2002年9月3日初出、9月15日追記
沖縄県宮古島の産廃問題
〜問われる県の監督責任

青山貞一 
環境総合研究所長

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 沖縄県宮古島では、産廃業者が美しい自然をもった海岸線と農地の隣接地で永年産廃の実質的にみて野焼きを行ってきた。2001年11月、産廃埋立処分場で火事が起lきた。産廃業者は感染性医療廃棄物を含む産廃を焼却するとともに、同じ敷地にある安定型処分場に焼却灰を他の産廃と一緒に処分してきた。業者は処分場を延命させるため、さまざまな種類の廃棄物を埋めては焼やし、ブルドーザーで押さえつけた。そして新たな廃棄物を投入する、ということを繰り返した。その結果、完全に鎮火しない産廃が処分場内でくすぶり続け、ついに発火したものと推察されている。後に沖縄県平良市が設置した調査委員会委員が地元住民に聞き取り調査を行ったところ、同産廃業者は、恒常的に野焼きを繰り返していたという。

図中、部分が産廃関連施設がある位置。

 制定当初から不適切な法律で改正につぐ改正を繰り返してきたのが国の「廃棄物処理法」である。その法ですら、何ら遮水工、排水処理施設を持たず産廃を野積の状態で処分する「安定型処分場」には、通常安定五品目と呼ばれるゴミしか処分できない。もちろん安定型五品目のなかには焼却灰は含まれない。有機物も含れない。含まれてはいけないことになっている。

宮古島(平良市)の産廃焼却炉・処分場

 だが、産廃業者は焼却処理後の灰を明らかに処分しつづけた。その結果、焼却灰に含まれるダイオキシン類(PCDD,PCDF,Co−PCB)やその他の有害化学物質が地下に浸透し、帯水層に到達していることが危惧される。その一部が浸出水となって周辺地域、とくに海浜を汚染している可能性が高い。また当然のこととして産廃の野焼き状態の排ガスは、隣地で作業する農民を直撃するとともに、近くの集落まで移流、拡散していた可能性が高い。排ガスは最終的に土壌に沈降し地域の環境を汚染し続けていたと推察される。

 最も甚大な被害を受けたと想定される平良市大浦地区の住民は、再三にわたり沖縄県に業者の敷地内の調査を早急に実施することを要望してきた。同時に原因の究明と汚染の拡散防止を訴えてきた。しかし、沖縄県は未だに十分な調査は行われているとは言い難い。地元の基礎自治体である平良市や市議会も、産廃処理処分、産廃業者、産廃処理施設の許認可を所管する沖縄県に再三実態解明や有害化学物質の調査を申し入れた。にもかかわらず、沖縄県は火災後5ヶ月たった2002年4月にダイオキシン類調査などを行ったにすぎない。

平良市調査委員会の委員による現地環境視察
 平良市長は、市長の私的諮問委員会として首都圏から実務に通じた専門家4名(関口鉄男委員長、池田こみち委員、松崎治委員、依田彦三郎委員)及び地元自治会長である下地博和委員からなる暫定的な実態解明のための委員会を設置した。そして2002年3月から同委員会は実態解明に乗り出した。委員は毎月1,2回のペースで現地入りし、一方で産廃処理処分場周辺で土壌、浸出水、海水、井戸水などを採取、それらに含まれる化学物質分析を行った。同時に農地で働く住民や集落の住民相手に疫学調査の一環として自覚症状調査を大浦地区の全住民に実施、さらに周辺の部落についてもアンケート調査及びヒアリング調査を行った。

 その結果、産廃処理処分場周辺に浸出しているたまり水や大気が相当汚染されていることが分った。とくに猛毒ダイオキシンが浸出水だけでなく海水を汚染していることも分かってきた。すでに火事は沈下し焼却炉は停止していた。しかし、たとえば過去の汚染蓄積が分かる「松葉」を用いた大気中ダイオキシン調査では、非常に高濃度のダイオキシン類が処理処分場の周辺で確認されている。上記の浸出水、海水、大気中のダイオキシン類濃度をみると、大気環境濃度に換算した結果はいずれも緩い国の環境基準を上回わるものと推察、評価された。

平良市における第六回委員会終了後の
記者会見の模様。宮古毎日より

関口鉄男委員長による処分場脇のたまり水の採取

 委員による産廃焼却場周辺における松の針葉採取。

 委員らの目視調査でも、海浜に処理処分場から汚水が流出し続けていることがわかった。その海浜は、他の海浜と比べ明らかに生息する生物種が少なくなっていた。生物多様性が損なわれている。生態系への影響が及んでいることが分かった。ダイオキシン類以外の重金属類など他の有害化学物質も浸出水からも検出されている。

 上記の調査は2002年3月から現地入りしたアドホックグループが市長の命を受け、緊急調査として実施したものである。5月から6月にも海辺の生物調査や、施設の敷地で住民が採取した却灰中のダイオキシン類などの分析調査を矢継ぎ早に実施している。

 にもかかわらず沖縄県の対応は遅く、4月になってやっと現地調査を実施し、6月27日に結果を発表した。発表された内容は、どういうわけか敷地内のコンクリート塊に含まれるダイオキシン類の濃度と、高濃度の排ガス中ダイオキシン濃度が検出されたために、2月以降稼働停止になっている同産廃処分場周辺の一般環境大気中の揮発性物質や悪臭物質などの汚染物質(ダイオキシン類は含まない)である。結果は、当然のように極めて低い濃度であり、いずれも基準値以下というものであった。

 なぜ、沖縄県がよりによってコンクリート塊のダイオキシン類や焼却停止後の大気汚染物質の測定結果、それも「検出されず」などという発表をしたかが問われる。本来、産廃は沖縄県の所管である。にもかかわらず、沖縄県は4月にサンプリングした試料のうち、当初、コンクリート塊と焼却停止から数ヶ月後に採取した周辺の一般環境大気中の汚染物質についてのみ6月27日に公表し、極めて低い濃度で問題ないとコメントした。しかも汚染物質の蓄積が問題となる土壌、底質、浸出水などは7月中旬に発表すると言ったがなぜ7月中旬なのかの説明もなかった。

 もとより産廃の処理処分は市町村の所管ではない。やむにやまれず調査に乗り出した平良市の現職市長は、もともと医者だそうだ。

 沖縄県の島々は、いずれも珊瑚礁など豊かな自然環境が最大の観光資源であり環境資源である。それを平気で乱開発で破壊するにとどまらず産廃の実質違法処理処分によって生物相まで壊滅させる行為に県はまともに対応していない。

 沖縄県は、県議会での野党議員からの指摘に対して、「5年間で74回の指導を行い、指導は適切であった」と主張している。だが、それだけの指導をしながらなぜこのような最悪の事故、汚染を引き起こしたかが問われる。そこでは沖縄県の指導の甘さ、不適切さの責任を問われても仕方がない。それが適切であったとするならば、沖縄県の指導でよしとする「廃棄物処理法」そのものにも問題がある。産廃行政は現在環境省に移管されているが、その環境省も今回の事故の推移を真摯に受け止め、改正すべき点を早急に明らかにしていくべきである。

 今回の事故について、ゴミ弁連会長の梶山正三弁護士
は、このような事態が引き起こされたのは、「産廃業者と許認可権者・監督責任者である沖縄県の共同不法行為によるものであり、即座に告発すべきである」と指摘している。このようなことが放置され何ら責任が問われないようであれば、住民は何を信頼すればよいのだろうか。どうしたら住民は安心し暮らせるのであろうか。この国の事業者から市町村・県・国にいたる相互癒着構造こそ、早急に改めなければならないだろう。

     ※ ゴミ弁連:廃棄物の処理処分などに係わる係争、紛争に市民団体,NGOとともに
        かかわる約100名の弁護士により設立された任意団体。梶山正三氏はその会長。
        もともと東京都環境科学研究所の研究者。東京工業大学大学院卒、理学博士。