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忍び寄る国家主義:イラク人質家族へのバッシング、なぜ
池田 こみち
 

掲載日:2004.4.14

 4月14日の夕刊に宮崎の郡山さんのお婆さま(84歳)が誹謗中傷のはがきを受け取り、ついに寝込んでしまったことが報じられていた。孫の安否を気遣って毎日藁をも持つかむ気持ちで家に届く郵便物を待っていたに違いない。
 
 「13回も退避勧告が出されていたのに」「危険を承知で行ったのだから自己責任だ」「やらせだ」「自作自演だ」「どうせ金儲けのためだろう」など、およそこの状況下で言うべきではない悪口雑言が、はがきで、メールで、ファックスで、電話で寄せられているという。悪天候を押して冬山に登り遭難したハイカーとは訳が違う。どうして日本人はそこまで想像力のない冷酷な人間ばかりになったのだろうか。それも、一般国民から政府閣僚まで同じ調子でのバッシングである。そのうち、「救済に要した費用は弁償してもらいます」などと言い出しかねない勢いだ。

 大荒れの天候の中、遭難し苦しんでいる人々に手をさしのべようと自分のことも家族のことも顧みず出かけていった若者たちに対して、また、喉元にナイフを突きつけられて焼き殺すとまで脅されている我が子の姿を見せられた家族に対して、何もせずのうのうと平和ぼけの日本にいる人たちが決してやってはいけないことではないだろうか。

 誰もが彼らと同じ気持ちをもっていたとしても同じ行動をできないことは分かり切っている。仕事もある、家庭もある。それなら、自分の身に起きたことを考えて、少なくとも静かに見守るとか、少しでも慰めや励ましの言葉を送るとか、政府に対して申し入れをするとか、いくらでも他の方法があるはずである。彼らを非難するなら無事に生還してからにしてほしい。事情もわからない今の時点で、自分たちの勝手な想像で人を苦しめるような発言は慎むべきである。

 今日の国会では党首討論が行われていた。小泉首相は人質のご家族に会わないことについて、「会うことがいいことかどうか、今はその時期ではない。状況を見て判断したい。」と突っぱねた。表現は違っても、これはまさにイジメにも等しい冷たい対応と言わざるを得ない。カナダの首相は人質となったカナダ人の家族に電話をかけ、直接慰め政府の対応を説明したという。それこそが血の通った国の代表としての役割であり務めである。

 折しも首相官邸は厳戒態勢がしかれているとのこと。自衛隊が行かなければ、彼らはそれぞれの役割を存分に果たせただろう。この国の進もうとしている方向は明らかにおかしい。何を守り何を見捨てようとしているのか、改めて考えなければならない。