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地球「最後の楽園」
タスマニア
①全体概要
Summary
青山貞一 池田こみち
掲載月日:2012年2月27日
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁

◆地球「最後の楽園」タスマニア現地予備調査報告
①全体概要 ⑦中北部大自然 ⑬希有な自然海浜
②州都ホバート ⑧グレートレーク ⑭オッポッサムベイ
③北部ロンセストンへ ⑨376人の村ボスウェル ⑮シドニーウォータフロント
④タスマニア動物園-1 ⑩森林大伐採の元凶 ⑯シドニーハイドパーク
⑤タスマニア動物園-2 ⑪ポートアーサー刑務所
⑥タマール川と渓谷 ⑫タスマニアデビル保護公園

 2012年2月20日から25日、オーストラリア南端にあるタスマニア島(Tasmania State)に現地調査の予備調査で訪問した。

 以下はその概要報告である。


ポートオーサーのタスマニア・デビル保護公園にて
撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10 2012.2.23

 予備調査ではあるが、実質3日間タスマニアを1000km移動して感じたことは、この島は、野生生物の最後の楽園であるだけでなく、たとえ欧米日本で原発事故があろうと、世界第三次大戦があろうと、経済危機があろうと、生き残れる持続可能な地域であるということである。

 タスマニアは、日本の八丈島や石垣島同様、その昔、イングランドにおける政治犯や刑事犯罪者の流刑されたオーストラリアで最後の流刑の場所、すなわち流刑者収容所であった。

 だが、現在、その暗い歴史をもつタスマニアのこの島では、私たち欧米日本の先進諸国で忘れ去られた多くの物が素朴に静かに生きていた!

 自然豊かなタスマニアの森林が危機に瀕しているが、どうもその原因の多くは日本が木材チップを大量にタスマニアから輸入し、新聞紙などの紙の材料に使っていることが分かってきた。

 今回は予備調査であるが、ぜひ、再度時間をとってじっくりタスマニアの自然と文化を堪能するとともに、最後の楽園をおそう自然破壊の実態を克明に調査し報告していきたいと考える! 

1.タスマニアの概要

 ※ 概要は主に現地で入手した資料、オーストラリア政府、タスマニア州政府、Wikipediaをもとに執筆している。

1-1 オーストラリアの歴史

 1606年にオーストラリア大陸に最初に到来した白人はオランダ人のWillem Janzであったが、赤道付近の熱帯の北部地域に上陸し、その周辺のみしか探索しなかったため、植民地には向かないと判断し、オランダ人は入植しなかった。

 1770年にスコットランド人のジェームズ・クックが温帯のシドニーのボタニー湾に上陸して領有を宣言し、入植が始まった。

 東海岸をニュー・サウス・ウェールズと名付けた。

 アメリカの独立により、1788年からアメリカに代わり流刑植民地としてイギリス人の移民が始まった。初期移民団1030人のうち、736人が囚人でその他はほとんどが貧困層の人間であった。また、当時は軽犯罪でもオーストラリアに流刑されたという。

 1828年に全土がイギリスの植民地となり、開拓が進んだ。内陸を探検し、農牧地を開拓した。その段階で先住民のアボリジニから土地を取り上げて放逐し、反抗者は(時には反抗しない者も)殺害した。

 1830年までに純血のタスマニア先住民は絶滅させられた。

 19世紀の初めにはスペイン産メリノー種羊を改良し、以後、羊毛産業が発展した。なお、羊が重宝されたのは羊毛に関してだけでなく、まだ冷凍船がなかった頃、肉類の中で羊肉が1番長持ちしたためである。

 1850年代にゴールドラッシュが発生すると中国系の金鉱移民に対する排斥運動が起こり、後の白豪主義につながった。


現在のオーストラリアの州 右下の黄色い島がタスマニア州

 オーストラリアの周りは荒い海であったために、16世紀頃の世界地図にTerra Australis Incognita(テラ・アウストラリス・インコグニタ、「南方にある未知の大地」という意味)と表されていた。

 首都はキャンベラ。

1-2 タスマニアの歴史

 タスマニアは、1642年、オランダ人の探検家であるアベル・タスマンが最初に到達した。当初、当時のオランダ東インド会社総督ヴァン・ディーメンにちなんで「ヴァン・ディーメンス・ラント」と命名された。

 後にイギリス(以下、英国)から移住した人々により、タスマニア島と改名されたが、当時、タスマニアはオーストラリア大陸の一部と考えられていた。

 1803年、シドニーから最初の植民が行われた。初期の植民者は流刑囚とその看守であった。タスマニア島の南東部にあるポート・アーサーと西海岸のマッカリー・ハーバーが流刑植民地となった。


ポートアーサー近くのベイにて
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 2012.2.24

 1826年12月3日、タスマニアは、ニューサウスウェールズ(NSW)植民地から分離した。オーストラリアの植民地政府としては2番目である。

 タスマニア島の原住民、すなわちタスマニア・アボリジニは1830年代までブラック・ウォーと呼ばれる戦争を起こしたが、タスマニア・アボリジニはフリンダーズ島へ強制移住させられるなど激減し、1876年に絶滅している。

 1901年オーストラリア連邦の成立にともないタスマニアは州となった。

1-3 地理と地形

 タスマニアは以下の地図にあるように、南半球のオーストリア南端にあるハート型をした大きな島である。オーストラリア本当からは240kmのバス海峡によって隔てられている。

 この海峡は1~2万年前の最終氷期には本島と繋がっていたとされる。またタスマニア島は、日本の北海道の約8割の大きさであり起伏の多い地形である。




ポートアーサー近くにあるイーグルホック・ネックの夕日
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 2012.2.24

1-4 社会経済指標

・人口 (2006年9月末時)
 - 総人口 489,600 (オーストラリアで第6位)
 - 人口密度 7.16/km2 (オーストラリアで第4位)

・面積(北海道の80%程度)
- 総面積 90,758 km2 (オーストラリアで第7位) 
- 陸地 68,401 km2
- 水域 22,357 km2 (24.63%)

時間帯 日本との時差2時間 
 UTC+10 (+11 夏時間)

・州内総生産 (2004-05年)
- 生産高 16,114ドル (オーストラリアで第7位)
- 一人当たり 33,243ドル/人 (オーストラリアで第8位)

 タスマニアの、伝統的な主要産業は鉱業(銅、亜鉛、錫、鉄)、林業、農業などの一次産業と、観光である。

 1990年代に製造業が衰退し、シドニーやメルボルンに移住する熟練労働者が増えている。州民所得はオーストラリア全州で最も低く、州政府の予算はブリスベン市程度の規模しかない。

 しかし、2001年以降、経済が飛躍的に回復し、とくに本土や海外からの移住増加もあって住宅価格が上昇した。

 なお、タスマニアの電力の大部分は、水力発電と火力発電によってまかなわれており、原子力発電はない。またホバートの港にあるビルの屋上には、以下のような風力発電装置が設置されており、海風により4つの風車が回っていた。


首都ホバートの夕暮れ。港には著名な魚介料理の専門店が並ぶ
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 2012.2.21

 下は拡大写真である。


ホバート港のビル屋上にある風力発電装置
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 2012.2.21

1-5 地形と道路

 タスマニアは、西部が山岳地域、中東部は平坦ないしなだらかな丘の地形となっている。最高の標高はオッサム山で1,617mである。

標高
- 最高標高 Mount Ossa
+1,617 m AHD
- 最低標高

 島内には南北、東西に幹線道路が走っている。これらの道路は、日本の国土幹線道路級の構造を持っており、最高速度110km/hであるが、すべて無料であり、あらゆる地点で一般道と連結している。

 幹線道路以外に、片側一車線の一般道路が縦横無尽に存在するが、市街位置以外では80~110km/hの法定速度となっており、概して自動車の走行速度は速い。

 しかも、人口密度がきわめて低いため、首都ホバートの出勤時以外は、まったく渋滞がなく、平均時速80km/hでの走行が可能となり、250km以上の南北縦断も3時間弱で可能となっている。


出典:English Wikipedia

1-6 気候

 タスマニアは南極から約2500kmの距離にあり、北半球の北海道とほぼ同じ緯度(南緯)にある。

 訪問した2月は真夏(日本の8月に相当)であるにもかかわらず、昼間でも20度程度と涼しい気候であった。より詳しくは、タスマニアには、日本同様4つの季節がある。

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
平均最高気温(℃) 23.1 22.2 20.7 17.0 13.9 11.4 10.5 12.2 14.9 17.4 19.4 21.9
平均最低気温(℃) 11.5 11.7 10.3 8.3 6.3 4.3 3.1 4.5 6.0 7.3 9.1 10.9
平均降雨量(mm) 44.3 39.4 42.9 47.6 43.1 49.7 49.0 46.3 47.5 55.5 54.4 51.8
出典http://www.ats.co.jp/city_info/tas.html

 夏は12月から2月であり、最高気温は海岸で平均21度Cである。内陸では17度Cから24度Cとなる。

 秋は3月から5月であり、天気が変わりやすい。

 冬は6月から8月であり、最高気温は海岸で平均12度Cとなる。内陸では雪が多く3度Cであるが、首都ホバートでは冬でも雪はほとんどない。

 春は9月から11月までとなり、10月でも雪が降ることがよくある。

 年間降水量は西部では海岸の1500㎜から雪が多い山地の2700㎜へと変化するが、比較的人口が多く分布する北部では700㎜から1000㎜と少ない。また東部は日照が多くなっている。

1-7 自然と野生生物

 タスマニア島は、ユーカリなどかなり伐採されたものの、原生林などの自然がよく残り、野生生物の宝庫、とくにオーストラリアに固有の有袋ほ乳類の楽園となっている。

 主な陸上野生生物としては、ホワイトワラビー、ハリモグラ、タスマニアンデビル、カンガルー、パディメロン、ウォンバット、オポッサムなどを見る事ができる。現地で有名なタスマニアンタイガーは、絶滅したとされている。

 タスマニアの野生生物でとりわけ有名なのは、タスマニアン・デビルである。

 デビルは肉食の有袋類であり、1936年にタスマニアン・タイガーが絶滅したため、現在では世界最大の肉食有袋類となっている。


絶滅したタスマニア・タイガー
出典:Tasmanian Tiger Exhibition, Pure Cradle


絶滅したタスマニア・タイガー
出典:English Wikipedia

 ずんぐりした小型犬のような姿で、幅広の頭を持ち、尾が太く、毛皮は黒くザラザラしている。

 この動物をタスマニアン・デビルと名付けたのは、夜になると聞こえる悪魔のような唸り声の遠吠えに悩まされた初期のヨーロッパ人入植者たちだった。

 外見や世評では恐ろしい動物のように思われているが、実際には臆病な動物である。

 1995年以降は顔に腫瘍のできる病気で生息数が激減し、現在では保護対象種となっている。

 タスマン半島(Tasman Peninsula)にあるタランナ(Taranna)など、タスマニア州のワイルドライフ・パークで見ることができる。


絶滅の危機に瀕している世界的に有名なタスマニア・デビル
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 2012.2.22

絶滅危惧種のタスマニア・デビル 詳細は後述

 現在はタスマニア島のみに生息する。絶滅危惧種。

 古くはオーストラリア大陸にも生息していたことが化石により判明しており、同大陸ではヨーロッパ人到達以前の14世紀終わり頃に絶滅した。

 オーストラリア大陸での絶滅はフクロオオカミと同様に、人類がもたらしたイヌが野生化したディンゴの影響があると思われる。

 1800年頃から入植を始めたヨーロッパ系住民は、家禽や家畜を襲う害獣として、また鳴き声や死体を漁る姿を悪魔に例えて忌避した。


路上に出てきたハリモグラ
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 2012.2.23


路上に出てきたハリモグラを草むらに戻す池田
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 2012.2.23


ハリモグラ。これは模型
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 2012.2.25


ウォンバット  出典:Wikipedia

 また海洋野生生物としては、フェアリーペンギン、オットセイ、イルカ、クジラ、アワビが生息している。

 環境問題との関連で、大規模なユーカリの森林の伐採が行われ、自然環境破壊が大きな社会問題となっている。


中部の丘陵はユーカリの大伐採により丸裸となっていた
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 2012.2.22

 なお、タスマニア州の自然環境破壊、とくに原生林の大伐採問題については、グリーンピースの以下のサイトが詳しい。大規模伐採したユーカリの木はチップとされ日本の新聞紙など紙資源とされてきたことが背景にあるとしている。

◆タスマニア ~紙に変わる原生林~(グリーンピース)

 印刷用紙やオフィス用紙、新聞用紙など、私たちが日常に使う紙・紙製品は、海外からの資源に多く依存して生産されています。 

 日本は、紙生産の原料である木材チップやパルプを大量輸入する世界有数の国なのです。輸入される大部分は、原生林(注1)から産出されてきています。

 特に、オーストラリアのタスマニア州では、毎年サッカー場9,500個分の面積の原生林を含む森林が破壊的に伐採され、そのうちの90%近くがチップとなって、日本に輸出されてきています。日本で紙や紙製品となり消費されるために、タスマニアの森林生態系が破壊されているのです。

1-8 動物園と野生生物保護センター

 タスマニアには、たくさんの動物園や野生生物の保護センターがあり、いずれの動物園や保護センターにおいても、絶滅危惧種となっているタスマニアデビルが保護されていた。

 以下は、ポートアーサーにあるタスマニア・デビル保護公園の入口である。この公園は公立のデビル保護センターである。入場料は大人が20豪ドルである。

 タスマニアでは2月は日本の8月に相当し、しかも極地に近いため午後8時過ぎにならないと暗くならない。午後5時ではまだかなり太陽が高いが、この公園は午後5時に閉園となるので要注意である。


ポートオーサーのタスマニア・デビル保護公園にて
撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10 2012.2.23

 タスマニア北部にある第二の都市、ロンセストンから10数km西に入ったところにあるのがその名もタスマニア動物園である。入園料は大人が25豪ドルである。

 この動物園は、完全民営の動物園で40頭のデビルを保護、飼育している。


ロンセストン近くにあるタスマニア動物園にて
撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10 2012.2.22


保育員にダッコされたデビル。タスマニア動物園にて
撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10 2012.2.22


絶滅危惧種、タスマニア・デビルの子供に触る池田
北部ロンセストン近くにあるタスマニア動物園にて
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 2012.2.22

 下は、ロンセストンから西へ90km近く行ったところにあるトロワナ野生生物公園の入口である。


トロワナ野生生物公園の入口
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 2012.2.22


トロワナ野生生物公園の入口
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 2012.2.22

 その他、首都ホバート近くのリッチモンドのズードゥー・ワイルドライフ公園(Zoodo Wildlife Park)はじめ、東海岸のイースト・コースト・ネイチャーワールドなど、さすが野生生物の楽園だけあって、動物園や野生生物の保護公園は多数ある。

 これらの動物園や保護センターをまわるだけでもタスマニアに来る意味があるほどだ。

1-9 自動車による野生生物のひき殺し被害

 今回の予備調査では、各地の道路の路上で野生生物が自動車にひき殺されていた。

 私たちは、タスマニア滞在実質3日間で1000km以上を走行したが、おおよそ35匹のラワビー、オポッサム、リスなどがひき殺されている現場に遭遇した。


ワラビーが自動車にひき殺されてた現場
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 2012.2.22


ポッサムが自動車にひき殺されてた現場
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 2012.2.23

1-10 自然保護区

 タスマニアには、西部地域を中心に自然公園、保護区などが多数ある。


タスマニア西部の山岳地域。すでに紅葉がはじまっていた!
撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 2012.2.23

・国立公園
ウォールズ・オブ・イェルサレム国立公園(w:Walls of Jerusalem National Park)
クラドル・マウンテン=レイク・セント・クレア国立公園(w:Cradle Mountain-Lake St Clair National Park)
サウスウエスト国立公園(w:Southwest National Park)
ハーツ・マウンテンズ国立公園(w:Hartz Mountains National Park)
フランクリン=ゴードン・ワイルド・リバーズ国立公園(w:Franklin-Gordon Wild Rivers National Park)


西部にあるクラドル山(Cradle Mountain)

・州立保護区
デビルス・ガレット州立保護区(Devils Gullet State reserve)
マラクーパ・ケーブ州立保護区(Marakoopa Cave State Reserve)
リッフィー・フォールズ州立保護区(一部、Liffey Falls State Reserve)

・保護地域
アダムズフィールド・保護地域(Adamsfield Conservation Area)
サウスウエスト・保護地域(Southwest Conservation Area)
セントラル・プレート保護地域(Central Plateau Conservation Area)
マーブル・ヒル保護地域(Marble Hill Conservation Area)

・森林保護区
ドライズ・ブラフ森林保護区(Drys Bluff Forest Reserve)
メンダー森林保護区(Meander Forest Reserve)
リッフィー・森林保護区(Liffey Forest Reserve)

・その他
セント・クレア礁湖(St Clare Lagoon)
ファーム・コーブ・ゲーム・リザーブ(Farm Cove Game Reserve)
マーツイカー・アイランド(Maatsuyker Island)
マックスウェル・リバー保護考古学遺跡(Maxwell River Protected Archaeological Site)
ワルガタ・ミナ保護考古学遺跡(Wargata Mina Protected Archaeological Site)
マッコーリー・ハーバー歴史遺跡(Macquarie Harbour Historic Site)


つづく