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放射性物質・放射線に関する
基本的事項について(5)
version 0.1
青山貞一 Teiichi Aoyama
東京都市大学環境情報学部教授
環境総合研究所所長
掲載月日:2011年4月10日
 独立系メディア E−wave


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日本政府の食品・飲料水に関する放射能汚染基準
 
 日本政府は食品中のダイオキシン類同様、食品中の放射能に関しても、自ら基準、ガイドライン、暫定限度などを設定して来ませんでした。

・日本政府は過去、輸入食品について

 ただ、日本政府は今回の福島第一原発問題が起きる前までは、チェルノブイリ原子力発電所事故に係る輸入食品中の放射能濃度の暫定限度を使っていた。自分では設定しないが、海外から輸入される食品については暫定限度を用いていたのである。

 この食品中の放射能濃度の暫定限度は、ICRP(国際放射線防護委員会)勧告にある放射性降下物の核種分析結果に対応したもので、輸入食品中のセシウム134及びセシウム137の放射能濃度を加えた値として食品1kg当たり370ベクレル(Bq)としてきたのです。

 ところが、何と何と、福島第一原発事故が起きた後の2011年3月17日、突如、厚生労働省担当部長名の事務連絡で水道水や食品についての暫定基準を発表しました。


●3月17日の食品暫定基準

 従来、上述のように、日本政府はセシウム134とセシウム137をあわせた放射能濃度が暫定限度(ICRP勧告値相当)として食品1kg当たり370ベクレル以下としてきたわけですが、福島原発事故後の3月17日、政府は突如、泥縄的に厚生労働省の担当部長から自治体担当者などへの事務連絡で、以下のような暫定基準を一方的に設定し通知したのです。

 それはセシウム137について、野菜類は1kg当たり500ベクレル以下と大幅に上記のICRP暫定限度を緩和した暫定基準を設定しました。

 従来は上記のようにセシウム134とセシウム137をあわせた放射能濃度が食品1kg当たり370ベクレル以下であったのですが、今回の事務連絡ではセシウム137だけで野菜類は1kg当たり500ベクレルという値は大幅な規制緩和です。

 その他、牛乳や乳製品は1kg当たり200ベクレル、穀類は野菜同様1kg当たり500ベクレル、肉・卵・魚・その他の食品も1kg当たり500ベクレルですから、野菜同様、3月17日の厚生労働省が発表した暫定基準は、総じて大幅に規制を緩和した暫定基準であると言えます。

 ・3月17日の食品に関する暫定基準
  セシウム(Cs-137)137 
  牛乳・乳製品 200 ベクレル(Bq)/kg
  野菜類  500 ベクレル(Bq)/kg
  穀類    500 ベクレル(Bq)/kg
  肉・卵・魚・その他 500ベクレル(Bq)/kg


 一方、ヨウ素131については、下に示す値であり、とくに根菜と芋類を除く野菜類が1kg当たり2000ベクレルという値は、半減期が8日であったとしても、信じられないほどの大幅な実質的に見て規制緩和です。

 ・ヨウ素(I-131)131 
  牛乳・乳製品 300 ベクレル(Bq)/kg
  野菜類 (根菜、芋類を除く ) 2,000ベクレル(Bq)/kg

 高濃度が検出されたから、それに対応してゆるゆるの暫定限度を泥縄で設置し、通知したというのが実態でしょうね。


●3月17日の水道水暫定基準

 一方、人間の生存にとって最も重要なのは水道水です。

 東京の金町浄水場の飲料水が高濃度となったことがあります。これは上流を含め河川に福島原発事故で放出される降下物、すなわち粒子状物質が落ちたためと考えられます。

 当初、水道水は300ベクレル/L(リットル)以上のあったのですが、数日後、80ベクレル、50ベクレル、20ベクレルと減少してゆきました。これに対応し同期間における大気系の放射性物質の汚染濃度(放射線量)を見ると、順次下がっています。

 その水道水ですが、食品同様、日本には放射能に関する飲料水基準がなく、世界保健機関(WHO)の以下の水道水質ガイドラインを遵守してきました。ヨウ素131、セシウム137ともに1リットル当たり10ベクレルです。

 ・従来日本政府が遵守してきたWHO飲料水水質ガイドライン
  ヨウ素 I-131   10ベクレル(Bq/L) 
  セシウムCs-137 10ベクレル(Bq/L )

  出典は下記。203-204ページ、表9-3参照
  http://whqlibdoc.who.int/publications/2004/9241546387_jpn.pdf

 しかし、東京都水道局金町浄水管理事務所(金町浄水場)で水道水の放射能汚染が200ベクレルを超す直前の2011年3月17日、厚生労働省は食品同様、食品安全部長の通知一本で、従来10ベクレルを準拠してきた日本政府の値を大幅に規制緩和したのです。

◆青山貞一: 厚労省、3月17日に水道水基準を30倍も緩和していた! 初出:2011.3.26

厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知

 平成23年3月17日付「食安発0317第3号」によって放射能汚染された食品の取り扱いについて下記のとおり飲食物摂取制限に関する指標が明示されました。

緊急時における食品の放射能測定マニュアルの送付について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r9852000001559v.pdf


 1リットル当たり10ベクレルであったものを、突如、ヨウ素131は1リットル当たり300ベクレル(成人)とし、乳児用として1リットル当たり100ベクレルとしました。さらに、セシウム137については、1リットル当たり200ベクレル(成人)とし、乳児用として1リットル当たり100ベクレルとしました。

2011年3月17日以降の日本の暫定基準値

  ヨウ素(I-131)131    飲料水 300 Bq/kg
  セシウム(Cs-137)137  飲料水 200 Bq/kg

  ※100 Bq/kg を超えるものは、乳児用調製粉乳及び直接飲用に供する
    乳に使用しないよう指導すること。

 これは、成人用水道水はヨウ素131で実に30倍、セシウム137で20倍もの規制緩和であり、幼児用も10倍もの規制緩和となります。

 
これを見ると、日本政府は金町浄水場で高濃度の放射能が検出される前から水道水の汚染を知っており、それを100ベクレルほど上回る暫定基準を設定したと思われても仕方がなと思えます。



野菜の放射能汚染について

 以下における青山の記述内容は、あくまで環境総合研究所が過去に行った野菜に含まれるダイオキシン類など超微量な有害化学物質の分析結果から行った類推であります。それを最初にお断りしておきます。

 野菜のうちほうれん草などの「葉菜」に関しての汚染経路は、ガス状や微粒子状の汚染物質ともに葉に付着するものとは別に、大気から葉の気孔(小さな穴)に入り葉の組織内部に取り入れます。

 大気汚染系の放射性物質は、大別して(1)気化したガス状物質と(2)気化しないで分子ないし水蒸気などに付着する粒子状物質があります。 野菜、とくに葉菜系(ほうれんそう、ちんげんだい、こまつななど)は、私たちが所沢ダイオキシン問題で多くのサンプルで検証した結果からすると、

1)水や土壌の汚染により根から毛細管現象で葉の組織に入る可能性よりも、
2)放射性の粒子状物質(放射性降下物)が葉に付着すること、
3)葉の呼吸により気化したガスや粒子の細かい降下物が組織内部に気孔を通じて取り入れられることが考えられます。

 1)については、あれほど高濃度に土壌が汚染された所沢でも根菜中のダイオキシン類濃度は非常に低かったことがあります(環境総合研究所の実証研究)。

 2)は白菜などの場合、降下物を葉が巻き込むことで高濃度となっている場合がありました。これは大阪摂南大学薬学部教授、宮田秀明先生(当時)の分析結果です。、

 3)はほうれん草、小松菜など葉菜全般についていえることで、松葉調査はこの原理を使っています。

 したがって、2)由来のものは清浄な水で洗えば落ちますが、3)由来のものは洗ってもダメです。実際、ほうれん草、松葉などの分析では前処理でサンプルを水洗いしていますが、大気が汚染されている場合には生物組織の中に組み入れられるため、分析結果は高濃度となっています。

 政府がなぜ、出荷制限をなぜほうれん草などごく一部の葉菜に限定しているのか、まったく理解に苦しみますが、ひとつ言えるのは、ちんげんさい、こまつななどは苗から出荷までの期間が短いため、比較的長いほうれん草などに比べると放射性物質の値が低く出るからかも知れません。

 ただし、上記の研究結果は、あくまでピコグラム単位の超微量のダイオキシン類など有害化学物質の場合であり、放射性物質(ガス状、粒子状)の場合にそのまま当てはまるかどうか、不明な部分があります。 そして、同じ野菜でも「葉菜」と「根菜」とのでは汚染の仕方が大きく異なるはずです。

 過去の測定分析の結果では、「根菜」はよほど土壌が汚染された場合でも、それほど「根菜」の組織内部の汚染は少なく、他方「葉菜」系はガス状や微粒子状の汚染物質は、空気から葉の気孔に入り組織内部に取り入れておりました。

 また「葉菜」でも、粒子状の汚染物質が降下物として葉に沈降、付着するものもあります。さらに、白菜のように沈降、付着した後、葉に巻き込まれるものがあります。

 以上のように、ガス状物質の多くは葉の気孔から組織内部に入ることが多く、他方、粒子状物質は、粒子の直径が小さいものは気孔から組織内部に入りますが、他のものは葉に付着します。

 このように原理的には、洗うことで葉に付着した放射性物質は洗い流され分析濃度は下がると推測されます。一方、気孔から葉の組織の内部に入った汚染物質(ガス状、粒子状物質)は、簡単に洗い流されることはありません。

 従って、野菜、とくにほうれん草、小松菜、ちんげん菜などの葉菜は、洗ってから測れば、洗わない場合に比べ汚染物質の濃度は低くなるはずです。

 なお、2011年4月9日夜のNHKの番組では、「葉菜」の汚染の大部分が葉や茎に放射能が付着するからであり、土壌が高濃度に汚染されると根からも汚染されると解説していました。しかし、これは半分間違いだと思います。もし、そうだとすれば、分析の前処理で葉菜をよく洗えば放射能は洗い落ちるはずです。

 実際にはいくら洗っても葉菜が高濃度となっている、というに被曝から数週間経っても高濃度なのは、間違いなく気孔からガス状、粒子状の放射性物質が組織内に取り込まれているからだと推察されます。



●省庁別の葉菜の分析方法について 

 今回の福島第一原発事故に関連した野菜の測定分析は、文部科学省系の外郭団体である日本分析センターと厚生労働省系の外郭団体である日本食品分析センターの2つの組織が主に対応してきたはずです。

 口に入る食物や飲料水は厚生労働省、それ以外の大気、公共用水(海、湖、川など)、土壌などは、文部科学省が担当してきたはずです。

 とはいえ、原発事故当初はパニックの混乱状態にあり、文部科学省系の外郭団体である日本分析センターでも野菜を分析したもようです。

 野菜を分析する前処理としては、文部科学省系の日本分析センターは洗わず、厚生労働省系の日本食品分析センターは洗ってから測定分析していたと推察できます。

 これは青山の推測ですが、過去の経験から見て厚生労働省は食物中の汚染物質の測定分析値を過小評価する傾向があり、そのために洗ってから分析していたのに対し、文部科学省はそのような配慮はなく、常識的な対応、すなわちそのまま分析してきたと思えます。

 もっぱら、厚生労働省系は通常、家庭では野菜を洗ってから調理するので洗ってから分析する、ということを聞いたことがあります。

 混乱が一段落してきたこともあり、今後は食物系については厚生労働省の方針が政府全体の方針となると思われます。


●政府の野菜の出荷停止方針の跛行性について

 周知のように日本政府は、野菜のうち高濃度に汚染された「ほうれん草」と「かきな」を出荷停止としてきました。しかし、「ほうれん草」と「かきな」を出荷停止とし、同じ葉菜である「ちんげん菜」や「小松菜」などを出荷停止としなかったのは原理的に理解できません。

 同じ「葉菜」でありながら、なぜほうれん草が出荷停止となり、ちんげん菜や小松菜が停止とならなかったのかについては非常に疑問です。もっぱら消費者は、上記の事実が分かっていたから、ほうれん草やかきな以外の葉菜についても、買い控えたのではないかと推察できます。


●他の食品について

 肉類や牛乳が高濃度となった背景は、牛が食べる飼料や牧草などに大気系の放射性物質が沈降/付着し、それを食べているからだと思われます。この場合、牧草が汚染される経路は葉菜のところで解説した通と思われます。付着したものもあれば、気孔から組織内部に取り入れている場合もあります。

 これは、自然系の飼料でる牧草の方が輸入系の飼料よりも汚染が高いことものと想定されます。乳牛が牧草や資料を通じて汚染されれば、牛乳などに放射性物質が含まれることになります。

つづく