。「テロリズムとは、政治的暴力の一形態である」。

 その三、「テロリズムとは、西洋文明に対する脅威である」。

 その四、「テロリズムとは、西洋の道徳的諸価値に対する恫喝である」。

 こうした声明の効果が感情を煽ることでなくしてなんであろうか、これがまさに典型的な例なのです。

 政府省庁がテロリズムを定義しないのは、定義をすると、分析、把握、そして一貫性を保持するなんらかの規範の遵守などの努力をしなければならなくなるからです。

 以上がテロリズムヘの政府省庁の対応にみられる第二の特徴。

 第三の特徴は、明確な定義をしないまま、政府がグローバルな政策を履行するということです。

 彼らはテロリズムを定義しなくとも、それを、良き秩序への脅威、西洋文明の道徳的価値観への脅威、人類に対する脅威と呼べばいいのです。

 人類だの文明だの秩序だのを持ち出せば、テロリズムの世界規模での撲滅を呼びかけることができます。

 要約すれば、米国なり西洋諸国が行う暴力はテロリズムとは言わず、米国なり西洋諸国が被る暴力はすべてテロとなるということである。

 
これはチョムスキー教授の言説と共通している。すなわち

 「テロとは他者が『われわれ(米国)』に対して行う行為であり、『われわれ(米国)』がどんなに残虐なことを他者に行っても『防衛』や『テロ防止』と呼ばれる

のである。

 ここに今日の米国やイスラエルの対テロ戦争や対大量破壊兵器戦争の大きな課題が集約される。

 米国やイスラエルが自分たちがいくら核兵器や大量破壊兵器をもち、使ってもそれは自由と民主主義を守る正義の戦いとなり、中南米、カリブ諸国にCIAや海兵隊を送り込み他国の政府を転覆したり、要人を殺傷しても、またイスラエルがパレスチナを攻撃しても、けっしてそれはテロとは言わないのである。

 イクバール・アフマドの経歴について
 イクバール・アフマド(Eqbal Ahmad)著作集について 

◆ウゴ・チャベス(ベネズエラ大統領)


ヴェネズエラのウゴ・チャベス大統領

 歯に衣着せず痛烈にブッシュ政権を批判するラテンアメリカの旗手、ベネズエラのウゴ・チャベス大統領は、2006年9月、ニューヨーク国連本部で行った演説のなかで、ノーム・チョムスキー教授の著作を片手に、ブッシュ政権の脅威について次のように明快に語っている。

 私が悪魔と呼んだ紳士である大統領(ブッシュ大統領のこと)は、ここにのぼり(注:国連本部の演壇)、まるで彼が世界を所有しているかのように語りました。全くもって世界の所有者として...

 米国大統領が見渡すいかなる場所にも、彼はたえず過激派(テロリスト)を見ます。 そして我が友よ――彼は貴方の色を見て、そこに過激派(テロリスト)がいる、と言います。

 ボリビアの大統領閣下のエボ・モラレスも、彼にとって過激派(テロリスト)に見えます。

 このように帝国主義者らは、至る所に過激派(テロリスト)を見るのです。

 もちろん、我々が過激派(テロリスト)であるなどということはありません。

 世界は目覚め始めている、ということです。

 至る所で目覚めています。そして人々は立ち上がり始めています。

 私の印象では、世界の独裁者は残りの人生を悪夢として過ごすでしょう。

 なぜなら、我々のように米国帝国主義に対抗する全ての者たちや平等や尊重、諸国の主権を叫ぶ者らは立ち上がっているのだから。

※ベネズエラ大統領チャベスの国連における大演説全文(2006年演説全容)
チャベス大統領 国連演説全容(2005年演説全容) 日刊ベリタ
※ベネズエラ大統領チャベスの国連における大演説全文(2005年演説全容) 

 今回のイスラエルのガザ侵攻について、チャベス大統領は、イスラエル大使を国外追放とし、イスラエル人のベネズエラ入国を拒否することを決めている。

・ガザ侵攻でイスラエル大使追放=「国家テロ」と糾弾−ベネズエラ
 【サンパウロ6日時事】
ベネズエラ政府は6日、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの軍事侵攻に抗議し、同国のコーエン駐ベネズエラ大使と同大使館の一部職員の追放を決めた。外務省声明は軍事作戦を「重大な国際法違反で国家テロだ」と非難。「英雄的なパレスチナ人民への際限なき連帯を示し、残虐な犯罪の責任者が処罰されるまで手を休めない」としている。(2009/01/07-07:58)



◆佐藤清文(批評家)



 アラビア語で「情熱」や「闘魂」という意味の「ハマス」について報道されるとき、日本のメディアは「イスラム原理主義組織」と報道していますね?

 しかし、アルジャジーラを含め、アラブのメディアでは「パレスチナ抵抗軍」と報道するのが常です。

 実際、そう訳さないのは不正確なのです。

 ニュースは一つの報道だけでなく、多様な見方を意識していないとといけないのですが、日本の報道機関がアメリカ向きだというのはこういうところからもわかります。

 こういうところから直していかないと、本当の国際的な眼は養われませんね。

注)ハマース
ハマース、正式名称はイスラーム抵抗運動Harakat al-Muq?wama al-Islamya)といい、各単語のアラビア文字の頭文字を取って(ハマース、アラビア語で「熱情」という意味)と通称される。 Wikipedia