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クレヨンしんちゃん
顔負けの減らず口

 
田中康夫

掲載日2006.3.29



 「住民投票は一種の責任放棄。一種の地域エゴイズム」だと“高言”したのは片山虎之助氏です。自由民主党参議院幹事長の彼は旧自治省出身者。長きに亘(わた)って総務大臣を務めてきたにも拘(かかわ)らず、「住民投票で自治体の立場を決めるのは、適当ではない」と“広言”を吐きました。ならば何故(なぜ)、地方自治法が保証する件の制度を、大臣在任中に廃止しておかなかったのでしょうね?

 何とも自己撞着(どうちゃく)な発言を繰り返したのは虎ちゃんだけではありません。安倍晋三官房長官の“巧言”も、クレヨンしんちゃん顔負けな“減らず口”の叩き方です。「数千万円を投じて何故、住民投票を行うのか、疑問の声が上がっている」と実施9日前に当たる雛(ひな)祭りの3月3日に牽制した彼は、厚木基地から岩国基地への空母艦載機部隊の移転に対する、岩国市民の「民意」が明確に示された翌日の13日に至っても、以下の詭弁を弄しました。

 「住民投票に否定的だった方々は投票しておられない」。「ですので、そこから総合的に割合を考えなければいけない」。「周辺の町村の方々は」、「何故、今の時期にと」、「疑問を持っている方々が多いというふうに聞いております」。

 「伝聞推定」で「推定無罪」ならぬ「推定無効」を“公言”してしまう乱暴な性格の官房長官は、ならば何故、移転受け入れ熱烈賛成派の市民に、正々堂々と投票で決着を、と喚起しなかったのでしょうか。

 「自民党では支持者等に対し、ボイコットを呼び掛けています」と複数の新聞・TVが報じたのに対し、同党のメディア担当責任者を任じる世耕弘成参議院議員は、些(いささ)かの抗議も行っていません。事実として「追認」しているのです。

 が、ボイコットを指示しても猶(なお)、投票率は5割を超え、反対票が9割を超えました。これも又、厳然たる事実です。即(すなわ)ち、「総合的に割合を考え」たなら猶の事、民意は明確だったのです。

 「何処(どこ)でも住民投票をすれば反対でしょうね、基地は」と規定方針通りに岩国移転計画を実施する小泉純一郎首相も、「こういうものは、市長や市議会が責任を持って決断せねばならない」と語る片山氏も、厚木基地を擁する「市長や市議会」の以下の発言を、如何(いか)に捉えるのでしょう。

 実は、基地問題に直面する座間市の星野勝司市長は「ミサイルを撃ち込まれようと基地強化を阻止する」と、相模原市の小川勇夫市長も「戦車に自分が轢(ひ)かれたって阻止する」と、明言しているのです。皮肉にも2人共、保守系市長と目されているにも拘らず。

「国の安全保障は完全に国の義務」と安倍氏は述べます。「安全保障」をハード・パワーと捉えるか、ソフト・パワーと捉えるかの認識の違いを超えて、誰もが否定し得ない発言でしょう。基地の街で生まれ育った首相にとっては、その思いは尚更(なおさら)かも知れません。

 が、であれば沖縄を始めとした既存基地を抱える自治体からの負担軽減を図るべく「分散化」を提唱する一環として、岩国や厚木から、例えば自身の選挙区の対岸に位置する新北九州空港、更には巨額の税金を投じて建設の神戸空港や静岡空港への移転も提唱してみたら、どうでしょう。

 米軍基地の無い山国の首長だから言えるんだろ、と茶々が飛ぶかも知れません。が、それは仮に長野県でも応分の負担を、と政府が述べた際、反田中の守旧派県議諸氏にも突き付けられる決断なのです。