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八ッ場D
ピントはずれの現場中継


池田こみち
 
2008年11月11日 無断転載禁


 2008年11月も半ばにさしかかり、東京もようやく晩秋の冷え込みを感じる季節となった。とはいえ、都会の紅葉はまだまだ青い。

 今朝、何気なくテレビを見ていたら、テレビ朝日のワイドショウ、スーパーモーニングで八ッ場ダムの工事が進む、吾妻渓谷と川原湯温泉からの中継が始まった。

 どれどれ、と番組を見ていると、どうも見頃を迎えた吾妻渓谷の紅葉の紹介のようでもある。レポーターが渓谷を歩きながら観光客に、「ここもダムに水没するんですよ。どう思いますか」などと声を掛けると、「もったいないですね。」などとステレオタイプの答えを返して去っていく、というなんの変哲もない場面が続いた。


吾妻渓谷の鹿飛橋にて
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S10  2008.11.1

 その後、レポーターはダムに沈む川原湯温泉街を訪ね、当地で三代続く旅館の主人にインタビュー。工期が2015年まで伸びたことについての感想を求めた。「ほんとうに怒りを覚えます。早く落ち着いた生活ができるようになんとかしてほしい。」と三代目の若いご主人は訴えた。

 初代、祖父の時代(昭和20年代)にダム開発の話が持ち上がり、二代目父の時代には大きな反対運動が巻き起こった。


吾妻渓谷内の砂防ダムの前にて。この種の砂防ダムですでに
渓谷の自然は壊されている!
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S10  2008.11.1

 だが、50年余の時間が流れ、今は、一旦旅館業を見切って他の道に進もうと地元を離れた三代目の時代に入り、地元がやっとの思い出ダムを受け入れる決断をして、地元に戻り川原湯で旅館業を続けているという。愛着があるからに他ならない。長い間公共事業に翻弄され続けた川原湯の人々のやり場のない怒りと不安がこみ上げていた。

 番組では、事業者側の声として、現場の工事事務所長へのインタビューも行っていた。所長曰く、「川原湯の住民のみなさんの怒りはごもっともでこちらにぶつけてもらうしかない。工期は絶対に守ってもらうようにやってもらう。」、とまだほとんど手を付けていないダム本体工事の予定通りの完成をしきりに強調していたのが印象的だった。

 ともあれ、番組としてはきわめて中途半端。さんざん進められている国道145号や吾妻線の掛け替え工事の状況も紹介されていなかったし、スタジオのコメンテータの発言も今ひとつピントがはずれていた。


吾妻渓谷で進む八ツ場ダム関連工事(長野原町)
番組ではこれらの工事現場はまったく写されていなかった
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S10  2008.11.1

YOU TUBE映像

八ツ場ダム工事現場にて  2008年9月
撮影:青山貞一、Victor Digital Hi-Visonカメラ GR-HD1

 工期が遅れたことによる地元住民への生活補償は当然だが、ダムという公共事業がかかえる本質的な問題を少しでも視聴者に伝える努力が必要だろう。映像を重視するテレビメディアとしては、なんと言っても、紅葉の美しい吾妻渓谷に異様な光景としか写らない鉄とコンクリートの構造物こそ、まず見せるべきものである。

 八ッ場ダム問題については、ニュースで扱われる程度で、まだ本質的な問題点を指摘する番組がないように思う。この際、国土交通省に遠慮することなく是非とも「止められない公共事業の本質はどこにあるのか」するどいドキュメンタリー番組を期待したいものだ。