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橋梁談合

 その1
 内田副総裁逮捕と技官集団の利権構造

横田一

 初出:日刊ゲンダイ
掲載日2005.8.24

 東海道新幹線の新富士駅から20分ほど車で走ると、突然、巨大な橋げたが林立する光景が目に入る。道路公団の技術系(技官)の優雅な天下りを支えていた工事現場の一つだ。

 「富士高架橋の工事を分割発注してもらえないか」。

 25日、鋼鉄製橋梁談合事件で逮捕された道路公団副総裁、内田道雄容疑者(60)は、公団の元理事で横河ブリッジ顧問だった神田創造容疑者(70)にこう依頼された。OBが天下っている橋梁業者の受注機会を増やすためだったが、これを内田容疑者は快諾。しかし建設費は5000万円余分にかかることになり、これが談合を手助けした独占禁止法違反ほう助と背任容疑での逮捕に繋がったのだ。

 68年に東大土木工学科を卒業、公団に入社した内田容疑者は、工務課長代理や札幌建設局工務課長などを歴任した「技官のエース」だった。父・襄氏も公団理事を務めた技術系幹部職員であったことから、入社当初から将来の幹部候補として注目され、実際、93年に技術系職員の天下りの差配をしてきた企画課長を務めた後、01年には理事、04年2月には技師長、そして6月には副総裁に昇格した。

 02年に始まった民営化推進委員会にも、同じ東大土木部卒の藤井治芳前総裁の側近として出席。メモを渡したり、耳打ちする知恵袋役をこなした。前総裁に食い込み、出世階段の頂点を極めたのだ。

 しかし公団の事務系職員は、内田容疑者ら技官集団を冷ややかに見ていた。
「彼らは道路や橋やトンネルを作れば、世の中が幸せになると信じる“道路真理教者”といえます。病院新設やヘリポート建設で地域医療向上が達成できるのに高速道路整備で大病院への搬送時間を短くしようと考える。道路建設を肯定的に捉えるのは、自分たちの専門技術を活かす場を提供してくれると同時に、将来の天下り先の確保にもなるからです」。

 この道路真理教者たちが「21世紀の夢の道路」と言って、推し進めたのが「第二東名高速道路」だ。時速140キロが出せる“弾丸道路”で、道路をほぼ直線状にするため、山をトンネルでぶち抜き、谷には巨大橋梁をかけることになり、事業費は5兆6千億円に膨らんだ。今回、内田容疑者逮捕の舞台となった「富士高架橋」は、この第二東名の一部である。

 現場を歩くと、小泉流サプライズ人事のペテンが浮き彫りになる。小泉首相が抜擢した近藤剛・新総裁の就任後も、藤井・前総裁が推進した第二東名の建設は続き、藤井派の内田副総裁は発注業務を差配できるポストに居座り、OBの神田容疑者は仕切り屋として君臨し続けた。近藤総裁はお飾りにすぎず、技官集団の暴走は止まらず、道路建設費の一部がOBの高給に化ける利権構造は温存されたのだ。

 副総裁逮捕の翌26日、小泉首相は近藤総裁に「しっかりと公団の膿出しをして欲しい」と指示したが、より問題なのは無力なトップを選んで事足りた首相自身である。民営化推進委員会の元委員長代理の田中一昭氏はこう話す。

 「小泉公団改革の挫折が、橋梁メーカーに不当利益を得る機会を与え続けることにつながったのは間違いありません」。