エントランスへはここをクリック!   

機密文書「地位協定の考え方」
第4条〜第5条

琉球新報 2004年7月〜8月

 
掲載日:2004.10.18
改訂日:2009.11.16

初出:独立系メディア「今日のコラム」 


〔第四条〕

第四条は施設・区域の返還に際しての原状回復、補償問題について定める。

1 第四条1項、米側が施設・区域の返還に際してこれを提供された時の状態に回復し、又はその回復の代わりに日本に補償する義務を負わないという趣旨であるが、この規定は、同条2項において日本側が施設・区域に加えられている改良、残される建物その他の工作物に対しいかなる補償の義務も負わないという規定と対応するものであり、彼我の権利義務の均衡を図っている。ちなみに、諸外国のこの種協定においては、例えば、米蘭協定の如く、「この協定に基づくすべての運用の終了に当たり、オランダ政府はこの協定に基づく合衆国の費用で設立された設備について残存価値があるときは、合衆国に対しその残存価値に対する補償を行なうものとする。」旨規定しており(第三条)、この方式によれば、米側が施設・区域に加えた改良、残された建物その他工作物について日本側は補償を行なわなければならなくなる訳である。なお、米蘭協定と同種の規定はボン協定(第五十二条)等にもみられる。

2 沖縄返還に際しては、沖縄復帰前に米軍が使用していたもので復帰後も引き続き施設・区域として米軍に使用されるものの復帰前の形質変更に対する原状回復義務及び復帰前の改良等に対する補償問題の解決には地位協定第四条が適用されることにつき返還協定において念の為の規定が設けられた(返還協定第三条2項)。

3 第四条2項は、施設・区域に「残される建物若しくは工作物」と規定しているところ、この規定は、施設・区域の返還に際し米側がかかる建物、工作物(これらは米側の建築したものであって、通常「ドル資産」と称される。)を残して行くことを一般的には予想していると考えられるが、他方、米側が何らかの必要によりこれら工作物を撤去することを排除するものであるとは解されていない(この点については、第二十四条の項で触れる。)。

4 施設・区域返還後の個々の地主との原状回復問題は、専ら政府(施設庁)と当該地主との問題であることは明らかである(注36)。
施設庁は、個々の地主との賃貸借契約において関係物件の原状回復義務を詳細に規定している(沖縄の場合には、「原状」とは復帰以前に米軍が実際に使用を開始したときの原状であることを明らかにしている。)。

(注36)第四条1項については、米軍の故意又は重大な過失による形質変更にはこの規定が適用されないのではないかとの議論がある(ボン協定にはこの旨の規定がある。第四十一条3項(a)合意議事録)が、この問題も日米両政府間の問題であって、地主との関係は専ら日本政府が処理する問題である。

5 第四条1項及び2項の規定は、日米間の特別な取極に基づいて行なう建設には適用されないこととなっている(同条3項)が、かかる特別取極が行なわれた例はない。

6 なお、米側は、施設・区域として提供された国有財産に対しても自由に原状変更処分をでき、わが国はこれに対しても補償要求等はできないので、国有財産の管理に関する法律は、これを受けて、米国に使用を許した国有財産については、国は、当該財産の返還に当り、米国に対し、その原状回復又はこれに代わる補償の請求を行なわないものとする旨定めている(第三条)。


〔第五条〕

一 施設・区域外の港・飛行場からの出入国
1 第五条は、米軍の軍用船舶・航空機のわが国への出入につき、施設・区域外の港・飛行場からの出入の場合と施設・区域たる港・飛行場からの出入の場合とを分けて規定している(前者については、1項及び3項、後者については、2項)。施設・区域外の港・飛行場については「合衆国及び合衆国以外の国の船舶及び航空機で、合衆国によって、合衆国のために又は合衆国の管理の下に公の目的で運航されるもの」(以下「米軍の軍用船舶・航空機」と称する。)は、入港料又は着陸料を課されないでこれらの港・飛行場に出入することができる。

2 米軍の軍用船舶については、第五条に関する合意議事録1項は、「合衆国公有船舶及び合衆国被用船舶(裸用船、航海用船及び期間用船契約によるもの)をいう。」旨規定している。(注37)

(注37)米軍の軍用船舶に対するわが国の管轄権問題に対する一般的考え方については、条約局法規課調書集第七巻二五二頁以下参照。なお、これら船舶の海上事故にかかる損害補償問題の解決については、第十八条の項で触れる。

第五条1項が、外国の船舶・航空機についてまでわが国の港・飛行場への出入の権利を与えているのは、これらのものが「合衆国によって、合衆国のために又は合衆国の管理の下に公の目的で運航される」ものである限り、米国の公有船舶に準ずるものとして取り扱うことが妥当であると考えられたからである。これらの船舶・航空機には、日本の船舶・航空機も含まれる。英文の「foreign」を「外国の」とせず「合衆国以外の」としたのは、この点を配慮したものである。

3 「合衆国によって、合衆国のために又は合衆国の管理の下に」とは、要するにこれら船舶・航空機の運航の目的が米国の責任にあることを右の表現で一般的に規定したものと解すべきである。従って右表現のいちいちにつき厳密な解釈を詰めるということは必ずしも適当ではない。この点との関連で、「合衆国のために」とは、米国の同盟国たる第三国が当該条約関係に基づき運航する当該第三国の船舶・航空機まで含める趣旨ではないかとの議論があるが、この点の考え方は、以上のとおりであり、又、安保条約・地位協定が米国以外の国に特権的地位を与えることまで規定する筈のないことからしても右議論が誤っていることは、明らかである。(注38)

(注38)昭和三六年十月十八日、衆・外議事録七頁参照。

なお、かつて問題となったいわゆる「黒いジェット機」については、当該ジェット機が米国航空宇宙局に所属するものであっても、日本における飛行活動(気象情報収集活動に従事していたと説明されている。)が米軍の管理下にあったことは明らかであるから、第五条の観点からは、問題がない。

4 第五条1項にいう「公の目的」とは、合衆国政府の目的をいい、その認定は、日米両政府が行なう(岩間質問主意書に対する政府答弁書)。施設・区域たる港・飛行場における出入についても、2項の規定振りからして「公の目的」という制約があることは、明らかである(安保条約第六条の目的が先ず大前提であることは、いうまでもないが。)。(注39)

(注39)「公の目的」が米政府の目的ということであれば、軍務とは全く関係なく来日する米政府高官の専用機は、自由に施設・区域たる飛行場(横田が通例)から出入しうることとなるが、国会等においては、このように説明しながら、実際には、外務省として、かかる態様の出入につき米側に抗議して来ている。この点については、提供施設・区域の使用が基本的には安保条約第六条の目的に合致している限り、又、軍事的事項に拘わらず広く日米両政府が協議・協力すること自体が安保条約の目的に包含されていること(条約前文)を考えれば、右の如き態様の出入は地位協定上問題とする必要はないとも考えられる。ちなみに、地位協定は、「合衆国軍隊」「合衆国政府」「合衆国」についてそれぞれ相当の注意を以て使い分けているとみられるところ、第五条が「合衆国の船舶及び航空機」(1項)、「合衆国政府所有の車両」(2項)としているのは、第五条に関する限り「軍隊」よりは広いものによる使用を念頭においていることを示しているとも考えられる。

5 第五条1項にいう「日本国の港」については、同条に関する合意議事録2項により、通常「開港」をいうこととなっており、従って、不開港への出入が全く排除されるということではない。この点、合同委員会の合意には、「緊急の場合に米軍用船舶が開港以外の避難港に入港したときは、」すみやかに日本側当局に通告すべき旨の規定があるが、不開港への入港は、必ずしも「緊急の場合」のみに限られる訳ではないと解され、実際にも不開港たる別府、熱海に入港したことがある(実体はレクリエーションのための入港)。この点については、このような不開港への入港を日本側が拒否できるかとの問題があるが、米側の要請(米側は、不開港への入港については通常はあらかじめ日本側に協議越すべきものと考えられている。)に合理的な理由が認められる限り拒否できないと解するのが妥当であろう。(注40)

(注40)不開港の入港手続につき、林法制局長官は、米軍用船舶の場合も安保条約・地位協定とは関係なく、他の国の軍艦の場合と同様、一般国際慣例による旨答弁している(昭和三九年一月三十日、衆・予議事録十五、六頁)が、この答弁は、若干問題があると考えられる。実際の例としても、米軍用船舶の入港は、開港・不開港を問わず、第五条3項によって処理されている。

「飛行場」については、港の場合の開港・不開港に相当する制約はないが、これは、通常の航空機はいずれにしろ通常の「飛行場」からしか発着できないことを考慮すれば、あえて港の場合の如き制約をつける必要が実体として考えられなかったことによるものと解される。尤も、この点については、ヘリコプターの如く「飛行場」以外のところから自由に発着できるものが問題となる(この場合もヘリコプターで来日することは考えられないので国内での移動の場合)が、かかる場合に「飛行場」以外の場所の使用が排除されているとは考えられない。ちなみに、「地位協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律」は、米軍につき航空法第七十九条の規定(飛行場以外における離着陸の禁止)の適用を除外している。

港湾施設の使用に関する合同委員会の合意の中には「米軍が優先使用施設・区域の使用を希望する際は、使用に先立ってすみやかに日本側管理機関に通告する。」旨の規定があるが(港の優先使用施設としては現在は、小樽、室蘭港がその対象として合意されている。)、一般的に言って、第五条1項に基づく港・飛行場の使用(通常「五条使用」と称される。)が、施設・区域的な使用の態様(例えば、一切の民間の使用を長期間排除しなければ米軍の目的が達成してないが如き使用態様)になる場合には、むしろかかる施設は、施設・区域として提供されるべきものといえよう(逆に言えば、五条使用である限り、右の如き使用態様は、排除されると解される。)。(注41)(注42)

(注41)昭和四一年二月十八日、衆・予議事録二十頁。

(注42)なお、成田新空港については、施設・区域として提供することはないのは勿論、五条使用の場合も十分に慎重にし、いやしくも民間飛行場としての機能に支障を来すということはさせないという趣旨の答弁がある。昭和四四年四月二五日、衆・内、同年七月一日、参・内等の議事録参照。

6 第五条1項の「出入することができる。」とは、出入の権利を定めたものであって、「出入の許可をするか否かは日本政府の裁量であり、許可する場合には入港料等は課さない。」という意味ではない。例えば、航空機について言えば、航空法第一二六条2項に定める外国航空機の出入についての運輸大臣の許可規定は、協定第五条1項により排除される(実際にも航空法特例法第2項は、航空法の右規定の適用を排除している。)。更に、協定上明文の規定はないが、右航空機は、単なる領空通過についても当然権利として認められていると解され、従って、航空法の運輸大臣の許可規定(第一二六条2項)は、この場合にも排除される(実際にも特例法により同様に排除されている。)。(注43)

(注43)なお、核搭載機の領空通過は、事前協議問題であり、戦斗作戦行動に従事する航空機の通過は、事前協議とは別に、別途わが国の同意を必要とすること等については、昭和四七年四月二八日付けの事前協議制度の考え方についての条・条ペーパー参照。

7 免除されるべき「入港料又は着陸料」については、合同委員会の合意に詳細な規定がある(特に「入港料」が問題)。これらのもののうち、地方公共団体の収入となるもの(例えば通常入港料―ポート・エントランス・フィー)については、国が補償している。羽田等の民間飛行場については、国有財産の管理に関する法律第二条の無償使用の規定に基づき着陸料を免除されている。

8 米軍の軍用船舶が施設・区域外の港に入る場合は、開港・不開港を問わず、「通常の状態においては」、「日本国の当局に」、「適当な通告」をしなければならない(第五条3項第一文)。「通常の状態においては」の点については、第五条に関する合意議事録3項は、適当な通告をする義務を免除されるのは、米軍隊の安全のため又は類似の理由のため必要とされる例外的な場合に限られる旨規定している。航空機については、何ら通告の義務が課されていないが、これは、船舶についての通告の内容自体技術的なものであるところ、航空機については、航空管制機関に対する右の如き技術的な通告なしに着陸することは、本来技術上考えられないので態々規定することをしなかったまでのことであると解される。

「日本国の当局」とは、具体的には、港湾管理者又は港長であり(合同委員会合意)、「適当な通告」の内容は、船舶の名称、トン数、長さ、吃水及び出入港の日時である(岩間質問主意書に対する政府答弁書)。

9 米軍の軍用船舶は、「強制水先を免除される。もっとも、水先人を使用したときは、応当する料率で水先料を支払わなければならない。」(第五条3項第二文)強制水先の行なわれている港は、水先法第十三条に関する政令で定められているもので、現在は、横浜、横須賀、神戸、関門、佐世保及び那覇であるが、軍艦等の特殊な目的に鑑み強制水先を免除したものである。

10 五条使用を認められる施設・区域外の港・飛行場からの米軍の戦斗作戦行動は認められるかという問題が国会において頻繁に提起されるところ、戦斗作戦行動にかかる事前協議制度は、施設・区域を基地として使用する戦斗作戦行動以外のものを予想しておらず、従って、安保条約・地位協定は、五条使用地からの右の如き行動を当然排除しているものと考えられる。(けだし、施設・区域から行なわれる戦斗作戦行動についてはわが国の同意にかからしめておきながら、他方で通常の民間施設からの米軍のかかる行動を全く自由にするということは全く考えられないからである。)

11 米軍の軍用船舶・航空機が「この協定による免除を与えられない貨物又は旅客」を運送するときは、米側は、「日本国の当局」にその旨の通告を与える義務があり、これらのものの出入国は、わが国の法令に従って行なわれる必要がある(第五条1項第2文)。「この協定による免除を与えられない貨物又は旅客」とは、貨物については、第十一条に掲げられていない通常の商業貨物であり、旅客については、第九条2項に定める免除(免除の対象は、軍人・軍属・家族)の対象とならない私人たる旅客である。米軍の軍用船舶・航空機がかかる非免除貨物又は旅客をわが国に運送することは例外的であるべきであり、第五条に関する合意議事録1項の「商業貨物及び私人たる旅客がこれらの船舶に積載されるのは、例外的な場合のみに限る。」との規定は、当然の規定であって、航空機による運送についても同様に解される。

本項にいう「日本国の当局」とは、税関・入管等の当局である(合同委員会の合意)。合同委員会においては、非免除貨物又は旅客が運送される時は、原則として一定の港・飛行場から入国すべき旨合意され、当該港・飛行場が列挙されている(出入国に関する項)。

二 施設・区域たる港・飛行場からの出入国(原潜寄港問題を含む)
1 第五条1項の米軍の軍用船舶・航空機は、施設・区域(たる港・飛行場)から出入国することを当然認められており(同条2項第一文)、又、同条3項第一文の反対解釈として船舶の施設・区域への入域につき日本側当局への通告も必要でない。米軍の軍用船舶・航空機が施設・区域たる港・飛行場に協定による免除を与えられない貨物・旅客を運送することについて明文の規定はないが、協定がかかる運送を排除しているとは解されておらず、かかる場合には、第五条1項第二文により、処理されるべきものと考えられる。この点については、合同委員会の合意は、かかる場合には、米軍当局は、これらのものを最寄りの入管及び税関の出張所まで輸送し、そこで入国手続を行なうべき旨規定しているが、実際には、このような飛行場等にはわが国の入管関係の出張所が設けられており、米側よりの通告を得て当該飛行場等で出入国審査等が実施されている。

なお、わが国への入国に際しての検疫については、五条使用地からの入国に際しては、すべて日本側が実施し、施設・区域からの入国に際しては、原則としては実質的検疫は米側が実施し、最寄りの日本側検疫所長がこれを形式的に認証することにつき合同委員会の合意がある(昭和三六年八月の合意)。

2 米国の通常の原子力潜水艦(即ち、核装備をしていない原潜)のわが国への寄港は、施設・区域内外への寄港であるとを問わず、事前協議問題ではなく、協定第五条に従って行なわれて差支えないものであるが、米側は、昭和三八年八月十七日付け日本政府宛エード・メモワール及び同八月二四日付け米国政府声明(いずれも公表済み)を通じ次の如き寄港態様によるべき旨明らかにしている。(注44)

(注44)エード・メモワール及び政府声明に述べられている五条上の権利に対する制約は、日米両政府間の交渉の結果ではあるが、米側としては、エード・メモワールの前文にも述べられているとおり、かかる制約は日本の国民感情を考慮して自らの意思に基づいて課した制約であり、五条上の権利は最終的には留保している点に注意する必要がある。この点は、B―52型機のわが国への配備・一時的飛来の抑制の問題と同様であり、B―52の台風避難のための一時的飛来の際にも米側はその都度日本政府の了承を求め越しているが、米側としては、最終的には五条上の権利を留保している。

(1) 原潜の寄港目的は、乗組員の休養・レクリエーション及び兵たんの補給及び維持であって、寄港地は、(施設・区域たる)横須賀及び佐世保である(エードメモワール)。(注45)

(注45)沖縄復帰後は、施設・区域たるホワイト・ビーチも原潜の寄港地とする旨のスナイダー公使発吉野米局長宛書簡がある。

すなわち、協定第五条によれば、米軍用船舶は、わが国のあらゆる港(通常は「開港」)、施設・区域たる横須賀・佐世保に限定された。これら以外への港への寄港が必要となる場合には、協定上の権利義務でものごとを律するのではなく、右二港への入港について日本政府の了解が求められたと同様な手続が繰り返されるのが本筋である。(注46)

(注46)昭和三九年九月十七日、衆・外政府答弁

(2)米海軍は、「通常、」日本側当局に対し、少なくとも二四時間前に、原潜の到着予定時間・停泊位置を通報する(米政府声明)。すなわち、米軍用船舶は、施設・区域たる港への入港に際しては、日本側当局への通告を免除されるが、原潜の場合には一定の条件で通告がなされることとなっている。「通常」でない場合とは、予見しえざる場合であって、ほとんどありえないような場合であり、常識的にいえば通報は、常に必ずあると了解される。(注47)

(注47)昭和三九年九月十七日、衆・外政府答弁

三 日本国内における移動の自由
1 第五条1項に掲げる米軍の軍用船舶・航空機及び米政府所有の車両(機甲車両を含む。)並びに米軍構成員、軍属及び家族は、施設・区域間を移動し、及び施設・区域と日本の港・飛行場との間を移動することが認められる(同条2項第一文)。第五条に関する合意議事録4項は、「この条に特に定めのある場合を除くほか、日本国の法令が適用される。」旨定めているので、米軍の右の如き移動には、「日本国の法令」が適用されることとなるが、米軍のわが国内の通行は、直接わが国の交通秩序に関わるものであり、かかる場合にわが国の法令が遵守されるべきは当然のことと考えられ、この意味で、米軍によるわが国内の通行に関する限り合意議事録の右規定は当然のことと解される。

右にいう「日本国の法令」とは、第五条2項との関連においては、同項の趣旨に鑑み、船舶・航空機の運行、車両、人員の通行行為自体を規制する法令と解され、具体的には、道路法・道路交通法の関係規定、自動車の保管場所の確保等に関する法律(第五条2項の長時間の路上駐車の禁止)、航空法(第九六条―航空交通の指示、第九七条―飛行計画及びその承認、第九八条―到着の通知は特例法によっても米軍への適用は排除されていない。)、港則法・海上衝突予防法・河川法の関係規定、消防法(第二六条の消防車の優先通行)、水防法(第十一条の水防のため出動する車馬の優先通行)等が該当すると考えられる。(注48)

(注48)例えば火薬取締法には、火薬の運搬の際に遵守されるべき諸規定があるが、これは、通行行為自体の規制とは面を異にすると考えられ、従って、合意議事録にいう「日本国の法令」には該当しない。火薬の取扱いは、いわば軍隊の属性であり、軍隊による火薬の取扱いには、同法は、施設・区域内外を問わず、適用ないものと解せられている。尤も、施設・区域外における火薬の取扱いは、わが国の公共の安全に関与するところが大きいので、その運搬等の際に遵守されるべき基準が合同委員会で合意されている(米軍の火薬類運搬上の処置」)。

ちなみに、ボン協定中日米協定第五条に相当する第五十七条は、外国軍隊の独領内の移動の権利を認めつつ(1項)、同条3項において「この協定に別段の定めがある場合を除き、ドイツの交通規則は、軍隊、軍隊の構成員、軍属及び家族に適用する。」と規定し、また、4項において「軍隊は、軍事上の緊急の場合に限り、ドイツの道路交通取締規則の適用を受けない。ただし、公共の安全及び秩序を尊重しなければならない。」旨規定している。このようにボン協定においても直接の適用は、道路交通取締法規について考えられている。

2 米国の「軍用車両」の施設・区域への出入及びこれらのものの移動には、「道路使用料その他の課徴金」を課さない(第五条2項第二文)。「軍用車両」とは、この規定の趣旨に鑑み、米軍の軍務(公務)のため使用される車両と解され、従って、軍構成員の私用車であっても、公務に使用されている際は、右の「軍用車両」に該当する。この点、公務であれば、タクシーまでこれに該当するかとの議論があるが、協定は、実際問題としてタクシーが軍務に使用されることまで予想しているとは考えられず、かかる場合は、右「軍用車両」には該当しないと解される。本項の手続は、米軍当局が「軍用車両」の使用者に公用使用証明書を発給し、使用者がゲートでこれを渡し、道路使用料を免除されるという手続によっている。私有有料道路の使用料については、政府(施設庁)が当該道路所有者に対し米軍の免除分を補償している。国有道路については、国有財産の管理に関する法律第二条により、米軍の無償使用を認めている。

つづく