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 シルクロードの今を征く
Now on the Silk Road

 イラン4 政治

(Tehrān、イラン)

青山貞一 Teiichi Aoyama  池田こみち Komichi Ikeda 共編
掲載月日:2015年1月23日 更新:2019年4月~6月、2020年7月31日公表予定
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 次はイラン4です。

◆イラン4

政治

 イランの政体は1979年以降の憲法(ガーヌーネ・アサースィー)の規定による立憲イスラーム共和制です。政治制度的に複数の評議会的組織があって複雑な関係をなしています。

 これらの評議会は、民主主義的に選挙によって選出される議員で構成されるもの、宗教的立場によって選出されるもの、あるいは両者から構成されるものもあります。以下で説明するのは1989年修正憲法下での体制です。

法学者の統治

 イランの政治制度の特徴は、何といっても「法学者の統治」にあります。これは、イスラーム法学者の解釈するイスラームが絶対的なものであることを前提とし、現実にイスラーム法が実施されているかを監督・指揮する権限を、イスラーム法学者が持つことを保障する制度です。

 この制度は、シーア派イスラームならではの制度といってよいのです。イランはシーア派のなかでも「十二イマーム派」に属しますが、一般にシーア派の教義では「イマーム」こそが預言者の後継者として、「イスラームの外面的・内面的要素を教徒に教え広める宗教的統率者」としての役割を担うとされています。

 シーア派はイジュティハードの権限を持つイスラーム法学者を一般大衆とは区別し、この解釈権を持つイスラーム法学者(モジュタヒド)に確固とした政治的・宗教的地位を与えています。モジュタヒドの最高位にあるのが、「マルジャエ・タグリード(模倣の源泉、大アーヤトッラー)」です。

 マルジャエ・タグリードはシーア派世界の最高権威ですが、ローマ教皇のように必ず1人と決まっているわけではなく、複数人のマルジャエ・タグリードが並立することがあります。

 1978年から1979年のイラン・イスラーム革命によって、マルジャエ・タグリードの1人であったホメイニーがイランの最高指導者となり、宗教的のみならず、政治的にも最高の地位に就くこととなりました。

選挙制度

 イランでは立候補者の数が多いのです。2000年2月に行われた第6回国会選挙では、290名の定員に対し、7000人近くが立候補し、2001年の第8回大統領選挙では、840名が立候補しました。

 特に国会選挙では、投票の際、投票者が一名を選択するのではなく、その選挙区の定員数まで何人でも選定することができます。従ってテヘランのように30名もの定員がある選挙区では、2、3人しか選ばない者もいれば、30人まで列記して投票する者もいます。

 つまりどのような投票結果になるか予想しにくい制度であるばかりか、死票や票の偏りがおこりやすいのです。テヘランのような大都会では、投票が有名人に集中し、候補者は規定票を獲得できず、第2ラウンドへ持ち込まれるケースも多いのです。

 国会選挙の場合、投票総数の三分の一を獲得しなければ、たとえ定員数内の上位でも当選にはなりません。そして、第2ラウンドの選挙になります。

 しかし、こうしたやり方では選挙費用がかさむ上、第2、第3ラウンドとなれば選挙結果が決まるまで時間がかかりすぎ国会の空白期間が生じます。そのため、2000年1月上旬選挙法の改正が行われ、第一ラウンドの当選をこれまでの投票総数の3分の1から25%以上獲得すれば当選とし、第2ラウンドでは、従来通り投票総数の50パーセント獲得すれば当選というように改正されました。

 護憲評議会は、選挙の際に、立候補者の資格審査(選挙資格を満たしているか否か)を行なっていまする。

最高指導者

 ヴェラーヤテ・ファギーフ(法学者の統治)の概念はイランの政治体制を構成する上で重要な概念となっています。憲法の規定によると、最高指導者は「イラン・イスラーム共和国の全般的政策・方針の決定と監督について責任を負う」とされています。

 単独の最高指導者が不在の場合は複数の宗教指導者によって構成される合議体が最高指導者の職責を担います。最高指導者は行政・司法・立法の三権の上に立ち、最高指導者は軍の最高司令官であり、イスラーム共和国の諜報機関および治安機関を統轄します。

 宣戦布告の権限は最高指導者のみに与えられています。ほかに最高司法権長、国営ラジオ・テレビ局総裁、イスラーム革命防衛隊(イスラム革命防衛隊、IRGC)総司令官の任免権をもち、監督者評議会を構成する12人の議員のうち6人を指名する権限があります。

 最高指導者(または最高指導会議)は、その法学上の資格と社会から受ける尊敬の念の度合いによって、専門家会議が選出します。終身制で任期ははありません。現在の最高指導者はアリー・ハーメネイーです。

大統領

 大統領は最高指導者の専権事項以外で、執行機関たる行政府の長として憲法に従って政策を執行します。法令により大統領選立候補者は選挙運動以前に監督者評議会による審査と承認が必要で、国民による直接普通選挙の結果、絶対多数票を集めた者が大統領に選出されます。

 任期は4年。再選は可能ですが連続3選は禁止されています。大統領は就任後閣僚を指名し、閣議を主宰し行政を監督、政策を調整して議会に法案を提出します。大統領および8人の副大統領と21人の閣僚で閣僚評議会(閣議)が形成されます。副大統領、大臣は就任に当たって議会の承認が必要です。首相職は1989年の憲法改正により廃止されました。またイランの場合、行政府は軍を統括しません。

議会(マジレス)

 議会は「マジレセ・ショウラーイェ・エスラーミー Majles-e showrā-ye eslāmī」(イスラーム議会)といい、一院制です。立法府としての権能を持ち、立法のほか、条約の批准、国家予算の認可を行います。

 議員は任期4年で290人からなり、国民の直接選挙によって選出されます。議会への立候補にあたっては監督者評議会による審査が行われ、承認がなければ立候補リストに掲載されません。この審査は“改革派”に特に厳しく、例えば2008年3月の選挙においては7600人が立候補を届け出ましたが、事前審査で約2200人が失格となっています。

 その多くがハータミー元大統領に近い改革派であったことから、議会が本当に民意を反映しているのか疑問視する声もあります。また、議会による立法のいずれについても監督者評議会の承認を必要となっています。日本語の報道では国会とも表記されます。

専門家会議

 専門家会議は国民の選挙によって選出される「善良で博識な」86人のイスラーム知識人から構成されます。1年に1回招集され会期は約1週間。選挙の際は大統領選、議会選と同じく、立候補者は監督者評議会の審査と承認を受けなければなりません。

 専門家会議は最高指導者を選出する権限を持っています。これまで専門家会議が最高指導者に対して疑問を呈示したことはありませんが、憲法の規定上、専門家会議は最高指導者の罷免権限も持っています。

監督者評議会

 監督者評議会は12人の法学者から構成され、半数を構成するイスラーム法学者6人を最高指導者が指名し、残り半数の一般法学者6人を最高司法権長が指名します。

 これを議会が公式に任命します。監督者評議会は憲法解釈を行い、議会可決法案がシャリーア(イスラーム法)に適うものかを審議する権限をもちます。したがって議会に対する拒否権をもつ機関であるといえます。議会可決法案が審議によって憲法あるいはシャリーアに反すると判断された場合、法案は議会に差し戻されて再審議されます。日本の報道では護憲評議会と訳されますが、やや意味合いが異なります。

公益判別会議

 公益判別会議は議会と監督者評議会のあいだで不一致があった場合の仲裁をおこなう権限を持ちます。また最高指導者の諮問機関としての役割を持ち、国家において最も強力な機関の一つです。

司法府

 最高司法権長は最高指導者によって任じられ、最高裁判所長官および検事総長を任じます。一般法廷が、通常の民事・刑事訴訟を扱い、国家安全保障にかかわる問題については革命法廷が扱います。革命法廷の判決は確定判決で上訴はできません。またイスラーム法学者特別法廷は法学者による犯罪を扱いますが、事件に一般人が関与した場合の裁判もこちらで取り扱われます。

 イスラーム法学者特別法廷は通常の司法体制からは独立し、最高指導者に対して直接に責任を持ちます。同法廷の判決も最終的なもので上訴できません。


イラン5へつづく

North part of Tehran photographed from the top of Milad tower in a clean air. On Nature Day people leave
the city to go out into the countryside and the number of cars decreases. Because of that, favorable wind
and after three days of rain, it was possible to photograph Tehran in its cleanest condition.
Amirpashaei - استودیو پاشایی, CC 表示-継承 4.0, リンクによる
Source:Wikimedia Commons