エントランスへはここをクリック   


国民投票の基礎知識
(3)改正案の落とし穴

青山貞一 Teiichi Aoyama
東京都市大学名誉教授(公共政策論)
掲載月日:2017年11月3日, 11月8日追加
独立系メディア E−wave Tokyo


 @手続の概要  A一度あった原案提出  B改正案の落とし穴
 C同床異夢の2/3  D世論調査の行方  E脱原発条項を!
 F改憲・立憲トピックス

◆憲法改正の発議

 憲法改正原案について国会における最後の可決をもって、国会は憲法改正の発議をし、国民に提案したものとされる。
 
 発議の内容は、関連する事項ごとに区分して発議されることになる、とあるので、自民党が過去何度か出している改正草案のように、たとえば主権を国民から国家とするような事項は、憲法前文だけでなく全項目の変更に関わるものであるので、条項の一部を変更、追加、削除するものではなくなる。

 すなわち、従来からの自民党自主憲法草案のように、現行憲法とは別に自主憲法を提案するような改正草案は、条項ごとの変更、修正、削除、追加ではすまなく、自民党の憲法改正原案を自主憲法案とすることになるので、発議の内容は、関連する事項ごとに区分して発議されることとは異なる、あるいは反するものとなるはずである。

 しかし、以下に述べるように、一括投票案による投票のように、個別条項の改正などではなく、改正草案のように多数の条項案を一括して国民投票にかける方式もないとはいえないのである。


◆国民投票時に憲法改正案が複数ある場合
 
 ステップ4の国民投票では、憲法改正案ごとに一人一票となる。

 これは、国会における2/3以上の議員をもって行われる憲法改正案の発議が、内容において関連する事項ごとに区分して行われるためである。

 下の図は、投票用紙のイメージである。


出典:選挙ドットコム
 
 下図の最下段にあるように、国民投票で、もし、憲法改正案が複数ある場合は上記の投票用紙は、憲法改正案ごとに調製されることになる。



 国民投票では、当然のことだが、憲法第九条改正に賛成か反対の投票だけではない。

, 投票の具体的な流れとしては、個別の憲法改正案ごとに投票用紙を受け取り、記入し、投票箱に投函し、次の憲法改正案の投票に移るという方法が想定される。案の数だけこれが繰り返されることになる。

 逆説すれば、実際の投票では、「憲法改正」そのものの是非ではなく、個別の改正項目毎に投票者の1/2が得られるかが問われることになるのである。もちろん、国民によっては、A案には賛成だがB案には反対という投票者もあるし、改正そのものに反対の投票者は、すべての投票用紙に反対を投ずることになる。

 国会議員が衆参それぞれでで2/3以上で憲法改正が発議されても、肝心な国民投票では、個別の改正項目毎に有権者に判断されることとなるのである。国会法68条の3では『個別発議の原則』において個別発議の案が複数あった場合に相当する。


◆一括投票か、条項ごとの個別投票か

 ところで、憲法改正案でもっとも重要なことは、国民に賛否を問う案そのものの形である。

 ここにいう形とは、大別して2つある。それは条項ごとの個別投票か、がこれに該当する。それとも条文を一括して投票にかけるのかである。具体例を示せば、以下のようになる。

 具体案を示せば、条項ごとの個別投票の例としては、憲法改正案が安倍首相が2017年5月3日「日本会議」の集会にビデオメッセージを送ったように、憲法九条の第一項、第二項に加え、第三項として自衛隊の存在を書き加えるような場合と、もうひとつの条文を一括して投票する例としては、自民党憲法改正草案のように、現行憲法の内容を丸ごと代える単独の条文の場合である。

 一括投票の条文の場合には、複数ある条文間に矛盾が生じない様、まとめて発議されることになるから、このような場合には条文全体を対象に、国民は賛成、反対の投票を行うこととなる。もちろん、個別条文の改正の場合でも、項目の間での矛盾が生じないようにすることになる。これらは、憲法審査会において審査されることとなる。

 すなわち、  憲法改正案が複数の関連する条文がまとめて発議されている場合は、複数の条文をまとめて一人一票で投票することになり、単独の条文として発議されている場合は、その条文のみに対して投票する事になるわけである。
 
 上記はについては、国民情報/住民投票情報室の今井一氏のコメントを以下に示す。

 投票形式をめぐっては、@複数の条項を一まとめにして賛否を示す一括投票になるのか、A各条項ごとに賛否の意思を示す個別投票になるのか、という問題があります。しかし、他国の事例を見る限り、相互に全く関係のない問題を並べて回答は一つということはあり得ません。個別投票は世界の常識です。

 とはいえ、日本でこの先、憲法改正の国民投票が行われた場合、それが完全に個別投票になるかどうかについては、まだ曖昧な部分も残っています。

 一つは自民党内の手段を選ばない人々の思惑です。私は3年半ほど前、自民党所属のある国会議員と討論会に出席した際、憲法改正手続法では条項ごとの個別投票になるかどうか問い質したことがあります。彼の答えは「それは何とも言えない」というものでした。

 自分たちは何としても9条を変えたいので、改正に有利なことは脱法しない範囲で何でもありだ、と言うのです。そのため、投票方式においても、例えばプライバシー権や環境権の明文化と9条の改正の賛否について一括、抱き合わせして投票させた方が各項目ごとの個別投票より有利だと判断すれば、自民党はそうすると言うのです。

 彼は、正直な人で「それがよくないと言うのなら、国民世論を盛り上げてもらうしかない。こうした提案が自民党から出されたとき、国民が強くノーと言えば、私たちはその案を引っ込めるが、特段声が上がらなければ、そのまま押し切る」と明言しました。

 もう一つは、実際に成立した法文の曖昧さです。改正手続法とともに「国会法の1部を改正する法律」が成立し、これにより、「国会法」第68条の3で、「前条の憲法改正原案の発議に当たっては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする」と規定されました。

 つまり、「プライバシー権の明文化」と「環境権の明文化」と「9条の改正」が一括投票になることは絶対にない半面、「9条第2項の書き換え(改正)」と「9条第3項の追加(改正)」を「関連する事項」として一括して賛否を問い、一括して投票させる可能性は残っています。

 いずれにせよ、国民投票では国会で発議した項目ごとに賛否が問われるので、例えば「9条第1項の改正」と「第9条第2項の改正」が、国会で別個に発議されれば国民投票でも別個に賛否が問われるし、一括して発議されれば国民投票でも一括して投票させられることになります。



◆青山貞一のコメント


日刊ゲンダイ  2017-10

 慶応大学名誉教授の小林節氏が維新がこだわる高等学校教育無償化は、なにも憲法改正などせずとも可能と述べています。御意です。

 一方、何度も言いますが、最高裁の判例となった判決内容は、解決せずとも憲法改正と同じ効力を持ります。かつて公明党が加憲として、「環境」が憲法の条項にないので、これを加えるなどと主張していた(今は取り下げている)のは、まさに数々の過去の裁判で、「環境権」は実質憲法判例となっているからです。
,
 事実、現在、国民(代理人としての弁護士)は行政訴訟、民事訴訟を問わず、差し止め訴訟では、環境権、人格権をもとに初審から最高裁まで闘っており、勝訴を勝ち得ています。これは最古歳判例の中に、人格権とともに環境権があるからです。
,
 そのいみで弁護士、検事上りが多い公明党はどんどん改憲に慎重どころか反対になっているのは、そのためだけでなく、創価学会会員、公明党会員のうち、とりわけ婦人部系会員が憲法改正に反対しているためです。その昔、公明党と言えば、平和、環境、福祉を三本柱にしていた。
,
 ところで、立憲民主党の枝野代表(東北大法学部→弁護士→国会委員)が、選挙中、選挙後ともに、憲法改正に慎重なのは、いうまでもなく安倍政権による無謀な解釈改憲による集団的自衛権を容認し、そのもとで数々の安保補正を議席の数に物を言わせて制定、施行させた。しかし、その根拠となる解釈改憲が違法なのです。それが解消されないなかでの憲法改正は論外であると述べています。これは法理上も至極まっとうな考え方です。
,
 安倍首相は、集団的自衛権はすでに解釈改憲で憲法に織り込み済みなので、会見では個別条項の追加とし、憲法第九条の第三項に自衛隊を明記するだけと強弁しています。しかし、実際は、自民党の憲法改正草案にあるような、全文一括条項として憲法審査会に原案をかけ、2/3の議席で無理やり国会が改正を発議しても、まんず100%国民投票段階で反対されることを知っています。だから個別条項の憲法第九条の第三項に自衛隊を明記のみとすると言っているのでしょう。
,


 つまり衆参両院で全体の2/3議席をとっても、全文一括条項の改憲原案としての国民主権を国家主権に変える自民党改憲草案は、国民投票で到底有権者の過半数をとれないことは、まず自明です。これは公職選挙法の規制を受けない国民投票の運動で、いくら自民党が過大な選挙資金を投入してテレビ、新聞でのCMや広告をも無理なのです。


つづく