月刊ファイブナイン誌 2006年8月号

JARLはどこを向いているのか?

           青山貞一
             武蔵工業大学教授
 

 PLC問題についてJARLは自らのホームページの中で、「2005年1月に発足した総務省の研究会においてJARLは国立天文台、日経ラジオ社と共に一貫して、PLCに対し漏洩電界強度値をITU-Rの規定する「Quiet
Rural」以下に保つよう主張し続けてきました。

 その結果、研究会において大きな隔たりがあった推進派の主張との間で、CISPR22(コンピューター等情報機器に関するCISPR規定)を準用し、メーカー側には厳しく、短波利用者にはやや厳しいが、離隔距離等を考慮すれば許容し得るレベルの座長案を引き出すことに成功しました」とあり、さらに「PLCの導入を完全に否定することは一部関係機関の立場から自ずと限度のあることを知り、ただ単に反対するのではなく、可能な限り我々の有利な立場で許容値を決めねばならない立場にあることを認識し、この座長案で一応パブリックコメントに掛けることを認めました」と述べている。

 本誌読者であれば、上記座長案がいかに不十分であるかが分かると思われる。本来、影響、被害を受ける側であるアマチュア無線の利害を代表すべきJARLは、初めから何ら戦うことも無いまま「ただ単に反対するのではなく、可能な限り我々の有利な立場で許容値を決めねばならない立場にあることを認識し」て座長案を容認してしまったのである。

 事の始めからおよび腰そして腰が引けていたJARLだが、これにはびっくりである。到底,被害を受ける側である側の見解とは思えない。

 相手の土俵に乗り、早々に折衷的なスタンスとなり、戦う前から事業者側にすり寄っていると言われても仕方がない。

 しかも、「研究会案を審議する過程で、住宅地の木造住宅では実測値が15MHz以上で、さらに10dB背景雑音の値を上回ることから、これを10dB下げることを決定して、今回の報告書が作成されました」としているが、そもそも自らろくに実験など物理的な検証もせず、研究会における数値を鵜呑み的に引用している。

 そして最後は何と「アマチュアにとって今回の答申は、普通の住宅地において受信アンテナの位置やアンテナ高を屋内PLC回線よりある程度離せば、殆どPLCの影響が回避できる程度の漏洩電界強度となりますので、以上のような効果も勘案することによって今後の様子を見守りたいと考えています」と述べていることだ。

 ここまで来るとJARLは御用学者以下ではないかと思える。全国的規模で最も影響を受ける可能性が高い、アマチュア無線、とくに超長距離交信を行う私たちにとって、これがJARLの総合的な見解であることに情けなくなる。今更ながらJARLは一体どこに顔を向けているのか理解できない。

 JA7エリアでDXサーが署名を集め管内の総合通信局に陳情をしようという活動があったが、JARLの地元理事に協力を求めたところ、「JARLとしてはPLC問題については正面から取り組んでいる。それにバイバスで別活動するのは如何なものか」と言う趣旨のことを言われ断られたそうだ(JA7AO談)。一体どういうことなのか。

 要約すれば、隣家でPLCをやられたら微かに入ってくるDXのシグナルが聞こえなくなる可能性は十分ある。それを考えたら軽々に上記のような妥協などできないはずだ。猛省を促したい。