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諌早湾閉め切り開放に伴う
潮流の予測・評価に関する自主調査研究
(中間報告:フェーズ1:前提条件)

青山 貞一 環境総合研究所所長
池田こみち 同副所長
鷹取 敦 同主任研究員
since 2001.1

本研究論文の転載を禁じます。

1.調査の目的

 本自主調査の目的は、農林水産省が計画及び事業主体となり、九州農政局諌早干拓事務所が
工事を行っている国営諌早湾干拓事業の実施に伴って閉め切られた諌早湾潮受堤防を部分的に
開放した場合の諌早湾及び有明海等における潮流変化(流速、流況、潮位など)をコンピュータ・
シミュレーション手法を用いて定量的に予測、解析、評価することにある。

2.調査の方法

2−1 調査の対象

(1)対象海域

 有明海全域、諌早湾全域、島原湾全域、八代海の北部海域、橘湾の北部海域。
 なお、具体的な対象海域については、図2−1を参照のこと。

(2)対象河川

 表2−1に有明海、諌早湾、島原湾、八代海に流れ込む主要河川及び平均流量を示す。
表2−1 有明海・島原湾・八代海に流入する河川の河口における年平均の河川流量
代表河川名 河川年平均流量
[m3/秒]
流入海域
潮受堤防内側 山田川 5.9 諌早湾
本明川 5.6
深海川 3.0
境川 2.3
多良川 4.1 有明海
鹿島川 4.8
塩田川 6.7
六角川 17.8
嘉瀬川 31.8
筑後川 156.2
矢部川 31.9
大牟田川 6.1
有家川 9.5 島原湾
大手川 9.8
菜切川 6.3
菊池川 48.5
坪井川 11.5
白川 27.8
緑川 60.3
網田川 3.4
広瀬川 9.6
球磨川 142.0 八代海
出典:文献(1)ただし球磨川は文献(2)

図2−1 対象範囲図(諫早湾干拓閉切後)

注)河川は主要な河川(年間平均流量10m3/秒以上)の海域への流入位置を示している

(3)海洋地形

 海洋地形については、図2−2及び図2−3に平面及び立体図を、また図2−4に主要断面図を示す。

図2−2 海洋地形図(平面)

資料:文献(1)の海底地形図等を参照し環境総合研究所が作成

図2−3 海洋地形図(立体図)

資料:文献(1)の海底地形図等を参照し環境総合研究所が作成

図2−4 海洋地形図(主要断面図)

資料:文献(1)の海底地形図等を参照し環境総合研究所が作成


2−2 シミュレーションモデル

(1)シミュレーション内容

@潮汐流(潮流)
A密度流(河川等からの淡水の流れ)
B吹送流(風による流れ)

(2)流体モデル(数値モデル)の構造

 差分モデル:運動方程式を差分法をもちいて数値近似解を求めるモデル。
 差分法については文献(3)を参照のこと。

(3)格子規模

 潮流(流速、流況)の最小単位(計算結果の格納庫)を格子あるいはメッシュと言う。
 本調査では格子の規模を、250m×250m×水深としている。
 実際の格子モデル(広域及び諌早湾)については、図2−6及び図2−7を参照のこと。
表2−2に示すように、農水省が平成3年の環境影響評価報告書(文献(1))で行った
潮流等のシミュレーションにおける格子の規模は1000m(1km)であり、本自主調査
研究の方が16倍精緻となっている。
表2−2  格子の規模比較
農水省のシミュレーション 1000m×1000m 文献(1)
本自主調査研究のシミュレーション 250m×250m

(4)気象データ


 図2−5は本調査で考慮した有明海の広域的風配モデル(図)である。

図2−5 大牟田市 1998年度(1998年4月〜1999年3月)の風配図


出典:文献(4)

図2−6 格子モデル(広域)

図2−7 格子モデル(諌早湾潮受け堤防工事前:上図、閉切後:下図)

2−3 シミュレーションモデルのための各種前提条件・パラメータ一覧

 表2−3にシミュレーションモデルのための各種前提条件及びパラメータ一覧を示す。
 なお、これらの値は、シミュレーションのケースにより部分的に変更することがある。
表2−3 シミュレーションの前提条件・パラメータ設定一覧
変数名 内容 単位 備考・出典
IM_S X方向のメッシュ数 211 計算範囲を250mメッシュに分割
JM_S Y方向のメッシュ数 337 計算範囲を250mメッシュに分割
KM_S Z方向のメッシュ数 1 1層
DX メッシュグリッド間水平距離 25000. cm 計算範囲を250mメッシュに分割
EH 水平粘性係数 500000. cu/sec 文献(1)
EV0 鉛直粘性係数 0.1 cu/sec
CORIOL コリオリ係数 7.9E-5 1/sec 文献(1)
(有明海平均北緯32°50'より
GRAVT 重力定数 980. cm/sec 一定
ALP 中央差分(0.5)後方差分(1)
0.5〜1.0
0.52
OMEGA 緩和法係数 1.8
BTMSTR 海底摩擦係数 0.004 現況再現の結果より
DTMAX タイムステップ最大値 20. sec
DTMIN タイムステップ最小値 10. sec
TidalRange 潮汐レンジ 53.(小潮)
104.(中潮)
139.(大潮)
cm 文献(1)
(富岡の小潮差106cm、中潮差208cm、
大潮差278cm)
Expans 熱膨張係数 0.0002
HK 水平拡散係数 50000. cu/sec 文献(1)
VK0 鉛直拡散係数 0.1
WindX 風向風速X成分 0. cm/sec 海上における風速を北風10m/s
WindY 風向風速Y成分 -1000. cm/sec


2−4 シミュレーションの評価時間

 潮流計算結果の出力は、原則として1時間単位で行うが、潮流(流速、流況等)の評価は、
表2−4に示す評価のケースについて行うものとする。
表2−4 評価のケース
満潮時 干潮時
大 潮
中 潮
小 潮

<解説> 本自主調査研究における満潮時、干潮時は以下を意味するものとする。

(1)満潮時:  シミュレーションにおいて潮位(表2−3で潮汐レジ(Tidal Range)) を与える
早崎瀬戸と天草灘の間の潮位が最高の時間。
(2)干潮時: シミュレーションにおいて潮位(表2−3で潮汐レジ(Tidal Range)) を与える
早崎瀬戸と天草灘の間の潮位が最低の時間。


3.参考文献

(1) 諌早湾干拓事業計画(一部変更)に係る環境影響評価書(案)、平成3年8月、九州農政局
(2) 建設省河川局河川計画課「流量年表」(平成9年)
(3) 杉ノ原信夫、大西行雄、「数値研究−その手法−」、昭和52年度文部省科学研究費補助金
による特定研究、海洋環境保全の基礎的研究(中間報告書U)
(4) 大牟田市一般環境測定局気象観測データ(1999年度)
(5) 第16回諫早湾干拓地域環境調査委員会資料、平成12年8月8日、長崎県県民生活環境部環境保全課
■お問い合わせ先■
株式会社 環境総合研究所
連絡先メールアドレス: office@eritokyo.jp
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