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第一編
英国からの独立に燃える
スコットランドが面白い

G2020年 再生可能エネルギー100%
 
青山貞一 池田こみち 環境総合研究所 顧問

掲載月日:2012年11月1日
 独立系メディア E−wave Tokyo
無断転載禁


第一編 英国からの独立に沸くスコットランドが面白い!
@今に生きるブレーブハート   E再独立に燃える国民と議会
Aスコットランド人の気質と精神風土   F世界一の持続可能な国へ
B希有で秀逸な人材と知性の宝庫   G2020年再生可能エネ100%
C闘いと苦難の歴史   H国旗と国花それに准国歌
D闘いの続行と再独立への道   I独立精神を学ぶ2200kmの旅

 スコットランドが独立するとなると国家として重要な課題になる外交、防衛、エネルギー、金融・財政、通貨、通信などのうち、ここではスコットランドのエネルギー戦略について見てみよう!

 今回のスコットランド現地調査のひとつの大きな目的は、福島第一原発事故以降、日本で脱原発やゼロ原発が大きな課題となったいることとあわせ、スコットランドのエネルギー事情を現場でしっかりと見届けることにあった。

 これはスコットランド独立と関連づけて見るとさらに興味深いが、純粋に科学技術、経済論としても興味深いものがある。

 言うまでもなく脱原発を当面、可能にするのは、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料だが、当然のこととして化石燃料に大きく依存していては、大気汚染はもとより膨大な量の二酸化炭素(CO)が環境中に排出されることになる。


スコットランドの地理的位置(赤色部分)

 あれほど世界中、そして日本においても環境政策の中心的課題となっていた地球規模の温暖化問題がちまたで論じられなくなったのは、どうみてもおかしい。

 もちろん、ついこの間まで環境省が率先して、地球温暖化防止のために原発を推進するという無責任な政策、その環境省にこともあろうか500人規模の原子力規制委員会が設置される大愚もある。

 化石燃料は大気汚染、二酸化炭素排出問題以外に、いうまでもなく燃料価格問題があり、今後ピークオイルを迎える石油、天然ガスを使い続けることは難しくなる。

 となれば、いわゆる再生可能エネルギーの開発利用を日本でも加速しなければならない。しかし、過去、政官業学報、すなわち政府、自民党、民主党などの政党、原子力産業企業、大学・研究機関、報道機関が一体となり、有無を言わさない形で原発を推進してきたために、日本の再生可能エネルギーの開発利用は遅々として進んでこなかった。

 技術面で日本が著しく欧米、とくにドイツ、デンマークなどに遅れているとは思えないが、何しろ日本では国家予算の圧倒的多くが永年原発を推進するために投入されてきた経緯がある。

 問題は技術以外に、電気事業法に基づく安定供給問題、電力会社問題、依然として実質地域独占となっている電力会社経営、発送電分離問題、都道府県、自治体など公共セクターでの利用面、市民、家庭レベルでの需要などが重なり、福島原発事故以前にあっては、欧米の先進地域に比べ一桁低い状況にあった。

●スコットランドの再生可能エネルギー、現在31%、2020年に100%


 ところで、この分野で世界的に有名なのは、ドイツ、デンマークなどEU諸国、それに米国カリフォルニア州などだが、私達は日本でほとんど話題にすらなっていない英国、とりわけスコットランドに注目した。

 英国の人口の12分の1、面積でも3分の1に過ぎないスコットランド、いわゆる産業革命を科学技術面から牽引したスコットランドが、エネルギーという難題にどう立ち向かっているのか、すごく興味があった。

 しかも、スコットランド同様、北アイルランド、イングランドに永年蹂躙され、英国に併合されているウェールズだが、そのウェールズは、今から30年も前に、自然エネルギーを中心に、再生可能エネルギーで地域全体のエネルギーをまかなう代替技術センター(Center for Alternative Technology)を開発している。


 すでに述べたように、独自性を主張して止まない、スコットランドが、このエネルギー問題にどう立ち向かうのか、さらに300年来の国民的課題である英国からの独立との関連において、エネルギー問題をどう戦略的に考えているのか、についても大いに関心があるところであった。

 スコットランドは現在、電気エネルギーの31%を風力など自然エネルギーを中心とした再生可能エネルギーでまかなっているが、何と2020年までに、それを100%にするという意欲的な目標と戦略を持っている。

 これについては、詳細を以下の論考に書いたので、ぜひ一読して欲しい。

 以下は、スコットランドの2020年までに再生可能エネルギーを100%にするという意欲的な目標と戦略の内容である。風力発電(地上、洋上)がメインであるが、複雑な北部沿岸の地形を最大限活用した波力、潮流発電、それに現在でも多くの実績がある水力発電などが100%を支えることなる。

◆青山貞一・池田こみち:スコットランドのエネルギー開発戦略
 http://eritokyo.jp/independent/aoyama-scot009..html

 現地調査では、欧州で2番目の規模を誇り、スコットランドでは人口規模で第一の都市であるグラスゴーの南に立地されたホワイトリー風力発電ファームを訪問した。このファームだけでグラスゴー市民全体の電気エネルギーの供給を目指しており、現在18万世帯に供給されているが、近い将来さらに風力発電を増設を予定している。


スコットランドの過去10年の再生可能エネルギーの電力設備容量(MWh)
出典:スコットランド政府>


2020年までの将来シナリオ
 出典:スコットランド政府

◆青山貞一・池田こみち:スコットランドの更新可能エネルギー開発
 http://eritokyo.jp/independent/aoyama-scot008..html 

 スコットランドは、原子力発電と無縁ではない、大部分の原発は老朽化で閉鎖されたが、今でもエジンバラの東50km少しのところでトーネス原子力発電所が稼働している。しかし、2020年までには、残された数基の原発施設も廃炉となる。


グラスゴー南にあるホワイトリー風力発電ファームにて
撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10


スコットランドの風力発電
Source: Europe wind farm, scotland wind farm

◆青山貞一・池田こみち:スコットランドの原発事情
 http://eritokyo.jp/independent/aoyama-scot0011..html

 さらに、これはスコットランドではないが、スコットランドとイングランドの境界線よりすこし南、イングランドの湖水地方の西端に、世界的な核廃棄物の再処理工場、セラフィールド工場がある。現地調査では、セラフィールド工場も外から視察した。


スコットランドに残る4基の原発の2基があるトーネス原発にて
撮影:池田こみち、Nikon CoolPix S10  2012-7-25


北海側から見たトーネス原発。巨大な壁で陸側を遮蔽している
出典:The Guardian, UK

◆青山貞一・池田こみち:英国セラフィールド核燃料再処理工場
 http://eritokyo.jp/independent/aoyama-scot0010..html
 
◆青山貞一・池田こみち:セラフィールド工場がもたらす健康リスク
 http://eritokyo.jp/independent/aoyama-scot0015..html
 スコットランド北部のアバディーンにはあの「北海油田」があります。

動画撮影:青山貞一 Yashika HD 2012-7-25

●スコットランドの再生可能エネルギー戦略と独立戦略!

 ところで、スコットランドが2020年までに電気エネルギーを100%再生可能エネルギーでまかなう、という意欲的な戦略を立てている大きな理由のひとつに、北海油田の石油は、スコットランドが英国から独立した後、外貨獲得用の戦略物資とする、という話を現地調査で聞いた。

 なんとも、すごい深謀遠慮の国家戦略である! スコットランドは独立の準備の財政的基盤として北部東海岸のアバディーンにある北海油田から採掘される原油を考えていることになる。


 今回、北部地域を含めスコットランドの70%、2200kmを車で走行し、地形、海洋地形、植生、気象、水象、気象などを膚で感じてきたが、北海道より少し広い地域に人口が500万人超の密度を考えると、風力、水力のみならず、波力、潮力を含め、再生可能な自然エネルギーを景観を考慮しながら相当拡大できると感じた!

 以下は関連した新聞記事。

★「ポスト福島事故」、世界はどう変わる?
朝日新聞編集委員 竹内敬二 2011年7月1日

ホワイトリー風力発電所。欧州最大という。グラスゴー近郊 英国北端にあるオークニー諸島を訪れた。北緯59度。夏の今は、午後10時
でも夕暮れだ。

 時差ぼけの頭で宿のバーに座っていると、宿の主人が「津波と原発事故はどうだ」と話しかけてくる。日本人と見れば多くの人がこの話をする。

 「悲惨だなあ。でも原子力は必要だと思うよ。化石燃料はどんどん高くなるだろうし、健康にも悪い。危険だが、フランスなんかはうまく使っているじゃないか」。「原子力をどうするか」は、だれでも、どこの国でも「福島後」の大問題
だ。

 英国では、国とスコットランドとの方針がすれ違っている。

 スコットランドの「首相」のような立場にあるサモンド首席大臣は、5月、「2011年に電力の31%を自然エネルギーにする目標は達成した。2020
年までに80%だった目標を100%に上げる」と述べた。

 「100%」とは、火力発電などがあっても、スコットランドの需要分は風力などの自然エネルギーで発電するということだ。余った電気は輸出する。スコットランドでは原発の建て替えは認めない。

 この「脱原発、自然エネルギー大推進」の方針で、注目を集めているのがオークニー諸島だ。大西洋と北海の間にあり、強い潮流と波にさらされている。世界の多くの企業が潮流発電と波力発電の設備をここに設置し、海洋エネルギーの実
験センターになっている。

 一方、英国政府の気候変動委員会(CCC)は5月、エネルギー政策の評価報告書を発表した。内容は「2030年までに15基の原発を建設する。30年の発電を原子力40%、自然エネルギー40%、天然ガス発電5%にする。残り15%は二酸化炭素の地下貯蔵(CCS)でかせぐ」などだ。

 「福島後に原発重視策」と話題になった。ロンドンでCCCのケネディー委員長に聞くと、「福島事故の原因は強い地震、高い津波などだ。英国の原発計画には影響しない」という。「しかし、英国では世論の反発も強いと思いますが」と聞くと、「原発なしで、どうやって安く二酸化炭素を減らすのか」と強い調子で答えた。

 自然エネルギー、発電コスト、二酸化炭素削減、世論。世界の縮図のような英国の議論はまだまだ続くだろう。

 福島後の各国の反応はさまざまだ。ドイツは「22年までの原発全廃」を決めた。緑の党のトリッティン元環境相は、「自然エネルギーを増やしてきたから脱原発ができる」と強調する。10年前のドイツでは自然エネルギー発電が4%だったが、昨年は17%だ。

 スイスも現在5基ある原発を2034年までに全廃する。イタリアは国民投票で、原発の凍結続行を確認した。

 しかし、中国は「日本で重大な事故があったが、原子力開発を止めることはできない」との方針だ。

 米国はどうか。政府は原発の新規建設を支持するが、福島事故以前から、電力会社の動きは鈍い。風力や天然ガスの発電所より、建設コストがかなり高くなっているからだ。米国では、05年ごろに「原子力ルネサンス」という言葉ができたが、その勢いはない。

 どこの国でも、原子力政策は変わりにくい。原子力へ踏み出し、時間が経つと、社会全体が原子力を支える体制になるからだ。

 しかし、政策を変えうるきっかけとしては、福島事故は最大級の衝撃だろう。世界をどう変えるか。そして日本をどう変えるか。その議論もこれからだ。

    ◇

 竹内敬二(たけうち・けいじ) 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー担当)。1980年入社、科学部記者やロンドン特派員、論説委員として、地球温暖化の国際交渉やチェルノブイリ原発事故、各国の自然エネルギー政策を取材。今は福島原発事故後の日本のエネルギー政策が最大の関心事。

つづく