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長野県廃棄物条例案策定へ 
意義と懸念

朝日新聞長野版 2004年6月12日朝刊

掲載日:2004.6.14

 「できるだけ燃やさない・埋め立てない」の理念を掲げ、県が廃棄物条例案の策定を進めている。市町村に処理責務がある家庭ごみなどの一般廃棄物も対象とし、施設建設に、知事が作る発生抑制・資源化計画の「承認」を必要とするのが特徴だ。推進役である条例アドバイザーの青山貞一・県環境保全研究所所長と、批判的な見解を示す西ケ谷信雄・元全国都市清掃会議調査部長に、それぞれ考えを聞いた。(聞き手・飯竹恒一)

全国都市清掃会議元調査部長・西ケ谷信雄さん(左)と
条例アドバイザーの県環境保全研究所所長・青山貞一さん(右)

 
◆法超えて環境守る必要

青山貞一・県環境保全研究所所長
−−この条例を長野で制定することの意義は。

 日本では本来資源であるべきものの多くがごみとなり、安易に焼却され、ダイオキシンなど有害化学物質を含む焼却灰が埋め立てられている。廃棄物処理法の改正などでダイオキシンの排出規制は強化されたが、人の健康保護や生活環境を保全する上で維持されることが望ましい環境基準はまだ甘く、不十分だ。

 こうした日本全体の問題に加え、地形が複雑で、至る所に水源があり、盆地がある長野の特殊性を考えるべきだ。盆地でごみを燃やすとダイオキシンなどがとどまる。人体への影響の点では、松本盆地は環境基準内にあるが、東京よりも影響が大きいとのデータもある。そこで、現行法から一歩踏み込んだ政策を展開するのに条例が必要だ。

 長野はすばらしい環境を守り育ててこそ、農業や観光業が存在する。条例は本来、政務調査費をもらっている県議会が作るべきだが、立法機能を放棄している。田中知事がやむなく条例づくりを始めた。

−−骨子案は一般廃棄物も条例の対象にしているため、市町村から反発が出ています。

  現行法では、環境アセスメントなどの手続きを満たして市町村が県に届け出れば、施設の建設ができる。ただ、実際に動かすと環境面で大きな問題が出て、住民による差し止め請求が起き、操業停止をしなくてはならない場合もある。市町村や広域連合が域内のはずれに設置しようとする場合、広域的な観点も必要だ。

 施設建設を止めるためとか、田中知事の理念実現のためといった危惧(きぐ)が多いが、それは違う。県が相談に応じ、手助けをするということだ。例えば、「煙や臭いを出す施設は谷間より、山の上の方が空気が拡散しやすくて良い」と言ってあげる。そうすれば著しい環境への影響は避けられ、裁判も起きない。

−−「承認」を、「協議」に変えるといった変更はあるのですか。

 条例案に仕上げる過程で、許認可的なものを手続き的なものにしていきたい。


◆市町村自治への干渉だ

西ケ谷信雄・元全国都市清掃会議調査部長

−−条例の骨子案についてどう考えますか。

 日本の法・行政体制の考えを無視している。一般廃棄物は市町村の固有事務だ。県はそれをお手伝いする程度でいい。県は一般廃棄物の仕事の経験もなく、市町村の指導は難しい。

 一般廃棄物の処理施設は、市町村が住民と信頼関係を築いて作っていくものだ。市町村の施設について県の承認を必要とする法的な仕組みはなく、市町村の自治事務に対する干渉だ。施設建設を県に届ける前に実施する環境アセスメントなどが十分かどうかの判断も、そこの住民が下すべきである。

−−骨子案は、循環型社会の構築を強調しており、リサイクルや減量化を県主導で進める狙いがあります。

 循環型社会の構築は、市町村の清掃事業の主たる業務ではない。市民が出すごみを、公衆衛生・環境の立場からきちんと処理し、地域の健康と安全を守るのが市町村の清掃行政だ。

 リサイクルや減量化を叫んでも、今の社会・経済システム、ライフスタイルが変わらない限り、減量化は難しい。ごみ処理は、夢や空想ではできない。

−−県は、一般廃棄物の人口1人あたりの焼却量が、欧米諸国よりも日本が高いとのデータを示しています。

 埋め立て場所が豊富で、焼却の必要性が低い他国との単純比較は不適切だ。焼却量が少ない国は埋め立て処分をしている。指摘された欧米では焼却量は増えている。

 日本では、埋め立て地造成のための平地が少なく、病原菌対策などを進める必要もあって、「減溶化」のための焼却技術が発達した。まして山間地の多い長野では埋め立て地が確保できず、焼却は有力な手段だ。

−−焼却で発生するダイオキシン問題についての考えは。

 規制強化や技術開発で抑えられる。それと焼却すべきでないという議論は別だ。国の環境基準より低ければ、一応良しとすべきだ。基準が問題だというなら長野の問題ではなく、国の問題だ。ダイオキシン規制を自冶体で上乗せすることはできない。

<<廃棄物条例>> 正式には「信州廃棄物の発生抑制と良好な環境の確保に関する条例」。公表済みの骨子案では、現行法で県が施設設置に許認可権を持つ産業廃棄物だけでなく、市町村に処理責務がある一般廃棄物も対象にした。施設設置には知事が策定する「発生抑制・資源化計画」の「承認」を必要とし、罰則規定もある。県民参加の県民環境協議会などによる「環境モニタリング制度」も盛り込んだ。条例案の6月議会提出は見送られたが、条例案に仕上げる前の要綱案が近く、公表される。