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骨抜きの危機
再生可能エネルギー法!

青山貞一

掲載月日:2011年12月3日
 独立系メディア E−wave 無断転載禁


 菅直人前総理が、辞任の前提条件にもした再生可能エネルギー固定価格買い取り法だが、法案は通ったものの、肝心な調達価格算定委員会のメンバー構成で実質骨抜きとなる可能性が大きくなってきた。

◆再生エネ法:委員会人事に議員ら異議 消極的な人が過半数
 2011.12.2 毎日新聞

 再生可能エネルギー固定価格買い取り法(再生エネ法)に基づき、電力の買い取り価格を検討する「調達価格等算定委員会」の政府人事案について、与野党の国会議員らでつくるエネルギーシフト勉強会は30日、「再生エネ法に消極的な人が過半数を占め、問題だ」との異議を提起した。

 価格の設定は、再生可能エネルギーの普及を左右する。勉強会は、算定委員の候補者5人のうち進藤孝生・新日鉄副社長ら3人が再生エネ法に反対したり、消極的な主張をしてきた経緯を問題視。「適切な制度運用ができるとは思えない人選だ」と見直しを求めた。

 委員の任命は国会同意が必要で、枝野幸男経済産業相が11月17日に人事案を国会へ提案し、今国会での同意を目指している。【永山悦子】


◆コケにされた菅前首相 裏切った枝野経産相
【政治・経済】2011年12月2日 掲載 日刊ゲンダイ

あれだけ騒いだのに この始末 <骨抜き再生エネルギー法案 >

 菅前首相もとことん、コケにされたものだ。首相にしがみついて、「これだけは……」と通した「再生可能エネルギー促進法案」がすっかり、骨抜きにされようとしているのだ。

「再生エネルギーが普及拡大できるかどうかは、買い取り価格と買い取り期間を決める調達価格算定委員会が鍵を握る。その人事案が出てきたのですが、驚きました。

 進藤孝生新日鉄副社長を筆頭に山内弘隆一橋大教授、山地憲治元東大教授と5人の委員のうち3人が再生エネルギーに批判的な立場なのです。

 中でも進藤氏はエネルギー多消費産業である鉄鋼業界の代弁者。電気代は安い方がいいに決まっているので、再生エネルギー価格を安く抑えようとするのは見えています。

 これじゃあ、再生エネルギーは普及するわけがないのです」(ジャーナリスト・横田一氏)

 さすがにこんな利益相反のムチャクチャな人事はないと、1日、みんなの党の浅尾慶一郎政調会長や社民党の阿部知子政審会長ら超党派の議員らが連名で、この人事案を3党合意した民主、自民、公明党に対し、「人事案の再考」を求める申し入れを行った。

 こんな人事では国会で同意できないし、それを数の力で押し切られたら「脱原発依存の民意無視」ということだが、驚くのは野田政権や枝野経産相の二枚舌だ。

 野田政権は再生可能エネルギー政策を引き継ぐ約束だったし、枝野は菅政権の官房長官。二人三脚で再生エネルギーの促進に旗を振っていたくせに、官僚の振り付けとみられる人事案を出してくる。

 コイツにも毒が回り、すっかり骨抜きにされてしまった。

 これには菅政権でエネルギー政策の転換に尽力した梶山恵司・前国家戦略室審議官も「野田政権のエネルギー政策見直しは期待できない。事務局を押さえた官僚主導でくだらない議論ばかりしている」と怒っていたが、肝心の菅はお遍路に行ったりして沈黙している。

 ま、野田も枝野もこの程度の政治家であることは分かっていたが、改めて、どうにもならない連中だ。
 

 再生エネルギー法案の場合には、上に掲載した日刊ゲンダイの記事にあるように、 「再生エネルギーが普及拡大できるかどうかは、買い取り価格と買い取り期間を決める調達価格算定委員会が鍵を握る」が、その委員人事こそ重要なのである。

 菅直人首相退陣後、野田政権が出してきた委員案では、5人の委員のうち3人、すなわち進藤孝生新日鉄副社長を筆頭に山内弘隆一橋大教授、山地憲治元東大教授が再生エネルギーに批判的な立場な人物である。

 以下は、環境エネルギー政策研究所 プレスリリースにみる3名の素性と過去の行状についての解説である。

◆調達価格算定委員会の主な委員案

進藤孝生(日本経団連地球環境部会長、新日鐵代表取締役副社長)氏は、日本経団連かつ特定企業の代表取締役副社長であり、特定の利害を反映することになりかねません。7月29日の衆議院経済産業委員会の参考人質疑では、参考人として電力多消費型産業(とりわけ電炉)の立場を強調しており、法案修正の結果盛り込まれた17条の減免対象の企業になる可能性もある直接的利害関係者です。また、日本経団連は、再生可能エネルギーの普及に反対をしてきた団体であり、当初三年間は普及(再生可能エネルギー事業者の利益)を重視するという附則第七条に反します。さらに、ご自身が、再生可能エネルギーに関する専門家ではありません。

山内弘隆(一橋大学大学院商学研究科教授)氏は、日本の再生可能エネルギー市場停滞の原因を作った「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(いわゆる「RPS法」)の審議の中で、固定価格買取制度に否定的で、再生可能エネルギーの普及に消極的な姿勢を取ってきています。そして、7月29日の衆議院経済産業委員会の参考人質疑においては、本制度の価格決定に対して「一律の買い取り価格で、逆にエネルギー種間で競争していただく、効率的なものから入れていただく」ことを望ましいと発言しており、国会の意向であえて条文が修正された電源種ごとの価格設定にも否定的な立場を示しています。

山地憲治(地球環境産業技術研究機構(RITE)理事・研究所長、元電力中央研究所 研究員)氏は、そもそも一律価格案を出してきた経産省の新エネルギー部会長であり、個別の価格設定のための会合で、「国会同意人事」でありながら兼務することは大いに疑問視されます。また、「RPS法」の審議なかで、固定価格買取制度を中心的に批判する立場にあります。

出典:環境エネルギー政策研究所 プレスリリース

 となれば仮に残り2人に知名度の高い再生エネルギーを推進してきた専門家を入れたとしても、最後は採決で推進派は負けてしまう。

 委員選任が国会承認(あるいは同意)事項であっても、自民党はもともとこの法案に反対、民主党も半分は反対だったから両者が上記3人の委員人事を承認すれば終わりである! 

 自民、民主の半分は菅直人を辞めさせたい一心で法案を賛成させただけと言ってもよい背景を理解せず、法案成立を喜んでいたのではだめだ。

.....

 ひるがえって、民主党が政権を奪取後、前原国土交通大臣(当時)が行った八ッ場ダム建設中止やかつての長野県田中康夫知事の浅川ダムについての脱ダム宣言でも同じだ。

 いくら大臣が中止宣言し、知事が脱ダム宣言をしたところで、実務をあずかる土建官僚は、首相、大臣、知事在任中は死んだふりをしているだけ。

 政治状況が変わると、ゾンビよろしくムクムク起きだし、政省令変更、行政手続、予算措置、委員会運営など、さまざま姑息な手段を使って実質的に法案や政策を骨抜きにしてしまうのである。

 これはよほど省庁や自治体の行政運営に精通していないと、そのからくりが分からない。分からないというだけでなく、官僚は決して率先して首相、大臣、知事に、そのカラクリを教えないのである。

 八ッ場ダム事業では、前原大臣が辞任後、国土交通省内にお手盛りの委員会を設置し、そこで再検討をさせるとともに、関連都県知事らが再検討委員会を設置するなどし、いずれも課題はあるものの事業遂行が妥当などというはじめから結論ありきの検討を行うことになる。

 すでに4600億円という巨額の事業費を使い果たし、関連する特別会計も使い長野原町は土木事業のデパートと化しており、本体工事以外は90%以上完成している。

 長野県の浅川ダムの場合はどうだろうか? 田中康夫知事が退任後、公共事業監視評価委員会の委員定員ぎりぎりまでダム建設派委員を増やされ、反対派は押し切られている。県の土木部官僚は、すぐさま国にダム建設調査費などの予算請求を行い国は待ってましたとばかり調査費を出したのである。

 政権運営、それも政策実現の現場をホトンド経験したことがない民主党系の首相、大臣や田中康夫氏のように理念だけで実務、手続を甘く見ていた知事らを官僚がコケにするのは朝飯前である。

 事実、菅直人前首相の再生エネルギー法案が骨抜きになっただけでなく、前原元国土交通大臣が高らかに中止宣言した八ッ場ダム建設中止は、ご承知のように風前の灯火、田中康夫元長野県知事による浅川ダムの脱ダム宣言は、辞任直後、県土木官僚らによって穴あきダムとして復活している。

 官僚は絶えず、虎視眈々とその種の落とし穴を掘っている。それにまんまと落っこちているのが行政手続にド素人というところか!

 戦国武士ではないが、敵の息の根を確実に止めない限り、経済産業省や国土交通省などの開発諸官庁の官僚や官僚機構はあらゆる手で迫ってくるのである!