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ヨルダンから帰国しました 森沢典子

掲載日:2004.5.19

みなさん、こんにちは。

ヨルダンから帰国しました。
もう少し前に帰ってきていたのですが、帰国後に体調を崩し寝込んでしまっていました。

一昨日くらいから起き上がれるようになり、今はもう大分元気です。
帰国してすぐにご挨拶もできなくてすみませんでした。

たくさん報告があります。
でも今日は、ラファの友人のおかれている状況にいても経ってもいられずメールしています。
急いで書いているので、不十分な点があるかもしれませんがお許しください。



パレスチナ・ラファ難民キャンプのタルエッスルターン地区にも、とうとう今朝から外出禁止令が布かれ、さっきあわててそこに住む友人ムハンマドとラファのMUHCクリニックの院長ヨゼフ・ムーサに電話をしました。

ムハンマドの話では、一歩も家から外へ出る事ができない状況で、この地域へつながる道はすべて封鎖され、救急車も物資も何もそこへ来ることができないそうです。

ムハンマドの隣に住んでいる女の子と男の子は出血多量でさっき亡くなったそうです。

「撃たれて怪我をしたことがわかっていても、誰もそこに助けに行くことができないから、結局死なせてしまうんだ。
このままだと死者は20人を超えてしまうかもしれない。
その人たちは、大抵は僕の友だちなんだ。
なぜならみんな近所の人たちだからだよ。」
(結局先ほど20人を超えたと知らされました。一晩で20人、無差別です。
信じられません。どうしても受け入れられません。)

ムハンマドは、これら全てを、とても落ち着いて、ゆっくりと話していましたが、いつになく動揺しているのがわかりました。

今も家の外には、たくさんのM16(高性能の銃)を持ったイスラエル兵や戦車が徘徊し、銃撃音がすぐ近くで聞こえる・・・と言っていました。

そのとたん割れるような銃の射撃音が電話を通じて聞こえてきました。

銃声は、ここでは珍しくないかもしれませんが、その音で距離がわかりその日の相手の攻撃の目的がはっきりとわかったりします。
「この程度の音は、威嚇で、夜眠らせないため」とか「この音は、少し離れた地域での攻撃音」など・・

そして「今私が電話口で聞いている音」は、そのどれよりも、どれよりも大きな音で、ドアの前に何かがいることがわかりました。
包囲されていることをはっきりと感じ取って、私は受話器を持つ手ががくがくと震えてしまいました。

包囲は少なくとも4.5日は続くとみられているそうです。
電気も切られています。
水は給水タンクにためてあるものを、注意深く少しずつ少しずつ使っていると言っていました。
でも、以前このあたりに滞在していたときに、屋根の上のタンクを兵士たちが次々に撃って穴を開けていくのを見たことがありますから、その水がどのくらい持つのかとても不安です。
それに、充電ができないことがわかっているから、電話も手短に済ませます。
本当は、せめて電話だけでもつないだままにして、ずっと話を聞いていてあげたいし、何でもいいからとにかく声を聞いていたいです。

友人が、今さらされている状況に対して、虚しいくらい何もできないことに途方に暮れています。

昨日イスラエル政府は、パレスチナ人の家を200軒壊す用意がある・・と発表し、NHKでも短く伝えていました。
でもなぜ普通に言うのでしょう?
どんな理由が「家を200軒破壊する」ことを正当化できるのでしょうか?
イスラエルの発表はアナウンスでそのまま伝えても毎日のように行われている侵攻と破壊が、映像で流れてこないのはなぜでしょう?

そういう思いで悶々としていたら、先日、突然NHKの昼のニュースが、トップでパレスチナのことを流しました。

それは、イスラエルの和平推進派15万人によるテルアビブでの「ガザ撤退」デモでした。ペレスが演説していました。
そしてNHKは、これを「和平への大きなきっかけに」みたいな流し方してました。

さらに、ヨルダンでパウエル長官が「イスラエル、パレスチナの和平の仲介はアメリカに」と演説したことも流していました。
「イラク人虐待などで信用を落としたアメリカがまた和平推進に立ち戻ったことをアピール」とアナウンスしていました。

イスラエルの一般の人たちの中には、ガザからの入植地撤退は和平への大きな一歩として、唯一具体的にイメージできる譲歩の形なんだと感じている人々も少なくないのかもしれません。

でもペレスもシャロンもアメリカも、これまでの続きの作業をスムーズに行うために「ガザ」というカードを使ってきただけでパレスチナ人にとっては、「西岸をさらに大きく失う第一歩」でしかありません。

これに対してパレスチナ人が抵抗したら、またパレスチナ側が「和平」を受け入れなかった・・とイスラエル内の人々や世界の人々に言わせてしまうのかもしれません。

「ガザ撤退」という切り札の影で、西岸を取り込み、全ての国境をコントロールする準備を進め、パレスチナを骨抜きにしてしまうことを思うと気が遠くなります。
さらに難民の帰還権の放棄までアメリカに支持させ、これまでにない絶望的な事態です。

けれどそれらは同時に語られるということはけしてありません。

何もかもわからなくって、ただ彼らの、今夜の無事を祈ることしかできず、眠れぬ夜を過ごしています。



今日、板垣雄三さんの講演を聴きに行きました。
その中ではっきりと強い口調でおっしゃていた言葉が忘れられません。

「パレスチナ・特にエルサレムの問題を公正に解決することが世界にとっても、日本にとっても、反テロ戦争の終止符になる。
けれど、今世界で繰り広げられている戦争の、一番根源にあるパレスチナ問題が、(イスラエルとアメリカによって)最も破壊的な方向へ持っていかれる、しかもそれが私たちの目の前で行われているというのに、こうした事態ををきちんと調査・分析し、ちゃんと伝え広げなくてはならないメディアが、何もしない。
中東だけではない、欧米ですら、毎日必死に中東のことをニュースにしているのに日本は年金(今日は立てこもり)問題に明け暮れている。
情けなくて涙がでてくる。」

イラクでの邦人人質事件に関しても、板垣先生も中東でこのニュースをアラブ人の友人たちと外から見ていました。
そしてアラブの友人たちに「日本人は、日本人の問題にしか触れない。
実際には、ファルージャが大変なことになっているのに。」と言われたそうです。

板垣先生は「政府が日本の安全を考えるのなら、一番に自衛隊の撤退を考えたりアメリカの政策を批判するべきだったが、実際に日本の人々が撤退を要望したりアメリカの戦争を非難するデモをしている様子を一番に世界に伝えたのはCNN(アメリカメディア)だった。」



ラファは、先週だけで116件の家が破壊され、1000人近くの人がホームレスになりました。
ラファの状況については、友人が毎回丁寧に作ってくれている「ナブルス通信」で詳しく知ることができます。
彼女も、泣きながらこの記事を作ってくれました。
何もできなくても、こうした状況を知って、共有するだけでいろんなことが大きく違ってくると感じています。

ヨルダンでの滞在の記録は、またあらためて通信として出させていただきます。
特に、ヨルダンで出会ったたくさんのパレスチナ人たちの話、アンマンから私が見た邦人人質事件のこと、その時に出会ったイラク人たちの話は丁寧にお伝えしたいと感じています。

森沢典子