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え〜!
科学技術振興予算を増額?
〜パソコンでSPEEDIは可能@〜
青山貞一 Teiichi Aoyama
東京都市大学大学院教授
環境総合研究所所長
掲載月日:2011年11月14日
独立系メディア E−wave
 無断転載禁


 2011年11月13日のメルマガ”ごまめの歯ぎしり”で河野太郎衆議院議員は、次のように、科学技術予算の突出を警戒している。

 福島第一原発の巨大事故で、文部科学省が所管する科学技術予算は減額かと思いきや科学技術振興予算が増額されたそうだ。

 福島第一原発事故で最初に思い起こすのは、いうまでもない過去、巨大な予算を投入しながらSPEEDIが事故の初期段階でまったく機能せず、多くの福島県民が3月15日から23日の間で高いレベルの放射線や放射能の外部曝露を受けたことだ。

◆SPEEDIとは

 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI:スピーディ※)は、原子力発電所などから大量の放射性物質が放出されたり、そのおそれがあるという緊急事態に、周辺環境における放射性物質の大気中濃度および被ばく線量など環境への影響を、放出源情報、気象条件および地形データを基に迅速に予測するシステムです。

 このSPEEDIは、関係府省と関係道府県、オフサイトセンターおよび日本気象協会とが、原子力安全技術センターに設置された中央情報処理計算機を中心にネットワークで結ばれていて、関係道府県からの気象観測点データとモニタリングポストからの放射線データ、および日本気象協会からのGPVデータ、アメダスデータを常時収集し、緊急時に備えています。

 万一、原子力発電所などで事故が発生した場合、収集したデータおよび通報された放出源情報を基に、風速場、放射性物質の大気中濃度および被ばく線量などの予測計算を行います。これらの結果は、ネットワークを介して文部科学省、経済産業省、原子力安全委員会、関係道府県およびオフサイトセンターに迅速に提供され、防災対策を講じるための重要な情報として活用されます。

※SPEEDI:System for Prediction of Environmental Emergency Dose Informationの頭文字です。

出典:(財)原子力安全技術センター

 以下は河野太郎衆議院議員の2011年11月13日のメルマガ”ごまめの歯ぎしり”の一節だ。


 このもう一つがくせ者だ。

 平成元年からの二十数年間で最も伸びている予算項目は、社会保障関係費ではなく、科学技術振興費だ。300になる。

 日本は科学技術立国だから、などという単純な理由で、基礎科学も技術も一緒くたにして、予算を増やしてきた。自民党時代の事業仕分けでも、科学技術立国などというお題目の下でつくられてきたさまざまな無駄にメスを入れた。

 亀井善太郎元代議士がおもしろいことを言っている。「文部科学省支配の下で我が国の科学技術がどうなったのか、『原子力』を思い出せば明らかだ。原子力ムラと呼ばれる集団をつくり、特定の目的に合致したことでもなければ、科学としても科学技術としても認められない巨大な予算消化集団をつくってしまった。」

 とことん真理を突きとめようという純粋な科学と、産業や社会に貢献するためにいつまでに何を達成するかという目標をはっきりさせて、それを達成できたのかをしっかりとレビューすべき技術開発が意図的に混同されて、科学技術振興予算が増やされてきた。

 だからこの分野は最もきっちりと事業仕分けがなされなければならない。

 衆議院の決算行政監視委員会では、政府の猛烈な横やりをはねのけて原子力関係の支出の仕分けをやる。そしてもう一つがスパコンの仕分けだ。

 スパコン予算はきわめて怪しい。

 日本のスパコンは、スカラー型とベクター型をあわせたものでなければならないというのが当初の文科省の主張だったのに、ベクター型のNECと日立が撤退し、あっという間に富士通のスカラー型のみのスパコンになった。

 その際、スカラー、ベクターが必要だという当初の主張はどうなったのか。

 誰がどういう理由でスカラー型、ベクター型の混合型を主張していたのか、なぜ、それがスカラー型一本になったのか、なぜ、NECと日立が撤退した時に再度、議論が行われなかったのか。

 スパコンの開発そのものに関する議論がきわめて曖昧だ。

 そして、自民党時代の事業仕分けから繰り返し問われている「なぜ一番でなければならないのか」という質問に、まだ文科省は答えていない。

 この質問は、よく誤解されている。というよりも、スパコン村の住民が意図的に誤解されるような情報の流し方をしているのだ。

 たとえば、論文を一番最初に出さなければならないのかとか、小さな粒子を探している時に一番小さな粒子を探すのか、二番目に小さい粒子でもいいのか等という質問ならば、一番でなければダメだろう。それは素人でもわかる。

 が、このスパコンの一番でなければならないのかという質問は、そうした質問とは根本的に違う。

 ここで問われているのは、一番速いスパコンを開発することでスパコンの技術を高めるという話ではない。

 ここで問われているのは、日本の科学の進歩にとって、世界で一番速いスパコンが一台必要なのか、それとも二番目のスピードでもいいから複数台必要なのか、あるいは一番速いスパコンで、あるシミュレーションを行った場合と二番目に速いスパコンでシミュレーションを行った場合に、結果が出るまでに何分の差があるのか、その差を最終成果物が出るまでに埋める方法がないのか、ということである。

 そういう質問であるということを理解した上で、論文を一番最初に出さなくてもいいのかというような質問のふりをして、一番を目指さなくてもよいではないかとは科学をわかっていない等と反論してみせる学者がいるが、予算を減らされたら困るという互いの傷をなめあっているだけだ。

 スパコン村の中央には、文科省の情報科学技術委員会なるものがある。ここが問題の根幹の一つだ。

 この委員になぜスパコンが必要なのかと尋ねると、文科省が必要だと言うから、という答えが返ってくる。

 一部のスパコンユーザーが、文科省と組んでスパコンが必要だと騒ぎ、それをつくらせて使っているという構図が見てとれる。

 スパコン、原子力をきっかけに利権化している科学技術振興予算にしっかりとメスを入れていきたい。


河野太郎衆議院議員の2011年11月13日のメルマガ
”ごまめの歯ぎしり”より


ここ一番で機能しなかったSPEEDI

 SPEEDIが事故当初、リアルタイムのシミュレーションを提供とするシステムとして機能しなかったのは、技術的な理由ではなく、政治的な理由という指摘もあるが、技術であるか政治であるかは別として、現実に何ら機能しなかったのは間違いない!

 事故からかなりの時間が経ってからやっと出してきたシミュレーション図は、幼児の甲状腺に蓄積した放射線量とかで、一般の人が見ても、いったいその図が何を意味するのかが分からなかった。本来、避難やヨウ素剤服用の目安として参照されるべき重要な情報なのであるから、当事者である住民がその判断が出来る解説が必要であった。またすでに公表した時点ではヨウ素剤服用の時期を過ぎているから幼児の甲状腺に関する情報より外部被曝に関わる情報を優先すべきである。

 おそらく、部分的な空間線量率のモニタリング値や土壌の実測値がでてから、それに整合するように結果を合わせ、しかも幼児の甲状腺に積算した放射線量などという、まったく国民を馬鹿にした図をだしてきたのだろう。驚きである。

 ※ 3月23日頃、最初に安全委員会から公表されたのは内部被曝
    臓器等価線量とかで、12日間、屋外にいた場合の幼児が
    甲状腺に受ける被曝線量であった。ヨウ素の同位体の合計で
    ありヨウ素131の積算線量を示していた。しかし、こんなものを
    大きな放出があった後になって、公表してもほとんど意味が
    ないことは明らかである。
    「スクリーニングレベルを超える例はありませんでした」という言い訳
    をするために公表したと言われても仕方ないだろう!

 過去における文部科学省の科学技術政策振興予算の目玉は、原発開発、宇宙開発、海洋開発、それにスパコン開発である。

 過去、巨額な予算を投入しながら原発が前代未聞の巨大事故を起こし、同じく巨額を投入し開発してきたスパコンとSPEEDIが肝心なところで機能不全となったのである。

 にもかかわらず、民主党政権は未曾有の財政難の中、科学技術予算を増やしているというのだから驚きである。

 次に、原発と SPEEDIの両方に関わってきた(財)原子力安全技術センターだが、そのセンターのサイト(センターの歩み)をみると、1980年代にSPEEDIの研究開発を開始、1986年(昭和61年)にSPEEDIの運用を開始している。センターにはじめてスパコンがおかれたのは1990年(平成2年)である。さらにセンターでは2005年(平成17年)に 高度化SPEEDIが運用開始されている。

 ※ 参考:原子力発電所からの放射線拡散予測関連資料
    日本原子力研究所内部資料、1980年2月20日


 このようにSPEEDIの研究開発と運用には、スパコンが不可欠なように思えるが、スパコンの計算速度をみてみると、以下の図1にあるように、開発当初から現在まで計算速度はほぼ右肩上がりで増加していることがわかる。


図1 スパコンの年代別の計算速度の推移
出典:http://www.kogures.com/hitoshi/history/super-computer/index.html

つづく