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 早稲田の「演博」訪問記


池田こみち


掲載日:2014年7月3日
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁



 早稲田大学に、知る人ぞしる「演劇博物館」(略称:演博)がある。卒業生でも知らないひとが多いようだ。特に理工学部出の人はほとんど知らない。正式名称は「早稲田大学坪内逍遥博士記念演劇博物館」という。

 早稲田には青山が非常勤講師をしているときに代講で何度か行ったことがあるが、広いキャンパスの中をゆっくり歩いてみたことはなかったので、その存在もまったく知らなかったのだ。私も一応、英文学科卒でシェークスピアも学び、卒論にはシェークスピアと同じ時代に活躍した17世紀の形而上学派詩人 John Donneの恋愛詩について、30頁ほど英語で書いたのだが、もう遠い昔のことである。

★早稲田演博 Webサイト
http://web.waseda.jp/enpaku/

 それがやっと、というか今頃になってというか、今日7月3日、午前10時半に「演博」前で待ち合わせし、忙しい毎日の気分転換と充電のため、ゆっくりと演劇、文学を楽しむこととなった。

 たまたま、小学校時代の友人(早稲田大学卒業)が、リタイアしてボランティアで演博の解説員をしているということで、解説をお願いし、贅沢な時間を過ごすこととなった。

【建物】
 今日は、久しぶりに雑司ヶ谷で地下鉄を降り、鬼子母神から都電荒川線に乗って早稲田まで行ってみた。


写真1:写真1:都電荒川線 早稲田行き (撮影:池田)
     
 場所は、早稲田大学の大隈講堂からも近いところにあり、白く瀟洒でかつどっしりとした趣のある建物である。1928(昭和3)年10月、坪内逍遙博士の古稀と、「シェークスピヤ全集」全40巻の翻訳が完成したのを記念して、各界有志の協賛により建設されたものとのことである。


写真2:早稲田大学キャンパス案内図
  出典:早稲田大学構内案内図より作成


写真3:演博建物外観  出典:演博Webサイトより

【企画展】http://web.waseda.jp/enpaku/ex/ex_cat/special/
 今、企画展として以下の3つの展示が行われていた。

1)松本幸四郎展―This is my quest
 歌舞伎役者松本幸四郎さんは、早稲田出身であり、2013年4月に早稲田大学芸術功労者として顕彰状を授与されている。この常設展では、幸四郎さんの活躍を「大歌舞伎の世界」「ミュージカルの世界」「古典劇の世界」「現代劇の世界」「映像の世界」「俳句の世界」の六つの分野の活躍ぶりを展示している。歌舞伎では勧進帳の弁慶を1000回以上も演じられている他、ミュージカルでは、ラマンチャの男が余りにも有名で海外でも高い評価を得ている。また、古典劇ではシェークスピアの四大悲劇、現代劇ではNHKの大河ドラマはじめ多様な役柄を演じている。絵も描かれるし、俳句も達人である。


写真4:松本幸四郎展のパンフレットより

2)サミュエル・ベケット展
 アイルランド出身のサミュエル・ベケットの作品はまだ劇場では見たことがなかったが、この展示を見て今度機会があったら是非鑑賞してみたいと思った。代表作「ゴドーを待ちながら」は、3.11の震災後の被災地でも上演され、すさまじい災害に打ちのめされた人々の心に「共生」と「希望」を与える作品として大勢の人に感銘を与えたとのこと。網走刑務所でも講演され、受刑者から「今までに刑務所で行われた様々な公演の中でももっとも心に響くものだった」との感想が寄せられたほど、そのメッセージは絶望の淵にたつ人々の心に刻み込まれるものだったとの解説に改めて演劇の力を感じることがでた。


写真5:ベケット展のパンフレットより

3)”益田太郎冠者喜劇”の大正展
 茶道を嗜む私にとって益田鈍翁は、数寄者として名高く、今でもゆかりの茶会(大師会)が開かれているので少しは馴染みがあったが、鈍翁の次男が大正時代に活躍した喜劇作家・益田太郎冠者であることを知らなかった。 この企画展では、帝劇女優森律子の沢山の写真と共に、大正時代の明るくのどかな側面を紹介している。


写真6:益田益田太郎冠者喜劇の大正展パンフレットより

【常設展】http://web.waseda.jp/enpaku/ex/ex_cat/permanent/

 常設展としては、1階から3階の各フロアで以下の展示が行われている。

1階:シェイクスピアの世界|六世中村歌右衛門記念特別展示室
2階:逍遙記念室
3階:古代|中世|近世|近代|映像

 シェイクスピアの世界では、イギリスのシェイクスピアゆかりの劇場グローブ座などの模型も有り、戯曲だけでなく作品が上演されてきた歴史を辿ることも出来、英文学愛好家にはたまらない空間となっている。


写真7:逍遥記念室   出典:演博 Webサイトより

 2Fの逍遙記念室は、先生の書斎として使われていたもので、落ち着いた応接室となっていた。


写真8:逍遥記念室   出典:演博 Webサイトより

 3Fには、日本の演劇の歴史が古代から近代まで、舞台、装束、面、楽器、絵画などでわかりやすく展示されており、今に続く日本の伝統芸能、能や歌舞伎、文楽などがどのように伝えられてきたのかを知ることができる。

 内部の撮影ができないのは残念だったが、約1時間半にわたり、ゆっくり日本の演劇について学び楽しむことが出来た。解説があったので、一層充実した時間となったことは間違いない。

 関心のある方は、解説員のいる金〜日の午後がおすすめとのこと、卒業生も是非足を運ばれることをおすすめしたい。なんと言っても、この分野の収蔵品の数は日本随一とのこと、国内外から研究者や役者などが多数訪れ過去の遺産に触れ、芸に磨きをかけたり研究の一助としているとのことだった。 私もお陰様で、改めて日本の演劇の奥深さに触れることができ、これからもまた時間をつくって能や歌舞伎なども楽しみたいと思う一日だった。

 解説ありがとうございました。この場をかりて御礼申し上げます。