2002.3.30 引地川ダイオキシン汚染事故2周年報告集

湘南の海の汚染はどこまで続くか
  −その後のムラサキイガイのダイオキシン類調査から−    

池田こみち(環境総合研究所副所長)

※本調査にはトヨタ財団から助成を受けています。

 本研究報告の著作権は、環境総合研究所(東京都品川区)及び調査実行委員会にあります。
複製、転載することを一切禁じます。


1.思い出そう事故直後の汚染状況

 ここでは、荏原製作所藤沢工場の廃棄物焼却炉の排ガス洗浄装置からの排水が、未処理のまま雨水管を通じて公共用水域に排出されたことによって引き起こされた未曾有のダイオキシン汚染事件による環境汚染はどれほどのものであったのか、また、その後環境はどのように回復しているのか、いないのか、改めて検証してみたい。


           <対象海域参考図>



1−1 汚染発覚前の水生生物の汚染実態

 環境庁は平成11年9月24日、「ダイオキシン類緊急全国一斉調査結果について−平成10年度実施−」と題して水生生物中のダイオキシン類の濃度分析データを公表した。結果は表1−1にあるように全国公共用水域(N=368)の平均値が2.1pg-TEQ/g、最高値が30pg-TEQ/gであった。その中で、藤沢市引地川のコイ、フナの濃度は全体的に高い東京や神奈川県内の魚類の中でも群を抜いていることが分かる。 一般的に、魚介類では濃縮率の関係からダイオキシン類(PCDD/PCDF)に比べてコプラナーPCBの濃度が高いが、引地川の魚類では、PCDD/PCDFとコプラナーPCBの割合が他と異なっている。


表1−1 環境庁の緊急全国一斉調査概要(平成10年度)
      神奈川県関連データの一部 
 単位:pg-TEQ/g(wet) 

市町村 水域 生物名 PCDD/Fs Co-PCB 合計値
横須賀市 平作川 カ キ 1.2 1.1 2.3
ボ ラ 1.1 3 4.1
座間市 目久尻川 オイカワ 0.8 1.9 2.8
栄区 イタチ川 オイカワ 0.8 2.4 3.3
南区 大岡川 タマビキガイ 1.6 2.1 3.7
ハ ゼ 0.1 2.3 2.5
緑区  恩田川 コ イ 0.6 1.3 2
オイカワ 1.2 3.8 5
川崎区 東京湾 スズキ 1.5 7.3 8.8
藤沢市 引地川 コ イ 8.4 4.1 12.5
フ ナ 5.9 3.3 9.2
全国平均 368検体 0.64 1.46 2.1

(出典)環境庁、平成11年9月24日、「ダイオキシン類緊急全国一斉調査結果について−平成10年度実施−」

 また、環境庁の平成11年度調査では、引地川のコイが更に高い濃度(20pg-TEQ/g)となっていることがわかる。表1−3は、米国における魚類の汚染レベルに応じて月に何回まで魚を食べられるを回数で示した警報指針である。米国環境保護庁(EPA)では大人(体重70kg)が一度におよそ220g程度の魚を食べることを前提として左の表を作成している。これにあてはめると、上記の環境庁の調査では、平均値はもとより、引地川の魚類は極めて高い濃度であることがわかる。


表1−2  平成11年度環境庁全国水生生物ダイオキシン調査結果より 単位:pg-TEQ/g(湿重量)、ND=0

引地川の魚類(ギンブナ、コイ) 20 (14 - 25) N=2
相模湾の魚類           2.0 (0.24 - 9.1) N=35

(出典)平成11年度「公共用水域等のダイオキシン類調査」、環境庁


表1−3 EPAの魚類摂取指針 単位:pg-TEQ/g (wet)

食事許容回数 魚類中のDXN類(PCDD+PCDF)濃度
>16  0     〜0.019
16 0.019超〜0.038
 12 0.038超〜0.05
  8 0.05超 〜0.075
  4 0.075超〜0.15
  3 0.15超 〜0.2
  2 0.2超  〜0.3
  1 0.3超  〜0.6
  0.5 0.6超  〜1.2
  0  1.2超  〜

(出典) Guidance for Assessing Chemical Contamination Data for Use in Fish Advisories, Volume 2 Risk Assessment and Fish Consumption Limits Third Edition,US Environmental Protection Agency, November 2000

【課題】

 荏原製作所藤沢工場排水汚染の発覚前から、旧環境庁の全国水生生物調査の結果をつぶさに検討すれば、引地川に生息する魚類のダイオキシン類濃度が異常に高いことが分かる。本来、その時点から発生源についての調査を実
施すべきであった。焼却炉を有する事業所の排水処理施設に対する規制が不十分であったことが今更のように悔やまれる。


1−2 藤沢市引地川の荏原製作所超高濃度ダイオキシン排出関連データ

 平成4年11月に運転が始まった荏原製作所藤沢工場の流動床炉が停止された平成12年3月までの7年5ヶ月間に、同工場から環境中に排出されたダイオキシン類の総量は、水系に3.0g-TEQ、大気中に1.4g-TEQが排出されたとされている。


表1−4 藤沢市引地川水質調査結果一覧    毒性等量濃度(pg-TEQ/L)

採取年月日 採取場所 PCDD/PCDF Co-PCB 合計
平成11年 9月16日20日 富士見橋 1.8
10月13日14日 7.4
11月 9日10日 16
12月 8日 9日 13
平成12年1月26日 富士見橋 9.2 0.46 9.7
高名橋左岸雨水管 3,000 150 3,200
小糸川 0.91 0.082 1
一色川 1.9 0.3 2.2
不動川 0.73 0.084 0.81
湘南台橋下右岸雨水管 0.31 0.042 0.35
平成12年2月16日 富士見橋 4.1 0.3 4.4
高名橋左岸雨水管 7,600 450 8,100
小糸川 0.19 0.032 0.22
石川橋 2.2 0.39 2.6
一色川 1 0.15 1.2
不動川 0.43 0.12 0.55
湘南台橋下右岸雨水管 0.083 0.043 0.13
平成11年10月 7日 相模湾・辻堂沖 0.07
平成11年 9月30日 相模湾・由比ヶ浜 0.08
全国平均値 0.4

注1)定量下限値以下は0とした。
注2)異性体毎の実測値よりWHO-TEF(1997)を用いて毒性等量を計算し、最終結果を有効数字2桁で表記した。そのため表記上の合計値と内訳が一致しない場合がある。また、行政からの公表数値と誤差が生じている場合がある。
(出典)平成12年3月24日、藤沢市、測定分析実施、鋼管計測株式会社


表1−5 焼却停止前後の濃度変化

平成12年3月23日 平成12年
3月24日以降
単位
河川水質 引地川   16 (N=4) 3.3 (N=19) pg-TEQ/L
稲荷雨水
幹線流末
4100 (N=1) 40 (N=17) pg-TEQ/L
河川魚介類 引地川 10.0 (1.1 -30 ) (N= 7) pg-TEQ/g
海域水質     引地川河口  0.55 (0.36-0.75) (N= 3) pg-TEQ/L
底質    引地川河口 2.4 (1,1 -4.6 ) (N= 4) pg-TEQ/g
魚介類    引地川河口 1.6  (0.20-8.1 ) (N=10) pg-TEQ/g
井戸水・わき水     0.10 (0.095-0.18)(N=13) pg-TEQ/L
海水浴場水質 0.23 (0.12 -0.38)(N= 9) pg-TEQ/L
海水浴場底質 0.68 (0.25 -2.0) (N= 9) pg-TEQ/g
海水浴場浜砂 0.14 (0.078-0.35)(N= 9) pg-TEQ/g

(出典)平成12年3月24日、藤沢市、測定分析実施、鋼管計測株式会社


 
荏原製作所藤沢工場のダイオキシン類の発生源が停止した直後に、大幅に河川水質が改善されていることがわかるが、依然として引地川の河川水質の濃度は高く、日本の水質環境基準(年間平均値で1.0pg-TEQ/L)はクリアしているものの、生物濃縮を考慮して設定されている米国EPAの水質指針(0.013〜0.014pg-TEQ/L)は相当程度上回っていることがわかる。

1−3 平成12年度の環境調査結果から

 平成13年12月に環境省が公表した「平成12年度 ダイオキシン類に係る環境調査結果」をもとに引地川及び相模湾の水質・底質の汚染状況を整理した。

表1−6 全国の水質ダイオキシン類調査結果

   地点数 検体数 基準超過
地点数
 調査結果(水質)
平均値 最小値 最大値
河川 1,612 1,885 80 0.36 0.014 48
湖沼 104 113  2 0.22 0.028   2.3
海域 400 426  1 0.13 0.012   2.2
全体 2,116 2,424 83 0.31 0.012 48

(出典)平成13年12月「平成12年度 ダイオキシン類に係る環境調査結果」、環境


表1−7 全国の底質ダイオキシン類調査結果  単位:pg-TEQ/g

   地点数 検体数 基準超過
地点数
 調査結果(底質) 
平均値 最小値 最大値
河川 1,367 1,410 -- 9.2 0.0011 1,400
湖沼 102 106 -- 11 0.208 47
海域 367 371 -- 11 0.018 470
全体 1,836 1,887 -- 9.6 0.0011 1,400

(出典)平成13年12月「平成12年度 ダイオキシン類に係る環境調査結果」、環境


表1−8 相模湾・引地川のデータ 単位:pg-TEQ/L

対 象 調査地点 水質
pg-TEQ/L
底質
pg-TEQ/g
相模湾 辻堂沖 0.15 1.5
江ノ島西 0.081 17
城ケ島沖 0.11 1.5
小網代湾 0.077 2.6
由比ヶ浜沖 0.1 0.82
大磯沖 0.087 0.74
湾央 0.081 20
根府川沖 0.12 7.3
吉浜沖 0.072 1.5
小田和湾 0.072 0.2
葉山沖 0.098 0.95
七里ヶ浜沖 0.088 2.2
湾央東 0.11 3.6
湾央西 0.083 1.8
真鶴沖 0.075 5.7
海域 相模湾平均 0.094 4.49
海域 全国平均 0.13 11
引地川 富士見橋 0.84 2.6
下土棚大橋 0.41 3.3
石川橋 0.97 1.3
河川 神奈川平均 0.34 4.2
河川 全国平均 0.36 9.2

注)神奈川県の河川 n=50、底質 n=49
(出典)平成13年12月「平成12年度 ダイオキシン類に係る環境調査結果」、環境省


(1)水質について

【課題】
 平成12年度の調査では、相模湾海域の海水中ダイオキシン類濃度は全国平均より若干低く、わずかながら改善されてきているように見える。一方、河川水質についてみると、全国平均と神奈川県平均はほぼ同程度の濃度であるにもかかわらず、引地川の水質はその2倍を超える地点も観測されており、依然として濃度が高いことが伺える。

 ダイオキシン類対策特別措置法で定められた水質環境基準(年間平均値で1.0pg-TEQ/L)は、辛うじてクリアしているものの、生物濃縮を考慮した米国EPAの水質指針値と比較してみると、海域も河川水もいずれも大幅に高濃度となっており、生物や生態系への影響が危惧される。

図1−1 相模湾と引地川の水質中ダイオキシン類濃度

(出典)平成13年12月「平成12年度 ダイオキシン類に係る環境調査結果」、環境省をもとに環境総合研究所作成


 
図1−2及び図1−3に相模湾と引地川の水質について別々に示した。


図1−2 相模湾の海水に含まれるダイオキシン類濃度(←→はEPAの水質指針値)

(出典)平成13年12月「平成12年度 ダイオキシン類に係る環境調査結果」、環境省をもとに環境総合研究所作成


 
図1−3 引地川の水質中ダイオキシン類濃度(←→はEPAの水質指針値)

(出典)平成13年12月「平成12年度 ダイオキシン類に係る環境調査結果」、環境省をもとに環境総合研究所作成


(2)底質について
 一方、底質についてみると、事件発覚直後は表1−9のような濃度となっており、荏原製作所藤沢工場の排水が流れ込んだすぐ下流部分である高名橋合流後の地点と引地川の河口に位置し河川から運ばれた土壌や砂などが堆積しやすい鵠沼橋付近で最も高くなっていた。→で示した数値は、表1−8に示した平成12年度の底質濃度である。これをみると引地川河口から江ノ島沖、相模湾の湾央エリアで1年前よりも底質の濃度が高くなっているところもあり、これまでの汚染が次第に下流から海へと流れ、分解されずに環境中に残留していることが伺える。


表1−9 事件発覚直後の底質ダイオキシン濃度

測定地点 底質中ダイオキシン類濃度
pg-TEQ/g
不動川合流付近 2.6
高名橋(合流前) 5.4、3.5
高名橋(合流後) 21
引地橋 12 、2.4
富士見橋 3.2〜8.0 (平均 4.8 n=5) →2.6
鵠沼橋 28
辻堂海岸 0.25〜0.48(平均 0.36 n=3) →1.5
片瀬西浜   0.34〜1.5 (平均 0.65 n=4)
片瀬東浜   0.48〜2.0 (平均 1.24 n=2)
鵠沼地先 1.8
江ノ島沖 4.6 →17
藤沢市沖 2

出典:引地川水系ダイオキシン汚染事件への対応
    平成12年5月31日環境省発表データより作成


図1−4 平成12年度 相模湾・引地川 底質中ダイオキシン類濃度

(出典)平成13年12月「平成12年度 ダイオキシン類に係る環境調査結果」、環境省をもとに環境総合研究所作成
 

【課題】
 底質については、環境基準が定められていないが、水生生物の食物連鎖を考慮すれば、底質の汚染は魚介類に大きな影響を及ぼすことから、底質濃度が高いことは人の健康に対しても高いリスクをもたらすことが考えられる。また、長期にわたって生態系に影響を及ぼ すことも考えられる。上図に示したように、相模湾央や江ノ島西などでは、全国平均に比べても高い濃度となっており、相模湾の潮流等を考慮した解析が必要である。


2.市民による環境モニタリング調査の結果

2−1 調査の目的
 

 人々が日常的に親しみ利用している海域のダイオキシン類濃度を市民参加により測定分析し、汚染の実態を明らかにするとともに、市民の関心を高め、必要な対策等について事業者や行政に提言を行っていくための基礎資料とすることを目的としている。

 本調査は、SFJ(サーフライダーズ・ファウンデーション・ジャパン)、東京農工大学農学部高田研究室、環境総合研究所の三者の連携によって実施されている。


2−2 調査の方法

(1)調査の対象  

 
ムラサキイガイ 貝長5cm程度のもの、およそ100個採取し、むき身にした上でホモジナイズ(均質化)したもの約80〜100gを試料とした。

(2)対象地域

 
本調査では、日本国内の主要な港湾及びマリンレジャーに利用される海浜を対象に、市民からの参加希望を募って調査地点を選定した。今年度は、千葉県、神奈川県、石川県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、徳島県、福岡県、鹿児島県の海域を対象としている。

(3)サンプリング

 サンプリングは、調査対象地点を活動拠点としているNGOグループの参加・協力によって
平成13年10月〜11月にかけて行われた。(現在も一部分析中)

(4)分析方法

 
ムラサキイガイのダイオキシン類の測定分析方法は、摂南大学薬学部宮田秀明教授の研究室で開発された方法を参考に、カナダの分析機関の独自の方法で分析を行った。

(5)分析機関

 ムラサキイガイサンプルは、東京農工大農学部高田研究室において、調整(むき身及びホモジナイズ)作業を行い、およそ100gを1検体として環境総合研究所に送付され、その後、カナダ・オンタリオ州の Maxxam Analytics Inc.(ISO/IEC Guide 17025 取得機関)に冷凍状態で空輸した。

(6)分析項目

 ムラサキイガイをはじめとする魚介類には、ダイオキシン類の中でも脂溶性及び蓄積性の高いコプラナーPCBが7〜8割を占めていることを考慮し、本調査では、コプラナーPCBを中心に測定分析を行った。ただし、相模湾エリアでは、市民グループの参加を得て、荏原製作所による公共用水域汚染事件のその後を検証する目的で、3地点についてダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾパラダイオキシン:PCDD、ポリ塩化ジベンゾフラン:PCDF)についても測定分析を行った。


            分析対象化学物質の概要

@ポリ塩化ジベンゾパラダイオキシン PCDD 7異性体及び同族体
Aポリ塩化ジベンゾフラン PCDF 10異性体及び同族体
BコプラナーPCB Co-PCB ノンオルト体 4異性体
モノオルト体 8異性体
ジオルト体  2種



2−3 分析結果

 表2−1に、現在までに結果が速報された地域のデータを示す。コプラナーPCBについてみると、実測値では、大阪府の泉大津マリーナのサンプルが最も高濃度となっているが、毒性等量では、12検体中、神奈川県引地川河口が1.78pg-TEQ/gと最も高く、次いで泉大津マリーナの1.47pg-TEQ/gとなっている。

表2−1 エリア別結果一覧

No 地域   対象エリア   Co-PCB PCDD+PCDF Co-PCB+
PCDD+PCDF
実測値 毒性等量 実測値 毒性等量 実測値 毒性等量
pg/g pg-TEQ/g pg/g pg-TEQ/g pg/g pg-TEQ/g
1 三重県 鈴鹿川河口 1,805 0.58
2 四日市市
霞ヶ浦付近
3,762 0.427
3 川越町
高松海岸付近
1,202 0.189
4 神奈川 相模川河口    2,036 0.999 148.8 1.363 2,185 2.362
8 佐島マリーナ 1,289 0.86 61.4 0.647 1,350 1.507
9 引地川河口 3,310 1.778 123.4 1.298 3,433 3.076
5 石川県 つくも湾 1,920 0.722
7 徳島県 小松海岸 673.4 0.664
6 愛知県 三河湾   200.15 0.195
10 赤羽根漁港沖 175.9 0.192
11 赤羽根漁港内 171.6 0.149
12 大阪府 泉大津マリーナ 4,278 1.468

 (出典)本調査結果速報


図2−1 実測値濃度(Co-PCBs)

 (出典)本調査結果速報より環境総合研究所作成

図2−2 毒性等量濃度(Co-PCBs)

 (出典)本調査結果速報より環境総合研究所作成

2−4 神奈川県内3地点について

 
神奈川県内については、市民グループの参加を得て3地点の調査がダイオキシン類も含めて行われた。その結果、毒性等量では、引地川河口が3.07pg-TEQ/g、相模湾河口が2.36pg-TEQ/g、最も離れた三浦半島西岸の小田和湾・佐島マリーナが1.5pg-TEQ/gとなった。この結果を、2000年10月にサンプリングを行ったムラサキイガイパイロット調査結果(表2−2)と比べると、引地川河口では、3.97pg-TEQ/gから3.07pg-TEQ/gへ約23%濃度が低下しているが大幅な改善は見られない。

表2−2 パイロット調査結果 (2000年10月1日採取)  単位:pg-TEQ/g

引地川河口 江ノ島マリーナ
PCDD+PCDF 2.69 1.61
Co-PCBs 1.28 1.52
合計  3.97 3.13

(出典)環境総合研究所、ムラサキイガイを環境指標とした住民参加の海域ダイオキシン調査(略称、パイロット調査)、平成13年7月


 
また、実測値及び毒性等量値のダイオキシン類とコプラナーPCBの構成比についても以下に分析を行った。その結果、実測値(図2−4)では、いずれも、 コプラナーPCB類(Co-PCBs)が90%以上を占めているが、毒性等量濃度(図2−6)では、佐島マリーナと引地川河口がおよそ60%、相模川河口がおよそ40%と若干の違いが生じた。


図2−3 実測値濃度

(出典)本調査結果速報

図2−4 実測濃度構成比

(出典)本調査結果速報

図2−5 毒性等量濃度

(出典)本調査結果速報

図2−6 毒性等量濃度構成比

(出典)本調査結果速報


2−5 同族体パターン比較分析

 次に、神奈川県内3地点の同族体パターンの比較を行った。3地点とも極めて類似したパターンとなっている。

          図2−7 コプラナーPCB類の異性体・同族体パターン

NO.4:相模川河口(1.0pg-TEQ/g)

(出典)本調査結果速報

NO.8:佐島マリーナ(0.86pg-TEQ/g)

(出典)本調査結果速報

NO.9:引地川河口(1.78pg-TEQ/g)

(出典)本調査結果速報

 ダイオキシン類についても同様に3地域の同族体パターンの比較を行った。その結果、3地点とも極めて類似した同族体パターンとなった。しかし、4塩化及び5塩化ダイオキシンと同フランの構成につてみると、表2−3に示したように、毒性等量濃度の低かった佐島マリーナと他の2地点は明らかに異なった構成となっていることが分かる。これは、引地川河口と相模川河口のムラサキイガイのダイオキシン類の由来が類似していることを示唆している。

表2−3   4・5塩化ダイオキシンとフランの構成

      T4CDDs T4CDFs F/D T5CDDs T5CDFs F/D
相模川河口 94 26 0.28 3.8 7.6 2
佐島マリーナ 15 23 1.53 1.4 14 10
引地川河口 65 27 0.42 4.6 11 2.4

(出典)本調査結果速報


図2−8 PCDD+PCDFの同族体パターン比較

NO.4:相模川河口(1.36pg-TEQ/g)                                   

(出典)本調査結果速報

NO.8:佐島マリーナ(0.65pg-TEQ/g)                                  
  
(出典)本調査結果速報

NO.9 引地川河口 (1.3pg-TEQ/g)                                   

(出典)本調査結果速報

図2−9 参考パターン:2000年度パイロット調査結果

Co−PCB:江ノ島マリーナ(1.52pg-TEQ/g)                             

(出典)環境総合研究所、ムラサキイガイを環境指標とした住民参加の海域ダイオキシン調査(略称、パイロット調査)、平成13年7月

Co−PCB:引地川河口(1.28pg-TEQ/g)                               

(出典)環境総合研究所、ムラサキイガイを環境指標とした住民参加の海域ダイオキシン調査(略称、パイロット調査)、平成13年7月

PCDD/PCDF:江ノ島マリーナ(1.61pg-TEQ/g)                          

(出典)環境総合研究所、ムラサキイガイを環境指標とした住民参加の海域ダイオキシン調査(略称、パイロット調査)、平成13年7月

PCDD/PCDF:引地川河口(2.69pg-TEQ/g 推定値)                      

(出典)環境総合研究所、ムラサキイガイを環境指標とした住民参加の海域ダイオキシン調査(略称、パイロット調査)、平成13年7月


3.まとめ

3−1 荏原製作所藤沢工場事件による汚染はまだまだ解決されていない!

・発生源である焼却炉が停止されたことにより、河川及び地先海域の水質中の
 ダイオキシン類濃度は急速に改善されている。

・しかし、底質については、高濃度の汚染土砂が時間の経過とともに下流に流さ
 れ河口付近に溜まり、また海域の潮流や気象条件によって流され、相模湾の一
 部に滞留し生態系の汚染に繋がってい く可能性もある。

・市民参加によるムラサキイガイ調査では、調査対象地域の中で引地川河口のサ
 ンプルが最も高い濃度となっており、生物濃縮が進んでいることが伺える。

・水産庁の魚介類中ダイオキシン類調査では、平成12年度に相模湾の「マイワシ」
 が調査対象となっているが、1.98pg-TEQ/g、1.92pg-TEQ/gと米国EPAの指針
 値を超えており、相模湾の魚介類 の汚染が心配される。汚染地域の体系的な事
 後モニタリングが行われていない。


3−2 今後の課題

(1)法制度上の課題

@ダイオキシン類対策特別措置法の改正

 ・日本の排ガス規制値が欧米の800倍もゆるいこと!
   −平成14年11月30日まで80ng-TEQ/Nm3が許容されている。
     焼却炉の排ガスは0.1ng-TEQ/Nm3以下が国際的な規制値。

 ・水質環境基準値の見直し
   −日本の水質環境基準は米国の77倍もゆるい。
     生物濃縮を考慮した基準を設定するべきである。

 ・一般環境大気中の環境基準の見直し
   −総量規制の地域指定が大気DXN汚染の年平均濃度で決まっている。

 ・魚介類、乳製品、農作物等に対する単体基準値あるいは指針値の設定

 ・TDI(耐容一日摂取量)の見直し
   −日本のダイオキシン類の摂取指針(TDI)が米国に比べて400倍ゆるいこと!
     EUはWHOが提案している現状のTDI1〜4pg-TEQ/kg/日を2pg-TEQ/kg/日
     に改訂している。

 ・汚染者負担原則の徹底:罰則の強化
   −ダイオキシン類対策特別措置法の課題、通産省と環境庁との間での直罰規定の
     1年猶予が密約されていた。

A水質汚濁防止法の改正


  排ガス、大気を重視してきたダイオキシン類対策、大気汚染防止法改訂だが、今後、
  水質についても水質汚濁防止法との関連で改正をしていかねばならないだろう。

 ・ダイオキシン類対策に資する規制の強化、届出事業所の規模見直し 

B環境モニタリングの体制の強化−安易な安全宣言をさせないために。


  ・調査対象地域、サンプリング地点、調査対象試料の選定に関して透明性を高める

  ・市民参加による調査の実施

  ・すみやかな情報公開と情報提供の推進

  ・緊急時の体制の強化(委員会の立ち上げ、市町村・都道府県・国との連携のあり方、
   市民へのリスクコミュニケーションのあり方など)

  ・日常的なリスクコミュニケーションのあり方

  ・第三者性の高い測定分析機関の選定、技術の向上等

(2)汚染者としての企業としての課題

  ・PPPの原則に従った責任を果たす  

  ・環境監視の徹底と情報公開の徹底
   −汚染の除去、回復に係る費用負担
   −事業所内の監視と環境モニタリングの強化
   −継続的な環境モニタリングに対する費用負担
   −社員への環境教育の徹底
   −緊急時に適切な対応ができる体制の構築

  ・企業市民として地域住民に対する責任を果たす

  ・企業モラルの向上
   −開かれた企業としての情報公開、情報提供
   −環境広告のあり方(ゼロエミッション企業)
   −市民活動に対する支援、協力
   −ISO取得企業としての責任
   −技術評価のあり方の見直しなど



<参考引用文献>

環境庁、「ダイオキシン類緊急全国一斉調査結果について−平成10年度実施−」平成11年9月24日
環境庁、平成11年度「公共用水域等のダイオキシン類調査」
環境総合研究所、ムラサキイガイを環境指標とした住民参加の海域ダイオキシン調査(略称、パイロット調査)、平成13年7月
環境省、「平成12年度 ダイオキシン類に係る環境調査結果」平成13年12月
池田こみち、青山貞一、鷹取敦、ムラサキイガイを指標とした水質環境モニタリング手法の研究、環境ホルモン学会、第4回研究発表要旨集、2001年12月
池田こみち、青山貞一、鷹取敦、ムラサキイガイを生物指標とした市民参加による日本海浜におけるダイオキシン類汚染の実態把握について、〜パイロット調査を中心に〜、環境行政改革フォーラム2001年度豊橋総会研究発表予稿集、2001年10月13日−14日
・環境総合研究所、ムラサキイガイを環境指標とした住民参加の海域ダイオキシン汚染調査の提案、Dioxin Bulletin & Review No.14, September 10, 2000

         3団体の詳細内容は下記のHPをご参照ください>

◆環境総合研究所 Environmental Research Institute (ERI)
  http://eritokyo.jp/
◆東京農工大学/高田研究室
  http://www.tuat.ac.jp/~gaia/shige/syoukai/shige3e.htm
◆SURFRIDER FOUNDATION JAPAN
  http://www.surfrider.gr.jp/

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