出典:ぎょうせい、月刊「晨」1999年9月号 環境行政改革フォーラム機関誌「論壇」

「松の針葉」を環境指標とする
住民参加によるダイオキシン汚染監視運動

中村秀次
生活クラブ事業連合生活協同組合連合会
自主管理監査推進室長


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<運動の目的・ねらい>

 これまで生活クラブでは、「共同購入運動」を通じ、環境問題に関して、リユース瓶の普及や石けんの普及、また、塩ビ製品の排除・切り替えなど環境ホルモンやダイオキシン問題にも取り組んできました。一方、ここ数年、所沢や能勢、龍ヶ崎など各地の汚染状況やベルギーでの食品汚染の報道、法制度の遅れが指摘される中、ダイオキシン汚染に対する一般市民・消費者の不安と関心が一段と高まり、市民参加によるダイオキシン汚染削減に向けた取組が必要であるとの認識が高まりました。

 そこで、生活クラブでは、これまでの「共同購入活動」の一環として、地域のダイオキシン汚染の実態を市民が自ら参加して測定分析し、汚染の削減に向けた市民や消費者としての役割の認識やごみの削減や塩ビ製品を使わないなどのライフスタイルの転換、また、行政への有効な提言に活かしていく「なくせ!ダイオキシン、汚染監視運動」をスタートさせました。

 市民参加による環境測定運動としては、二酸化窒素の測定などを既に毎年実施している経験もあり、今回の運動を通じて、市民ひとりひとりが地域の汚染実態を知り、ダイオキシン汚染の削減に取り組むことができれば、新たな市民運動として大きな役割を果たすことができるものと内外から期待が寄せられています。


<運動の展開>

 今回の「なくせ!ダイオキシン 汚染監視運動」は、次の4つのステップで構成されています。

STEP1 市民が調べる:

  • 自分が住む町の長期的平均的なダイオキシン濃度の測定を松の針葉を使って行います。基本的に市や区を一つの単位として1検体(松の針葉100g)を集めます。
  • 松の葉集めと同時に、町やその周辺のダイオキシン発生施設の分布も調べます。
  • 地域によっては、行政へのダイオキシン対策ヒアリングも実施します。

STEP2 市民が提案する

  • 測定結果をもとに、地域ごとに汚染マップを作成し、自分の住む町の汚染状況を把握するとともに、行政や事業者への提案、また、消費者自らなすべきことについて提言を行います。

STEP3 市民が実践する

  • 測定結果を踏まえ、生産・流通・消費・廃棄という一連の消費行動によってダイオキシン汚染を少しでも削減することができるよう、ライフスタイルの見直しや消費行動の見直しを呼びかけ、共同購入への参加を呼びかけます。

STEP4 市民がつなぐ

  • 今回の取組の成果をもとに、地球規模の視点をもったグリーンコンシューマーとしての活動の輪を ひろげ、各地と連携しながら「循環・共生型社会」づくりにむけた活動を拡げていきます。


<運動の方法>

@サンプルの準備(9月〜10月)

 1検体につき原則としてクロマツの針葉100gと測定分析費及び解析費として15万円を用意する。解析費用は組合員・市民のカンパでまかなう。できるだけ多くの市民の参加を募る。10gずつのサンプルをできるだけ多くの場所から集める。サンプルは、市・区単位で1検体となるように、サンプリングの場所を明記して集める。

Aサンプルの分析(10月〜11月)

 集めた松の針葉は1地域につき1検体となるように調整し、株式会社 環境総合研究所(東京品川)に送付、カナダの分析機関に送付し、松の葉に含まれるダイオキシン類(PCDD+PCDF)を測定分析する。

B結果の解析と公表(平成12年1月予定)

 各地域から集められた松の針葉の分析結果は、市区ごとにマッピングし、ホームページ等で広く一般に公開し市民・事業者・行政の取組の参考とする。


<松の針葉を指標とする理由>

 ダイオキシン類の発生源の大部分は、廃棄物の焼却にあります。したがって直接大気中のダイオキシン類を測定分析できれば理想的です。しかし、大気中のダイオキシン濃度は、さまざまな要因によって著しく変化することから地域の平均的かつ長期平均的な濃度を測定分析することはそれほど容易ではありません。

 そこで、地域のダイオキシンの汚染状況を住民参加により測定分析、解析、情報提供するにあたっては、より少ないサンプルで、より正確に、しかもリーズナブルな価格で地域のダイオキシン濃度を把握できることが最も重要となります。
 松の針葉は、地域に生息し地域の大気を一年を通じて呼吸していることから、地域の大気中のダイオキシンの濃度を安定的に反映できる指標といえます。葉の気孔は窪んでいて、葉にも松ヤニがあるため粘着力が強く付着した汚染がはがれにくく、脂肪分が多いため蓄積しやすいという特徴をもっています。

 また、これまでに摂南大学薬学部の宮田教授や環境庁などもクロマツを使った測定分析を行っており、それらのデータと比較することも可能です。今回の測定分析運動にあたっては、技術顧問として株式会社 環境総合研究所(青山貞一所長)の協力を得ています。

 この運動は、環境ホルモン問題と同様、化学物質に頼る生活の中から引き起こされている地球規模のダイオキシン問題に対して、国や業界に任せきった(頼り切った)対策だけでなく、市民が参加してダイオキシンの不安を地域から減らすための取組として進めることに意義があります。必要な情報は市民が自ら費用も負担して集め、行動し解決のための提案につなげていくことが今求められているのです。全国にこうした市民の運動が広がることを期待しています。


この運動に関しての問い合わせ先:

生活クラブ連合会 自主管理監査推進室 

 〒160-0022 新宿区新宿6-24-20 丸増新宿ビル5F
電話 03-5285-1872 FAX 03-5285-1837


出典:ぎょうせい、月刊「晨」1999年9月号
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