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少子高齢化にふさわしき
ゼロベース予算の導入


 田中康夫

掲載日2005.10.6


「職員の人件費こそ最大の事業費」との考えに基づく“ゼロ予算事業”に続いて、信州・長野県では次年度に向けて“ゼロベース予算”を実施します。過日は部局長の合宿も行い、予算策定はシーリングからゼロベースへと抜本的発想転換が為されるのです。

予算編成に於ける概算要求額に天井を設けるシーリングは、一律の削減率で事業予算を見直し勝ちです。結果、通学路の歩道の整備も、山の中の道路建設も、同じ比率で予算削減が行われる羽目に陥ります。必要な事業の進捗が遅れ、他方で、首を傾げる事業も生き残ってしまうのです。

就任以来の4年間で547億円の累積債務(借金)を減少させ、全国47都道府県で唯一、5年連続でプライマリーバランス(基礎的財政収支)を借金超過から返済超過へと転換し、財政健全化を図る信州・長野県は、その成果を更に発揮すべく、“ゼロベース予算”を導入するのです。

少子高齢社会に相応しき、増税無き財政健全化の根幹を成す思想です。全ての事業を一旦白紙に戻し、ゼロベースで必要性を検討するのです。それは、三位一体の改革と称する、早い話がシーリングの発想で補助金も交付税も削減する羊頭狗肉な縮み志向の「改革」とは対極に位置します。

 ゼロベースで見直す課程で、時代が今や求めていない事業は、その途中であっても中止の決断を下せます。逆に、時代が強く求めている事業は進捗度が早まり、充実度も深まります。東海道新幹線や黒部ダムが完成した物質主義の往時に感じた社会変化の「スピード」を、21世紀に生きる私達は脱・物質主義の下で、その中身の質を転換し、成し遂げていかねばならぬのです。

“ゼロ予算事業”は、調査費や会議費や事業費が計上されねば仕事が始まらない、と信じて疑わなかった公務員の世界に一大発想転換を齎しました。予算の3割を占める人件費は、自分達の権利のみに非ず。実は、納税者への奉仕に向けられるべき事業費なのだ、との。

 そのゼロ予算事業に関して、全国の都道府県、区市町村の議員や職員の視察が相次いでいます。のみならず、県内の市町村長も注目しています。唯一、その価値に気付いていないのは、地元の新聞社やTV局、県議会議員だったりします。

 とまれ、ゼロベース予算に関して僕は総選挙中、竹村健一氏に説明しました。与野党党首が出演する「報道2001」オンエア前に楽屋で。すると、彼は実に興味深そうに聴き入り、それを踏まえて恐らくは前回の「報道2001」が、経済財政諮問会議の本間正明委員も招いてゼロベース予算の特集を放送するに至ったのです。

 脱ダム、宅幼老所、ヤミ金110番、原産地呼称管理制度、木製ガードレール等々、信州・長野県が取り組む数多くの改革は、他の自治体でも鋭意、取り入れられています。それは、誇りでこそあれ、埃ではない筈です。ゼロベース予算も、その新たな試みです。

的確な認識、迅速な行動、明確な責任を掲げる信州・長野県の改革を、「拙速」の一言で切り捨て勝ちな地元の県議やメディアは、はてさて、ゼロベース予算を如何に「評価」するのでしょうか。