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ツキノワグマが危ない@

池田こみち

掲載日:2007年4月2日


無断転載禁


 環境省は先頃、今年の春は冬眠から目覚めて出てくるクマを安易に捕殺しないようにとの通達を各県に出した。

 その背景には、18年度のクマ(ツキノワグマとヒグマ)の捕獲数が19年2月末現在で5,175頭、うち捕殺数は4,671頭と17年度の4倍以上に達していることがある。


ツキノワグマ source:wikipedia


ツキノワグマ生息域 source:wikipedia

 捕獲したクマの90%以上(ツキノワグマが4,335頭で93%、ヒグマが336頭で7%)が捕殺されているのである。ちなみに、17年度の捕殺数は1,101頭、16年度は2,326頭となっている。
出典:平成18年度におけるクマ類の捕獲数について(2月末速報値)環境省

 一方、最新の情報では、クマ類による人身被害件数:144件、人身被害人数:150名と報告されている。

 ツキノワグマは広く東南アジアに生息しており、日本では本州、四国の冷温帯落葉広葉樹林を中心に生息している。九州ではすでに絶滅し、四国でもここ数年まったく目撃・捕獲実績はなく、絶滅したのではないかと危惧されている。

 いったい、日本に生息しているツキノワグマは何頭ほどなのだろうか。調べてみると、どうやら、1991年に環境庁が外郭団体(日本野生生物研究センター、現在は(財)自然環境研究センターに名称を変更)に委託して調査した、8,400頭〜最大12,600頭という数字が調査データとしては最新のようである。

 仮に、丸めて最低8,500頭とした場合、18年度だけでその約半数、最大15,000頭としても約1/3が捕殺された計算となる。これは異常な数字ではないだろうか。

 先日、熊の胆汁を搾るために、中国全土で7,000頭以上ものクマ(主にツキノワグマ)がクマ牧場という劣悪な環境のもとで虐待に近い状態で飼育さている問題を紹介したが(池田こみち:中国熊救出プロジェクト)、日本でもタイプは異なるが、ツキノワグマが大変なことになっていることに改めて注目する必要があるようだ。

 平成18年12月18日、読売新聞がクマの捕殺数が非常に多くなっているというニュースを掲載したことを受け、同日、環境省の事務次官(田村義雄氏)会見でクマに関する質疑が行われた。

 その中で「殺処分が多いことについてどう考えるか」「環境省としてできることは何か」という質問に対して、事務次官は次のように答えている。

−−田村事務次官の回答から関連部分の抜粋( )内は筆者による加筆

 クマによる人心被害及び捕獲数については、明日、環境省としての数字を発 表する予定です。読売新聞の記事は、読売新聞の独自調査で数字が出ていまし た。環境省も各都道府県からきちんとした数字をとっていますので、明日発表 する予定です。

 環境省としても、例えば、里地里山のあり方などを含め広い角度から考えて いかなければならないという問題意識をもっています。先日、暫定版のクマ出 没対応マニュアルを作成しましたが、年度内には完成させクマ類の保護、管理 につなげていきたいと思っています。(中略)

 (殺処分するかどうかは、)それぞれの地域で判断してやっているとは思いま す。生息数は多くても1万5千頭ぐらいと推測されており、それに対して出没 している数があまりにも多いので、資源保護という観点・問題意識は当然もっ ています。(けれど)一方で被害の側面もあります。その両方をきちんとして いくことを考えていかなければいけないと思っています。

  (保護と被害対策の)両面でどういうことを考えていけばよいのか、クマの 適切な保護・管理について専門家会合の意見も聞きながら幅広い観点からマニュアルのとりまとめについて進め、年度内には作成したいと思います。(引用終)

 実際、翌日の12月19日クマ類の捕獲数及びクマ類による人身被害について(平成18年11月末現在)が公表されたが、情報提供は遅いし、あまりにも対応が遅すぎる、そして的が外れていると感じるのは私だけだろうか。今、国がやるべきことはクマ出没への対応マニュアル整備なのだろうか。果たして、年度末3月30日に今更のように完成した国版マニュアルが公表された。1年で5,000頭も殺処分を認めておいて、今更、「クマが山から下りてくる」もないものだ。あきれかえってものが言えない。

報道発表資料:平成19年3月30日「クマ類出没対応マニュアル−クマが山から下りてくる−」について 

 肝心なことに目をつぶってはいけない。見直すべきは現行の「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」そのものである。環境省は現在、同法の施行規則の見直し(狩猟制限の見直しなど)についてパブコメを実施中である。そこには、クマについて、次のような改正案が盛り込まれている。

 Bツキノワグマについての捕獲等の禁止
 ・禁止する区域は三重県、奈良県、和歌山県、島根県、広島県、山口県、四国4県と九州7県。
 ・禁止期間は現行が平成15年4月16日から5年間

 上記について、禁止区域は現行の通りとし、禁止期間を平成19年9月15日から24年9月14日まで、5年間延長する、というものである。

 しかし、18年度には、現行法で禁止されている地域であるにもかかわらず、島根県で28頭、広島県で147頭、山口県で4頭、合計179頭が捕殺されている。その他の地域については先にも指摘したように、九州・四国では捕獲しようにもすでに絶滅しているに等しい状況なのである。一体、この法律はどうなっているのだろうか。

つづく