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スコットランド+北イングランド
現地調査報告(概要)
   

青山貞一 池田こみち

掲載月日:2012年7月29日
 独立系メディア E−wave Tokyo
無断転載禁


◆上の地図は2200kmに及ぶ走行ルートと主な調査、視察点です。

 スコットランド現地調査から帰国しました。今回の現地調査は、歴史、文化、政治、環境、エネルギーなどさまざまな目的のもとで行いました。

 10日間で総走行距離は2200kmに及びました。行程は上の地図に詳細があります。スコットランドのローランドの主要都市、地方都市、農村、ハイランドの山岳地方、湖水地方などを駆け足、高密度の視察でしたが、現地視察しスコットランドの歴史、文化を体感してきました。


スコットランドの地理的位置(赤色部分)

 いつものように、今後、論考、動画などで帰国報告する予定です。

 私たちがスコットランドに着目したのは、スコットランドがカナダ・ノバスコシア州のふるさとであることに関係しています。

 スコットランドは歴史的に見て同じブリテン島にあるアングロ・サクソン系のイングランドから執拗な侵略、攻撃を受けながら、専守防衛の精神で13世紀にはイングランドを完全に撃退し独立を勝ち取りました。

 しかし、スコットランドは独立を勝ち取ったにもかかわらず、その後も、王位継承権、宗教改革、地方自治を巡りイングランドがスコットランドに執拗にかつ暴力的に介入し、18世紀に統合(=併合)されてしました。


イングランドの猛攻を最初に破りスコットランドの独立の父と
されているウイリアム・ウォレスを記念して築造された
国立ウォレス記念塔。宿泊先のスターリング大学から撮影
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8


ウイリアム・ウォレス率いる民衆軍が重装備のイングランド正規軍を
破ったスターリングの戦い。ただしこの写真は映画(Brave Heart)の一幕
Source:Movie, Brave Heart

 16世紀本来イングランドを含むブリテンの王位継承権をもっていたメアリー・スチュアート王女は、イングランドのエリザベス王女(現在の英国のエリザベスは2世)によって最終的に断頭台に送られました。その後もスコットランドの独立派は、イングランドの執拗な攻撃をうけ、たとえばジャコバイト派はスコットランド北部にあるグレンコー谷で大虐殺されています。


イングランドのエリザベスに19年間幽閉されたあげく
断頭台で処刑されたスコットランドのメアリー・スチュアート女王
スコットランド国立博物館にて
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8


イングランドによるスコットランド村人の皆殺し大虐殺があった
スコットランド北部ハイランドのグレンコーの谷。
 Source: English Wikipedia

 その結果、1700年当初まであったスコットランド国の議会はなくなり、イングランド中心の英国が実質的な中央政府となったのです。王政でもイングランド王がスコットランド王を兼ねることになりました。

 今回の調査では、悲劇の女王、メアリースチュアートの生誕から断頭台までの足跡を城、要塞、修道院を訪問することでトレースしました。大部分はイングランドと宗教改革などで破壊され遺跡となっていました。しかし、コナゴナになった歴史的建造物や遺跡もしっかりと管理していました。これは、ポーランドのアウシュビッツ、ビルケナウ、マイダネクなどの強制収容所の保存、管理同様、すばらしいものでした。


身長が180cmあったというメアリー・スチュアート(レプリカ)の前にて
本物は息子のジェームス6世によりロンドンのウエストミンスター寺院
にエリザベス一世と並んで葬られている。
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8

 またここはナショナルトラストの発祥地、湖水地方のみならずスコットランド全体で歴史的建造物、構造物、まちなみが自然、生態系、景観とともに保全されている様は、他の欧州諸国ではみられないものでした。 たとえば、西暦122年にローマ皇帝、ハドリアヌスにより構築された長城遺跡もしっかりと維持管理されていました。

◆青山貞一・池田こみち:ローマ皇帝・ハドリアヌスの長城


西暦122年にローマ皇帝、ハドリアヌスにより構築された長城
このような遺跡もしっかりと維持管理されていた
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8


あのネス湖の南端フォートオーガスタスにあるアーカイル城。
フォートはFort(=要塞)。ネス湖はあのネッシーで有名な湖(Loch)
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8

 大小20カ所を視察した。城、修道院は、戦いに明け暮れたスコットランドの地だけあって、欧州の他地域のような華やかさはない。エジンバラ城、スターリング城はじめ多くの城が岩山の上に要塞を構築するなど機能重視の城だった。

 教会や修道院は、カソリックvsプロテスタントの宗教改革(戦争)のプロテスタントの拠点、中心地ということもあり、もともとカソリックのスコットランドの修道院や教会はことごとく破壊され、改修されていました。

 下の写真は、エジンバラ近くにあるリンリスゴー城です。メアリー・スチュアートが生まれた城として有名です。私達は最初の3泊をリンリスゴーにとり、エジンバラやニューラナークなどにはここから連日通いました。


エジンバラ近くにあるリンリスゴー城、メアリー・スチュアートが
生まれた城として有名。最初の3泊はリンリスゴーに宿をとった
Source: English Wikipedia


悲劇の女王、メアリー・スチュアートが生まれたリンリスゴー城にて
撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10


説明してくれる学芸員は皆、16世紀の衣装で対応
リンリスゴー宮殿にて
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8

  メアリーはリンリスゴー城からスターリング城に移され女王としての戴冠式を行っています。このスターリング城、どことなくエジンバラ城に似ています。


メアリーはリンリスゴー城からスターリング城に移され女王として
の戴冠式を行っている。このスターリング城、どことなく
エジンバラ城に似ています
Source: English Wikipedia

 下は岩山の上につくられたエジンバラ城。幾度となくイングランドに攻められ、焼き討ちにあったが、スコットランドを護ってきた城です。


スコットランドの州都、エジンバラにあるエジンバラ城
出典:NHK BSプレミアム

 城の入り口には、13世紀にイングランドを破り独立を果たしたウイリアム・ウオレスとキング・オブ・ブルースの彫像が並んで立っています。


エジンバラ城の入り口には13世紀にイングランドを破り独立を果たした
ウイリアム・ウオレスとキング・オブ・ブルースの彫像が並んでたっている。
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8


エジンバラ市の紋章。スコットランド国立博物館所蔵
ライオンが立っているのがスコットランド系紋章の特徴
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8

 とりわけ気になったのは、英国国教会(プロテスタント)の中心人物、ジョン・ノックス牧師(John Knox)の説教の中に信じられない女性蔑視の内容があったことです。カソリック教会の権威を否定するだけでなく、女性の基本的人権をすべて否定するようなノックスの言動は、後のスコットランドの政治、文化に大きな波紋を与えたはずです。


ジョン・ノックス牧師がプロテスタント布教の一大拠点とした
エジンバラのセント・ジェイル大聖堂。
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8


16世紀、説教するジョン・ノックス牧師 (エジンバラ博物館所蔵 DVD)
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8

 スコットランドは、文化、宗教ではフランス、イタリア、スペインなどと、また教育、福祉、環境ではノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマークなどの北欧スカンジナビア圏に近いものがあります。ジェンダーでもクオーター制をとるスカンジナビア諸国に類するものがあります。

 逆に英国、米国、豪州などWASPが支配的な先進諸国は女性議員の割合が低く、クオーター制を取っている国がほとんどないの興味深いことです。

 いずれにしてもスコットランドは、ここでもイングランドが中心の英国にはなじまないものがあるようです。

 イングランドのスコットランドへの猛攻、侵略、統合、併合にもかかわらずスコットランド人の独立、自尊、自治の精神の火は消えず、産業革命の中心を担ったスコットランドは、政治的のみならず経済、産業的にも自分たちの底力を見せつけることになります。

 その結果、20世紀末(1999年)、英国議会はついにスコットランド議会の存在を承認、外交、軍事など一部以外について立法権をスコットランドに認めざるをえなくなりました。そして、2年後の2014年、スコットランドが英国から独立するか否かの国民
投票をすることが決まっています。現在各種世論調査では独立派が過半数を超えています。

 今回、300年ぶりに開設され新築されたスコットランド議会にも行きました。国際コンペでスペイン人が設計したすばらしいスコットランド(国会)議事堂は、一院制で129名が議員定数、そのうち半分弱が女性とのことです。日本の国会のような厳めしさ、国民を排除するような設計はまったくなく、まるでコンサートホールと見間違うものでした。


復権なったスコットランド議会にて
撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10

  
スコットランド国旗             スコットランド紋章


現在のスコットランド議会議員 よく見ると女性議員がたくさんいます
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8


現在のスコットランド議会議員129名の氏名
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8

 ところで北海道より少し広い面積に500万人ちょっとの人口しかもたないスコットランド(英国全体の1/12程度)ですが、その存在感、個性は揺るぎないものがあります。

 それは何もキルトやバグパイプに象徴される文化のみならず、エネルギー政策や環境政策でも同じです。


エジンバラ城にて スコットランドといえばやはりこのキルトとバグパイプ
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8

 今回、スコットランドの都市や地方のあちこちで「ゼロウエイスト」を見ましたが、エネルギー政策もユニークです。

 UKからの離脱を模索しているウェールズ同様、スコットランドは早くから再生可能エネに着目し風力、水力など自然エネルギーの開発利用に尽力してきました。電力需要ベースで見ると31%をすでに再生可能エネで賄っています。戦略的エネルギー政策では、2020年までに100%を目指しています。

 ブリテンは全体が島、とりわけスコットランド北部は海洋地形が複雑で潮力、波力利用に適しております。天候不順で日照は少ないかわりに風力発電に最適です。

 今回の調査ではグラスゴー南にあるホワイトリー風力発電ファームを視察しましたが、140基ほどの大型風力発電装置が約20万世帯(=40万人以上?)の電力を賄っていました。

 日本でも原発に投入する資金の1/10いや1/100でも過去から投入していればと思います。波力、潮力などもEU諸国からの技術導入を含め、すでに実用化が間近となっています。さらに北部地域の山岳は高度こそ最高で1300〜1400mですが、地形が急峻で各種水力発電に適しています。また有機ゴミを燃やさず、メタンガスを発酵させ利用しています。


グラスゴー南にあるホワイトリー風力発電ファームにて
撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10


スコットランドの風力発電
Source: Europe wind farm, scotland wind farm

 スコットランドの原発は、英国の国策会社→民営化の流れのなかで、もともと4カ所12基(日本はもともと54基)ありましたが、現在は2カ所4基となり、2020年までに完全閉鎖する予定です。

 今回の調査では、そのうちのひとつエジンバラから東に50km行ったところにあるトーネス原発を視察しました。


EDFエナジー社のトーネス原発前にて
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8  2012-7-25


スコットランドに残る4基の原発の2基があるトーネス原発にて
撮影:池田こみち、Nikon CoolPix S10  2012-7-25

 またイングランド北西部でスコットランドに近い湖水地方にある巨大な核燃料再処理工場、セラフィールドにも行きました。この工場には相当前から日本の使用済み核燃料があかつき号で送られており、たびたびプルトニウムを含む放射性物質を海に流出させたことで有名です。


イングランド北西部の湖水地方にあるセラフィールド核燃料再処理施設
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8

 この工場も福島原発以前からすでに実質閉鎖となっており、英国で廃炉となった後の12基の新規原発立地を担当するドイツなどの会社は建設投資を中止する旨の会見を最近行っています。

 ご承知のように英国には北海油田があります。この油田はスコットランド北部にあり、1960年代後半から採掘がはじまっています。スコットランドは、現在英国の20%近い外貨獲得のもととなっている北海油田の領有権について独立後は、スコットランドが国有化しスコットランド経済、財政の基盤にするという戦略をもっているようです。

 さらにスコットランドは、湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争などで、英国が米国に盲従し戦争に参加させられてきたことにも大きな不満と憤りをもっておりこれもスコットランド独立のひとつの大きな動機であるようです。

 私達がなんどもゼロウエイストででかけたカナダのノバスコシア州、Nova Scotiaはラテン語で英語は New Scotlandを意味します。

 すなわち、米国が主としてアングロサクソン系イングランド人が植民した地であるのに対し、カナダのノバスコシア州は英仏戦争後、スコットランド人が入植した地でもあります。

 ノバスコシア州がカナダだけでなく、世界でも最初に脱焼却、脱埋立を実現してきた背景には、以下のような精神風土があると思えます。

 ブリテン島の北約1/3を占めるスコットランドは、英国にありながら、英国ではない。UK(英国)という連合国家にいながら、たえず英国から独立しスコットランド国家として強靱な自立と自律をもとめている「国家」でもあります。

 そのスコットランドは、全能なる「否」が支配する国と言われています。独立心、自立心をもった国民性と精神性が歴史的に醸成されています。

 それに対し日本はどうでしょうか?

 おそらく、無能なる「翼賛」が支配する国が日本です。しかも、政官業学報の既得権益と利権が未だ国土全体を支配しています。

 これらを一掃することなしに、あらたな政策、国づくりははじまりません。

 さらに、マスコミを鵜呑みにする程度、すなわち「鵜呑度」が世界で一番高い国は日本ですが、その対極にあるのが英国です。日本人が70%以上なのに対し、英国は14%、その後の調査で12.5%となっています。

◆青山貞一:マスコミ報道「鵜呑度」、日本人70%、英国人14%

        2000年      2005年   単位:%
日本      70.2       72.5
韓国      64.9       61.7       
中国      64.3       58.4
オランダ    55.7       31.7
ドイツ      35.6       28.6
フランス    35.2       38.1
ロシア     29.4       36.0
アメリカ     26.3       23.4
英国       14.2       12.5
出典:日本リサーチセンター

 すなわち、今の日本人の多くは思考停止に陥っており、マスコミや政府の情報操作による世論誘導に乗りやすいと言えます。おそらく英国内でこの調査をイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドに分けて行えば、スコットランドの鵜呑度は10%を切るはずです。

 観客民主主義、お仕着せ民主主義、お任せ民主主義が支配する私達日本が今後どうすれば良いかの多くのヒントが今回のスコットランド現地調査から得られたと思います。


 ところで、昔からスコットランドの国花は、アザミです。アザミは棘(トゲ)をたくさん持っていて、人を寄せ付けません。

 事実、その昔、スコットランドがバイキングの襲撃を受けたとき、アザミがバイキングの行く手を阻んだと言われています。


あざみはスコットランドの国の花、至る所に咲いている
スコットランド、イングランド国境線上で撮影
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8  2012-7-25




スコットランド各地のお土産やさんには、必ずアザミの花を
あしらったハンカチ、テーブルクロス、食器などが於かれている
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8  2012-7-25

 スコットランドの首都、エジンバラにあるエジンバラ城やスターリング城は、遠くから見るとアザミに似ています。それは、刺々(とげとげ)しい姿で要塞として来る者を拒びます。

 しかし、アザミは美しい花も咲かせます。そう、それはスコットランドの精神文化を象徴する女性の国王、メアリー・スチュアートのように。