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日本の全原発が止まる日に考える
池田こみち
環境行政改革フォーラム副代表
環境総合研究所顧問

掲載月日:2012年5月5日
 独立系メディア E−wave


 2012年5月5日のこどもの日に稼働中の泊原発3号機がいよいよ定期点検のため停止する。これで日本中の原発がすべて停止した状態となる記念すべき日となるか。全国の反原発市民団体は、「今年のこどもの日は、子どもたちに原発のない未来をプレゼントする特別の日」、と位置づけ運動を強化している。
原子炉形式 運転開始 定格出力 現況
1号機 加圧水型軽水炉(PWR) 1989年6月22日 57.9万kW 定期点検中
2号機 加圧水型軽水炉(PWR) 1991年4月12日 57.9万kW 定期点検中
3号機 加圧水型軽水炉(PWR) 2009年12月22日 91.2万kW 通常運転中(2012年5月5日
(土)定期点検 開始)
表 北電泊原子力発電所の諸元 出典:Wikipedia

 私たち大人は、地震列島活断層だらけの狭い国土に54基もの原発を唯々諾々と建設させてきた責任を深く反省し、これ以上、現在そして、未来の子どもたちに不幸の元を押しつけることがないように、原発の無い社会を実現すべく全力で取り組む責任がある。

 泊3号機は3.11の福島第一原発事故の後、2011年8月に営業運転を再開していた。電力会社の本社がある都道府県に所在する原子力発電所は当発電所と東北電力の女川原子力発電所のみである。そして、北海道内唯一の原発である泊原発の運転継続には北海道知事の意向が強く反映されているという。
◆泊原発の立地位置
 北海道・積丹半島の西側に広がる岩宇地域(注:共和町および岩内町が「岩内郡」、泊村および神恵内村が「古宇郡」であることに由来)。日本海特有の峻厳な景観と、ニセコ山系まで連なる田園風景が共存する魅力溢れるエリアです。四季折々の鮮やかなコントラストに加え、山海の幸を使った特産品や特色のある観光スポットも訪れる人を魅了しています。(北電広報Webサイトより)

泊原発の位置


北海道電力泊原発 出典:Wikipedia


北海道泊原子力発電所 出典:グーグルマップ

 2012年4月29日、災害瓦礫の広域処理問題について講演を依頼され苫小牧市を訪れた折、筆者の後の第二部でPPSについて講演をされた布施哲也氏とお話しする機会を得た。

 話題は泊原発の停止にも及び、泊村財政が原発三基に係る電源三法の交付金と北電からの固定資産税に大きく依存しているため、原発の完全停止は村の存続を左右する問題にまで発展するとの見通しを話された。

 布施氏の近著「福島原発の町と村」(2011年12月七つ森書館発行、1600円+税)は、原発を誘致した福島県浜通りの町や村を取材して、麻薬のように原発に依存していく町や村の実態をするどく描き出している。

 その中から、泊原発に関連する部分を紹介してみたい。

■布施哲也著 「福島原発の町と村」
http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1106108816

 筆者は、瓦礫問題の講演の中で、高橋はるみ知事が放射性物質の安全性に関する国の考え方を信頼し、瓦礫の受入を表明、さらに道内市町村への協力要請も行い、既に北海道独自の受入基準も策定しているのに対し、徳島県はまったく反対の「信頼できない」「市町村へは要請しない」「独自基準は作らない」という意向を表明したことを指摘した。

 高橋知事のこうした国寄りの考え方、意思決定は、次のエピソードからも明らかだという。
<「福島原発の町と村」より関連部分の概要>
 
高橋はるみ知事は経済産業省北海道経済産業局長、経済産業研修所長という経歴を持つ原子力村の一員、その村の方針に従っている。2011年8月の泊原発3号機が営業運転を再開した裏には高橋知事と北電との関係があることは見逃せない。2011年6月道議会の質問で、高橋はるみ知事と北海道電力のズブズブの関係が明らかになった。質問したのは真下紀子議員。「2007年までは北電のほぼ全役員が、役職に応じた献金を知事にしていたが、2009年にはそれが半分に減少している。献金の横並びが崩れたことに対する知事の見解を伺います」という質問に対して、知事は開き直り、企業献金は違法だが個人献金は違法ではない、今後も受けると主張したという。知事はその後2011年10月に「もう御金はもらいません」と表明したが、かなり面の皮は厚い。
 そして、泊村がいかに泊原発に依存しているかについても驚くべき実態を明らかになっている。泊村には電源三法の交付金とともに多額の固定資産税が入る。交付金の使い道はいろいろな制約があるが、固定資産税は自由に使える。多すぎて村が住民へ「献金」をする以外使い道がはないようだという。原発のない自治体、周辺地域にも含まれない自治体にとっては驚きの事実である。
第4章 自治体とPPS
pp175〜pp176 原発推進費用の使い方

【ふるさと定住促進奨励事業】
★「結婚祝金」 定住して三年以上住む事が条件で10万円
★「出産祝金」 二子以降を出産した場合10万円
★「児童養育奨励金」第一子・第二子月額5000円、第三子以降は月額1万円
★「就学祝金」 小学校と高校入学時 10万円
★「住宅新築等奨励金」 住宅を新築するか、中古住宅を購入した場合に建設費および、購入費の10分の1を助成(200万円まで)、また、増改修費用が100万円以上の場合はその10分の1を限度として助成(50万円まで)
★「賃貸住宅家賃助成」 勤務先の手当て控除後の家賃が3万円を超えた場合、超えた分の金額を助成(5万円まで)
★「村立学校の修学旅行費用助成」 学校の経費総額の2分の1を助成
★「水道料金の軽減」 2011年より5年間、一般用は10立法メートル1640円を1030円、団体用は20立法メートル3290円を2060円に。
★「廃屋解体助成」解体費用(運搬費を含む)の2分の1の額を助成(50万円限度)
 2012年5月4日、テレビのニュースでは泊村住民のインタビューを放送していた。多くの住民が「原発あっての泊村なので、存続して欲しい」、「多くのものを頂いているのでなくなると不安」といった原発依存の生活実態をあらわにした。

 村民のこうした存続希望の声をよそに、泊三号機は停止する。泊村財政のため、村民生活の安定のため、原発を存続するという選択について、私たち国民一人ひとりはどう考えるべきなのか。布施氏が明らかにした上記の実態を改めて深刻に受け止め、この国の行く末を考えなければならないだろう。