月刊ファイブナイン誌 2002年10月号

もはや先送りは許されない環境問題

           青山貞一
              
 
 先月下旬、南アフリカ共和国のヨハネスブルグで国連環境開発会議、通称地球サミットが開催された。日本からは小泉首相、外務大臣、環境大臣はじめNGO、報道陣を含め1000名近くが参加した。

 地球サミットでは、地球温暖化防止が大きなテーマとして議論された。と言うのも世界各国が排出する炭酸ガスなどの温室効果で地球全体の平均気温がどんどん上昇しており、このまま行くと今世紀後半には、地球規模での異常気象、農作物の収穫異変、海面上昇などが進むことになる。これはもやはあまり議論の余地のない、すなわち科学的根拠を持った話となっている。

 実際、キリバスなどは国土の数10%が満潮時に海面下に入っていることが報道されている。しかし、地球サミットのような国家間の交渉となると、自分の国だけは何とか規制を逃れようと言うことになる。

 そのさえたる国が米国だ。ブッシュ大統領は、エネルギー産業の支援を受けて当選した経緯もあり、地球サミットには参加しなかった。そのブッシュ大統領は、戦争には偉く熱心である。アフガン戦争に次ぎ、イラクに踏み込もうとしているが、これはどうみても「正義の戦い」などではなく、中東の石油などのエネルギー利権をねらっていると推察できる。

 ところで地球サミットと同じ時期に、私はスペインのバルセロナで開催された国際ダイオキシン会議に1週間参加していた。昨年は9月上旬に韓国の慶州で開催されたが、その最中に同時多発テロが起きた。その直後に書いたコラムが坂本龍一編の「非戦」と言う本に収録され、大きな話題を呼んだ。それは同時多発テロの背景にある米国のエネルギー利権に触れたからだ。

 バルセロナの会議では、同時多発テロで倒壊、炎上したニューヨークのワールドトレードセンター(WTC)周辺の空気に含まれるダイオキシンの分析結果が米国環境保護庁の知人が発表していた。またEUからは農作物中のダイオキシンの規制値が発表された。

 WTC周辺のダイオキシンは、日本の環境基準の250倍以上である。ところが米国の環境保護長官は、直ちに人体に影響のある値ではないとホームページで述べている。どこかで聞いた言葉だなと、思う方も多いだろう。そうである。日本の農水省、環境省などの役所がよく使う言葉だ。「直ちに影響がない」、と。

 確かに現在私たちが直面している地球温暖化問題やダイオキシン、農薬などの化学物質問題は、戦争にように直ちに死に直面するものではなく、じわじわ忍び寄り、気づいたときには人類全体や地球規模の取り返しがつかない問題となるところに大きな特徴がある。

 そして、その場限りの対策や問題の先送りを続けていると国でも組織でも、必ず壊滅的な影響が出ることを私たちは今こそ肝に銘ずべきだ。ここ数年、いやここ数ヶ月、外務省、農水省、大銀行、大企業、商社、東電と枚挙にいとまがない。そういえば小さな話かも知れないがJARL問題もこれは当てはまるかも知れない。