環境総合研究所自主研究情報

川崎南部地区道路大気拡散シミュレーション調査報告
−概要−

平成8年1月

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 環境総合研究所(東京都品川区)は、神奈川県川崎市南部地区(川崎区・幸区)における幹線道路からの自動車排ガス汚染濃度分布の実態を詳細に把握するための、シミュレーション調査を行いました。

 調査報告書は川崎公害裁判において東京高裁に証拠として提出され、青山貞一 環境総合研究所所長が、平成8年2月に主尋問(原告側からの証人尋問)、平成8年4月に反対尋問(被告側からの証人尋問)で川崎南部地域における自動車排ガス汚染の実態・問題点等について第三者の専門家としての立場から証言しています。
 その後、平成10年8月に横浜地裁川崎支部における原告勝訴の判決を経て、平成11年5月20日に東京高裁において控訴審(1〜4次訴訟)が提訴以来17年ぶりに和解が成立しました。

 以下に調査報告書の概要を示します。


1.川崎南部地域における大気汚染の実態

 本調査では、川崎市川崎区並びに幸区を対象として、主として道路上を走行する自動車からの大気汚染(窒素酸化物及び浮遊粒子状物質)を扱う。
 首都圏、とりわけ東京都、神奈川県、千葉県などの東京湾岸地域では、戦後の高度成長のもとで工場、事業所などから排出される大気汚染とともに、幹線道路上を走行する物流トラックなど自動車からの排ガスによって二酸化窒素(NO)、浮遊粒子状物質(SPM)など、住民の健康に影響を及ぼす大気汚染濃度が高まり、現在に至るまで多くの大気測定局において環境基準を超過するなど、大幅な改善の兆しが見えない状況にある。
 図1−1は、本調査の対象地域における過去の二酸化窒素大気汚染の濃度推移を示したものである。

図1−1 対象地域の二酸化窒素大気汚染濃度の推移(年平均地)


2.調査の概要

2−1 対象地域

 川崎区、幸区の区境から東西・南北方向に各1kmの地点を含む長方形の範囲(図2−1)。
 面的汚染のシミュレーションでは、上記対象地域を、表2−1に示す50mの格子(メッシュ)で区切り、その格子点の濃度を予測する。

表2−1 面的汚染の予測範囲および精度
方向 メッシュ間隔 × メッシュ数 = 予測範囲距離
東西方向 50m × 244メッシュ= 12.2km
南北方向 50m × 171メッシュ= 8.55km


2−2 対象道路

 川崎区、幸区内の被告道路、関連道路(表2−2)及び各道路とも区境から1kmまでの範囲(図2−1)とする。

表2−2 対象道路
番号 道路種別 道路名
被告道路
1 2 高速横浜羽田空港線(横羽線)
2 3 国道1号
3 3 国道15号
4 3 国道132号
5 3 国道409号 註)
関連道路
6 4 県道東京大師横浜線(産業道路)
7 6 県道扇町川崎停車場線
8 市道皐橋水江町線
9 市道池田浅田線
10 市道南幸町渡田線
11 4 県道川崎府中線
12 市道富士見鶴見駅線
13 6 県道川崎町田線
14 6 県道鶴見溝の口線
15 5 市道幸・多摩線
16 幸町通線
17 矢向町本通
18 南加瀬中央通
19 市道古市場矢上線
20 6 県道大田神奈川線
註)元県道であったが昭和61年3月に国道に指定されており、ここではすべて「国道409号線」として扱う

図2−1 調査対象範囲

2−3 対象年次

1) 昭和40年度、
2) 昭和49年度、
3) 昭和52年度、
4) 昭和60年度、


2−4 対象汚染物質

1) 窒素酸化物 大気汚染:NO
2) 二酸化窒素 大気汚染:NO
3) 浮遊粒子状物質:SPM


2−5 評価内容

1)NOの年平均濃度(対象道路からの寄与濃度)
2)NOの年平均濃度(対象道路からの寄与濃度、及び、全ての煙源からの重合濃度)
3)SPMの年平均濃度(対象道路からの寄与濃度)


2−6 濃度計算対象位置

  1. 面的汚染
     複数の対象道路から排出される汚染物質の対象地域における累積的な寄与濃度を推定するためのシミュレーション手法
  2. 沿道濃度勾配
     直近対象道路の沿道11地点の道路端から、垂直方向断面への距離毎の濃度の変化を推定するためのシミュレーション手法
  3. 沿道濃度別出現日数
     直近対象道路の沿道11地点の道路端から一定の距離の位置において、1年間に出現する日平均濃度の濃度分級別の出現頻度


2−7 気象測定局

 対象地域内及びその周辺の一般環境大気測定所(一般局と略)、自動車排ガス測定所(自排局と略)の概要を表2−3に示す。

表2−3 気象代表局及び気象ブロック区分
種別 測定所名 大気汚染 風向・風速 備考
設置位置 測定高 測定高
一般環境大気測定所 大師 大師保健所2階屋上 12.6m 16.4m
田島 田島保健所4階 15.7m 16.5m 昭和44年4月設置
川崎 公害監視センター5階 19.6m 28.1m 昭和47年より現在位置
幸保健所2階屋上 12.1m 14.2m
中原 中原保健所3階屋上 16.3m 26.9m
測定所自動車排ガス 池上 池上新田公園前 1.8m
新川通 川崎警察署敷地内 1.8m
市役所前 川崎市役所敷地内 1.2m
遠藤町 御幸小学校敷地内 1.7m


3.大気汚染シミュレーション結果(NOx)

  図3−1に本調査の計算結果より、一般局における被告道路および関連道路からのNOx、NO年平均寄与濃度の計算結果を示す。昭和49年度における被告・関連道路の寄与率は49〜65%、昭和52年度における寄与率は44〜52%と高く、昭和60年度では28〜45%に下がっていることが分かる。

図3−1 測定局における実測濃度(青グラフ)および被告・関連道路の寄与濃度(赤グラフ)


  図3−2〜5に本調査のNOx寄与濃度の年平均値の面的分布を示す。
 対象地域の幹線道路沿道の広い範囲において自動車からの寄与のみで高濃度となっていたことが分かった。

図3−2 昭和40年度 NOx寄与濃度年平均値

図3−3 昭和49年度 NOx寄与濃度年平均値

図3−4 昭和52年度 NOx寄与濃度年平均値

図3−5 昭和60年度 NOx寄与濃度年平均値


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