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崖上の下落合マンション
完成直前「建築確認」取消
I業者の損害賠償請求棄却

青山貞一
Teiichi Aoyama池田こみち Komichi Ikeda
掲載月日:2016年2月12日
 独立系メディア E−wave Tokyo

無断転載禁

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◆マンション業者が新宿区に対し起こした損害賠償請求事件

 
以下は、マンション業者(新日本建設)が新宿区に対し起こした損害賠償請求事件の東京地裁判決の冒頭部分と争点部分です。マンション業者(新日本建設)の請求はいずれも棄却されていることが分かります。

 業者は建築確認を下した東京都新宿区を損害賠償で提訴していますが、本来、このような案件に対し条例などを援用し無理矢理建築確認を下した東京意図新宿区の責任は免れないはずです。


出典:東京地方裁判所 平成22年(ワ)第31348号 損害賠償請求事件 判決書

 以下は、主要な争点です。

5 争点(5) (原告の損失補償請求が認められるか)について

(1) 原告は,本件安全認定の違法を理由として本件建築確認が取り消されたことにより,本件安全認定や本件建築確認の有効性を信頼した原告の本件建築物に係る財産的価値が失われたのであるから,特別の犠牲を課された原告には信頼保護原理から派生する財産保護のために憲法29条3項に基づき損失補償請求権が認められるべきであると主張する。

(2) そこで検討するに,まず,建基法43条を受けて定められた安全条例4条所定の接道義務の趣旨は,平常時における円滑な通行や災害時における避難,消火及び救助活動のための通路の確保を図りもって国民の生命,健康及び財産の保護を図る(同法1条)ことにあると解されることからすれば,建基法等が定める接道義務による制約は公共の安全を図るための内在的なものであり,これを本件訴訟に即していえば,原告には,そもそも本件土地につき安全条例4条1項所定の接道義務が充足されるのと同等の安全性を備えた建築計画に沿った土地利用しか許されないとの内在的制約が課されていたというべきである。そうすると,本件安全認定等によって本件建築計画に沿った建築工事を続行できなくなったことも当該内在的制約が顕在化したものにすぎないと解することができる。

(3) また,我が国においては,取消訴訟等の抗告訴訟や審査請求等の手続により行政処分の効力を争えることとされており,本件安全認定や本件建築確認のような受益的行政処分についても,当該処分の名宛人以外の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者が取消訴訟等によって当該処分の有効性を争うことができる(行政事件訴訟法9条)のである。そして,その帰趨によっては当該処分が取り消される可能性もあるのであるから,当該名宛人は,利害関係人として当該取消訴訟に参加し,当該処分が維持されるよう必要な訴訟活動をすることも可能である。そして, 当該名宛人が, 当該処分の有効性を前提に行動し, その後取消訴訟等によって当該処分が無効とされたことで何らかの不利益を被ったとしても,そのような不利益は,基本的には,我が国が上記のとおり抗告訴訟等の手続により行政処分の効力を争い得ることとしたことに必然的に伴うものであり広く国民が甘受すべき一般的な犠牲にすぎないとも解し得るところである。

(4) さらに,本件については次の事情を指摘することができる。すなわち,本件安全認定がされることを停止条件として本件土地を購入するなど原告が本件安全認定の有効性を前提に行動していたことは確かであるが,本件安全認定がされてから2か月も経たない平成17年1月12日にはD管理組合から第一次審査請求がされていたのであり,原告やソフトアイとしても同年4月26日に説明会を実施した際に,周辺住民らから本件建築計画の安全性について疑義が呈されるなどして本件土地に本件建築物を建築することに対する強い反対意見が述べられたのを受けて,最終的に本件安全認定の有効性がどうなるのか分からないが最終的な判断には従わざるを得ないなどと述べていた(乙10)ように,比較的早期の時点から,本件安全認定が取り消されるおそれを抽象的にせよ認識していたのである。また,原告及びソフトアイは,平成19年4月17日に説明会を実施した際にも,周辺住民らに対して同月25日から建築工事に着工する旨説明するとともに,第一次審査請求に係る訴訟や第二次審査請求に関して「負ければそこでいったんストップしてやり直しです。私も申し訳ないですけど,私どもが勝てば,今着手したものがむだにならない。でも負ければむだになるかもしれません。むだを覚悟でやっている。」,「リスクを負ってでももうやりましようというのが金綱社長(注:原告代表者)の考えでもあるわけです。」などと審査請求等の結果で建築工事が続行不可能となったとしてもその不利益は建築主において甘受するものと認識していたことがうかがわれる(乙15)。そして,以上で指摘した点からすれば,原告は,幾度にもわたる説明会や本件安全認定等の有効性を巡る審査請求や訴訟を通じて,本件安全認定等の問題点を認識し,同日に建築工事に着工した時点において本件安全認定等に違法がある可能性を理解していたものと推認されるのである。

(5) 以上のとおり,本件建築物の建築工事が続行不可能となったことは内在的制約が顕在化したものにすぎず(上記(2)) ,抗告訴訟等の手続により行政処分が取り消されることによる不利益もまた一般的な犠牲にすぎないと解されること(上記(3))に加え原告としても本件安全認定等が取り消され得る可能性や取消しに伴う財産的損失を認識しつつ本件建築物の建築工事を開始していること(上記(4))などからすれば,本件安全認定等の取消しによって原告の本件安全認定等の有効性に対する信頼が害されたことで,原告に憲法29条3項に基づく損失補償を要するような特別の犠牲が生じたと認めることはできないと解するのが相当である。

(6) ア これに対し,原告は,昭和56年最判及び昭和49年最判を引用して原告の信頼保護原理から派生する財産保護のために損失補償請求が認められるべきと主張する。しかし,上記各最判は,工場誘致計画の存続(昭和56年最判)や行政財産の使用許可の存続(昭和49最判)に対する信頼が無条件に保護されると判断したものではなく,昭和56年最判については,「やむを得ない客観的事情Jにより工場誘致計画を変更することを許容しているのであるし,昭和49年最判についても,公共的な目的に使用する必要が生じた場合には使用許可の撤回が許されるとしているのである。そうであるとすれば,本件においても,本件安全認定等の有効性に対する信頼が無条件に保護されると解するのは相当ではないというべきところ,原告に憲法29条3項により保護するに値する信頼が生じていないことは上記(2)から(5)までのとおりであるから,原告の上記主張は採用できない。

イ また,原告は,安全認定は区長の専門的な判断によりされるもので,建築確認それ自体とは異なり一級建築士にはその適法性を判断することはできないから,原告には何らの落ち度はないと主張する。確かに安全認定には区長に一定の裁量が認められるのであるから,安全認定にはその他の形式的な基準値の充足不充足とは判断の仕方が異なる点があるとはいえるものの,上記1(1)ア(イ)のとおり,安全条例4条3項にいう「安全上支障がない」というのは,同条1項が求める接道の基準を充たすことで確保されるのと同程度に,平常時の円滑な通行のみならず災害時における避難,消火及び救助活動に支障を来さないような状況にあると判断できる場合であることを要すると解されるところ「同条1項が求める接道の基準を充たすことで確保されるのと同程度」の安全性がし、かなるものであるかは接道義務に精通する専門家である一級建築士であれば十分に判断可能な事柄であって,こから本件建築計画が同程度の安全性を備えたものかを判断することは一定程度可能であるから,原告が主張するように,原告に何らの落ち度もないということはできない。

(7) したがって,憲法29条3項に基づく原告の損失補償請求は理由がない。

6 結論
 以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。

出典:東京地方裁判所 平成22年(ワ)第31348号 損害賠償請求事件 判決理由


 以下は損害賠償事件に対する東京都新宿区の応訴に関する新宿区総務区民委員会資料です。



出典:新宿区総務区民委員会

 
◆新日本建設の損害賠償請求の概要

提訴内容

損害賠償請求事件:25億9,928万6242円

 (主な内訳/千円以下切り捨て:土地取得額8億6,000万円、媒介手数料 2,709万円、固定資産税 都市計画税2,083万円、建設工事費8億3,756万円、環境整備費1,872万円、事業金利2億1,173万円、本件解体整備および整備費1億8,900万円、逸失利益2億6,123万円、弁護士費用1億5,757万円)、貼用印紙額:621万8,560円

原告 建設会社(新日本建設)代表
者代表取締役

被告 東京都代表者知 事 石原 慎太郎
新宿区代表者区長 中山 弘子

請求の骨子

(1) 被告(区長)は、本件認定(平成16年12月22日安全認定、平成18年7月31日)にあたり、土地性状、周辺状況等を踏まえて適切に適否を判断するべき注意義務を負っていたにもかかわらず、裁量権を逸脱濫用して本件認定を行ったことにより、原告が被害を被った。

(2) 新宿消防署長は、消防同意(建築基準法93条1項)を行うにあたり、当該建築物の計画が建築物の防火に関する法令等に違反しないかどうかを審査する義務があり、消防活動面において困難が予測されることを認識していたにも関わらず、単に抽象的な付帯意見のみで安易に消防同意したことにより、建築確認がなされ、原告が損害を被った。東京都知事が消防を管理しており、よって東京都にも賠償責任がある。

◆新宿区の主張◆

本年2月の新宿区議会でのコメンや東京MXの報道にもある通り、最高裁判決は建築主の申請を認めた行政処分を違法としたもので、区が建築主に対し不利益処分を行い、それが違法とされたものではない・・・という解釈をしています。したがって、区は建築主に対し賠償責任を負う立場にはないという主張を繰りす。


本稿これで終了