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環境総合研究所 
自主調査研究 30年間の軌跡


市民参加による松葉を生物指標とした
  大気中のダイオキシン調査監視活動(北海道)
Citizen participatory monitoring activity of
Dioxins in the atmosphere
by Pine Needle as biological indicator
(Hokkaido)
概要、論考、論文、報告、記事、文献

主担当:池田こみち
掲載月日:2017年6月10日
独立系メディア E−wave Tokyo
無断転載禁

○生活クラブ北海道:札幌市およびその周辺エリア
   1999年、2008年、2011年

<概要>

 生活クラブ事業連合生活協同組合連合会が1998年から環境総合研究所とともに準備してきた組合員参加による「松葉を生物指標としたダイオキシン調査」の呼びかけに呼応して、生活クラブ生活協同組合(北海道)が札幌市内10区とその周辺地域(石狩市・岩見沢市・恵庭市・江別市・当別町・北広島市)そして、札幌市内の3カ所の清掃工場周辺(篠路清掃工場・発寒清掃工場・駒岡清掃工場)の全19地域を対象に調査しました。

 首都圏とは異なり人口密度も清掃工場密度も低いこのエリアでは、松葉に含まれるダイオキシン類濃度も低く、発寒清掃工場だけが1pg-TEQ/m3超える濃度となりました。この地域は石狩平野が広がる平坦な地形であること、清掃工場周辺に高層建築物が密集していないなど排気ガスの拡散を阻害する要因が少ないことも利点として上げられます。

 図は1999年度の測定結果を首都圏と同じ分級値で表示したものと北海道の実態がわかるように別途分級したものです。全体が濃いブルーで覆われ、首都圏エリアに比べて良好な状況であることがわかりました。


     図1 1999年度調査 首都圏と同じ分級とした場合


     図2 1999年度調査 北海道用分級

 その後札幌市が2009年度から分別を見直して、廃プラスチック類を焼却処理することとしたのを受け、廃プラ焼却前(2008年)と焼却後(2011年)について清掃工場周辺と少し離れた住宅地を対象にダイオキシン類と重金属類の調査を行い、濃度の変化を確認しました。

 その結果2011年度には1999年度、2008年度にくらべていずれの地点も濃度が大幅に低下していることが判明しました。生活クラブ北海道では、調査を受けて、札幌市に対して松葉調査の実施やダイオキシン類規制の強化、重金属類の測定に関して要望書を提出しました。


            図3 ダイオキシン類の濃度グラフ


            図4 金属類の濃度比較の例     −−−

 ◆−2008年度 市民参加による松葉ダイオキシン調査
  〜札幌市と川口市で報告  〜 池田こみち 2009年2月23日
  http://eritokyo.jp/independent/ikeda-col1026.html

 ◆札幌市のごみ政策と市民参加の松葉ダイオキシン調査 
   池田こみち 2012年3月1日
  http://eritokyo.jp/independent/ikeda-col1012...html


○函館市(市役所):七五郎沢廃棄物最終処分場周辺  
       
<概要>

 函館市内のごみ問題に取り組んできた市民グループが市議会や市役所に要望してきた「クロマツの針葉をもちいたダイオキシン調査」が2005年の秋に予算化され、函館市東山町にある「函館市七五郎沢廃棄物最終処分場」(函館市内から排出される燃やせないごみ・粗大ごみ・産業廃棄物を埋め立て処分する施設)の周辺で市役所が調査をすることになりました。

 同処分場には医療系廃棄物も持ち込まれており、周辺住民にとって大きな問題となっていました。焼却炉周辺ではなく焼却灰も埋め立てられている最終処分場周辺でのクロマツの針葉を用いた大気中のダイオキシン類調査は、東京都の日の出最終処分場での調査に次ぐものでした。 

 分析結果は、函館市内の一般環境測定地点3カ所の大気中ダイオキシン類濃度に比べて、処分場周辺で松葉の濃度から推定した大気中濃度は2倍から5.5倍高いことがわかりました。


○室蘭市(市民グループ):
 西胆振地域廃棄物広域処理施設「メルトタワー21」
 2003年〜2007年


<概要>

 室蘭市・登別市・伊達市・豊浦町・壮瞥町・洞爺湖町の3市3町が構成する西いぶり広域連合では、西胆振地域廃棄物広域処理施設として、2003年4月から三井造船のキルン式ガス化溶融炉「メルトタワー21」を稼働することとなりました。

 処理方式はガス化溶融炉ということでダイオキシン類など有害物質の問題はほとんどないとの触れ込みでしたが、立地場所である室蘭市石川町は、伊達市との市境の窪地であったため、高さ100mの煙突からの排ガスは、石川町から東に1〜2km離れた高台の室蘭市白鳥台の住宅地を直撃することとなりました。

 白鳥台の市民を中心に、市民グループを結成し、ガス化溶融炉からの影響を把握するため、風上の伊達市南黄金と風下の室蘭市白鳥台の2地域を対象に2003年から2007年まで継続的な調査が行われました。

 2003年度の最初の調査では、風下地域(白鳥台地域:標高70〜100m)の濃度が風上地域の11倍と高濃度であることがわかりました。その結果を受けて、市民は広域連合に焼却施設の維持管理の徹底や監視の強化などを申し入れ、市民に対しても分別の徹底を求める活動を続けるなど積極的に行政への働きかけを行い環境改善を求めていきました。


               図4 メルトタワーの概要


                図5 松葉採取風景


                図6 濃度結果グラフ
 
★広域連合のガス化溶融炉(メルトタワー21)の立地場所は、伊達市南黄金町と室蘭市石川町の市境であり、チマイベツ川水系の2本の河川が分流する標高7−8m前後の低地です。

 南北の断面は、北側の伊達市南黄金町、南側の室蘭市崎守町とも標高30m〜50mの段丘に挟まれています。

 一方、東西の断面をみると、西は内浦湾(標高0m)から東側はメルトタワー21からほぼ2km離れた白鳥台の住宅地で標高80m、約3km離れると標高100mを超え、白鳥台の住宅地からメルトタワー21の煙突がほぼ目の前に見える位置関係であることがわかります。

 以下はガス化溶融炉立地点の地形分析です。東西、南北ともに地形的に見てボトム(底)に位置しており、排ガスがダウンドラフトしやすいりっととなっていることが分かります。


調査分析:出典:池田こみち


調査分析:出典:池田こみち

執筆担当:池田こみち


 以下は関連する新聞記事です。

◆住民独自に有害物を調査 室蘭・広域ごみ処理施設 
   北海道新聞【道央版】 2003年10月30日朝刊
  http://eritokyo.jp/independent/dioxin/pine/muroran2.html 

 昨年十二月に本格稼働した室蘭市石川町の広域ごみ処理施設から排出されるダイオキシン濃度の測定値などに疑問があるとして、室蘭、伊達両市内の住民が独自にダイオキシン調査に乗り出す。組織内に有害物質をため込む性質のあるマツの葉を使って分析するもので、十一月六日に葉を採取し、分析を委託する。

 調査を行うのは、室蘭市白鳥台の成沢彰男さん(65)らでつくる実行委。成沢さんらは昨秋、ダイオキシン濃度の常時測定装置設置を求め、事業主体の西いぶり廃棄物処理広域連合に署名を提出、同十一月に装置導入を検討する協議会の新設などを盛り込んだ協定書を広域連合から得た。

 広域連合はその後、二○○三年度中に協議会を設置するとしたが、いまだ設置のめどは立っていない。 現在、ダイオキシン濃度は広域連合が専門業者に委託し月一回のペースで計測、過去六回とも、国の基準の十分の一以下の○・○一ナノグラム程度だった。しかし「定期測定は事前調整の可能性もあり、影響の有無は第三者が調べる必要がある」として反対派住民が実行委を結成、実施を決めた。

 調査は室蘭市と伊達市の各九地点からクロマツの葉計百グラムを採取し、有害物質の測定を行う東京の企業へ送り、ダイオキシン量の分析を委託する。

 同様の調査は千葉県柏市など約十自治体が三年前から毎年実施、一九九九年には道内二十一カ所で行われた実績があるという。年内には調査結果が出る見込み。

 実行委では分析にかかる費用(二十八万円)への寄付を集めているほか、採取作業の参加者を募集している。  

 問い合わせは成沢さん(電)0143・59・3087へ。



◆大都市並みのダイオキシン濃度 室蘭の広域ごみ処理施設周辺
   北海道新聞【道央版】 2004年3月7日朝刊
  http://eritokyo.jp/independent/dioxin/pine/muroran3.html
 
  
【室蘭】
 室蘭市石川町の西いぶり廃棄物処理広域連合(室蘭など七市町村で構成)の最新鋭ごみ処理施設の風下にあたる地区のマツの葉に、風上の地区の十一倍の濃度でダイオキシンが含まれていたことが六日、地元の市民グループが環境会社に依頼して行った測定で分かった。風下地区のマツの葉のデータから大気中の濃度を推定すると東京など大都市並みの高濃度だった。

 調査は昨年十一月、大気中の有害物質をため込む性質のあるクロマツの葉を、施設の風下になることが多い室蘭市白鳥台・崎守地区の九地点と、風上の伊達市南黄金地区の六地点で採取した。採取地点は施設から一−二キロ離れている。

 環境総合研究所(東京)を通じカナダの専門機関で分析した。

 その結果、風上側はマツの葉一グラム当たりのダイオキシン濃度が〇・二九ピコグラム(一ピコグラムは一兆分の一グラム)だったのに対し、風下側は三・二ピコグラムに達した。

 詳細分析で、風下は焼却で生じたダイオキシンが多いとされた。

 また、マツの葉のデータから大気一立方メートル中のダイオキシン濃度を推定すると〇・三ピコグラム程度だった。

 国の環境基準(大気一立方メートル中〇・六ピコグラム)は下回ったが、「首都圏や関西都市圏なみの極めて高い濃度」(環境総合研究所)という。

 生活クラブ生協北海道が一九九九年に札幌など七市町で行ったマツの葉の調査では、一グラム当たりの濃度は〇・二九−一・〇四ピコグラムだった。

 ダイオキシンに詳しい摂南大学(大阪府)の宮田秀明教授(環境科学)は「風下と風上でこれだけ差が出るのは施設の影響と考えるのが妥当。施設が(ダイオキシンをほとんど出さないという)公約通りならこうしたデータは出ないはず」と話している。

 この施設は二〇〇二年の国のダイオキシン規制強化に合わせて昨年四月に本格稼働。想定外の故障が相次いだため、二月中旬から大規模改修に入っている。

 西いぶり広域連合・真柄淳二事務局長は「大気などのモニタリング調査では環境基準が守られている。マツの葉のデータは見ていないので、コメントすることはない」としている。




ごみ焼却に伴う環境保全を考える室蘭でシンポジウム 
    室蘭民報 2003年5月25日朝刊
  http://www.eritokyo.jp/independent/dioxin/pine/muroran1.html 
  

 「考えよう!ごみの焼却と環境の保全」シンポジウム(同実行委員会主催)が24日、室蘭市白鳥台会館で開かれ、廃棄物焼却施設から排出されるダイオキシン問題と、監視システムについて学んだ。
 市内石川町の広域廃棄物処理施設稼働を受け、ダイオキシンの連続監視システム設置を求める署名運動を展開した、同実行委が企画した。東京・環境総合研究所の池田こみち副所長、仙台市オンブズマン前代表の増田隆男弁護士が講演した。

 池田氏は、現在の法律に基づいて廃棄物処理事業者が実施している環境測定について、「第三者性がないほか、年に最低1回行えばよいと言うのは、法律の不備。現在の法に基づく分析は信頼できない」と指摘した。

 その上で池田氏は、ヨーロッパで普及しているドイツ製、オーストリア製の排ガス濃度連続監視システムの有効性と、廃棄物処理の取組みなどについて説明した。

写真:ごみの焼却と環境保全などを考えたシンポジウム(講演風景)




ダイオキシン濃度監視を室蘭で市民団体がシンポ 
    北海道新聞 2003年5月25日朝刊
  
http://eritokyo.jp/independent/dioxin/pine/hokkaido10.html  ⇒表題と中身

 ダイオキシンの有害性などを考えるシンポジウム「考えよう!ごみの焼却と環境の保全」が24日、室蘭市白鳥台会館で開かれた。西いぶり廃棄物処理広域連合のごみ処理施設(同市石川町)にダイオキシン濃度の常時測定設置を求めている市民グループなどが主催した。

 市民約100人が参加した。ダイオキシンに詳しい環境総合研究所の池田こみち副所長が「発がん性物質とも言われるダイオキシンの9割は、ごみなどの焼却から出ている」と指摘。ダイオキシン濃度などを常時監視する重要性を訴え、出席者との間で質疑応答もあった。同ごみ処理施設への測定器設置をめぐっては、同広域連合と住民らが協議会を設け、検討することになっている。

写真:ダイオキシンの有害性などを話し合ったシンポジウム 


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