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民主党は『ミスター道路』を作り、
道路特定財源の実態を解明せよ!


大前研一
今週のニュースの視点

掲載日:2008年5月16日


■┓道路特定財源 暫定税率戻す改租特法再可決
┗┛ガソリン店頭価格160円前後に自動車意識調査 ガソリン170円超えで「車持つ」は47%
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●道路は日本の政治の中心。民主党はミスター道路を作れ。

 ガソリン税の暫定税率を元に戻す改正租税特別措置法が、 先月30日の衆議院本会議で再可決・成立しました。

 これにより5月1日出荷分から1リットル当たり、およそ25円の 暫定税率が1ヶ月ぶりに復活しました。また、道路特定財源を 2008年以降も10年間維持する改正道路整備費財源特例法も 13日に成立しました。

 一方で、政府は同法案の再可決に先立ち道路特定財源を 2009年度から一般財源化する基本方針を閣議決定しました。

 この閣議決定は同法案と福田内閣が掲げた 2009年度からの一般財源化方針との矛盾を解消するのが 狙いだと見られています。

 法律を通してしまったら、閣議決定となっても、 これが効力を発揮することはないだろうと私は思います。

 将来、この問題が表面化しても、結局は法律に従うという 結論になる可能性が極めて高いでしょう。

 閣議決定をするくらいなら、法律を通す前に議論した上で 法律を書き直すべきだったと思います。


 今回そのような展開に至らなかった事態を眺めていて、 いわゆる道路族の人たちの「強さ」を私は改めて感じました。

 また、今回の経験を通じて、多くの人が道路は日本の政治の 中心なのだということを認識できたのではないかと思います。

 その意味において今回の騒動はある程度有益だったと 言えなくもありませんが、やはりこのままでは消化不良だと 私は思います。

 この問題は、もっと時間をかけて掘り返していくべきです。

 民主党の長妻議員は「ミスター年金」という異名を 持っています。その異名に恥じることなく、長妻議員は 数年間に渡って徹底的に年金問題に取り組みました。

 その結果、年金制度が抱える問題が暴かれ、 政府が何もやっていなかったことも判明し、 今に至っているわけです。これは大きな功績だと思います。

 民主党としては、まさに同じ戦法を適用すれば良いと 私は思います。いわゆる「ミスター道路」と呼べる人を作って、 長妻議員が年金問題を追及したように、

 道路族が今までやってきたことやその利権関係などについて 深く掘り下げて追求するという方法です。

 今回の騒動を通じて、道路に対する国民の意識は高まっています。 しかし、「なぜ日本は道路について目的税化しているのか?」 という点など、細かい部分は国民に完全には理解されていません。

 このあたりを分かりやすく国民に説明して真相を伝えられれば、 その呆れるばかりの実態に国民は気づき、民主党としても 決して損はないだろうと思います。


●この事態に自動車産業が動かないのは不思議。車離れは深刻だ

 ガソリン税の暫定税率が1ヶ月間ぶりに復活を遂げたことで、 日本の道路族と呼ばれる人たちの強さを痛感すると同時に、 多くの人にとってはより切実に日常生活にインパクトを 与える結果になりそうです。

 ガリバーインターナショナルがまとめた、ガソリン価格と 自動車所有に関する意識調査「エコカー調査2008」によると、ガソリン1リットルあたりの価格が170円を超えても 「所有する」とした人は47%にとどまり、更に200円を超えるとその比率が14%に減少したとのことです。

 暫定税率復活後の動向を見ていると、今後170円近くまで価格が上昇することは大いに考えられると思います。そして、いよいよ200円も射程圏内という時期が来る可能性もあると私は見ています。

 今回のガリバーの調査結果を見ても明らかなように、170円がギリギリ限界ラインです。200円になると、14%まで激減するということは、200円という値段では自動車の所有をギブアップするということでしょう。

 そのような事態を想定すると、都市圏に住む人で通勤に車を使う人は軽自動車にシフトする人が増えるでしょう。

 通勤に使わないという人であれば、自動車以外の公共の交通機関を利用する可能性が高くなります。あるいは、自動車を使うにしても、レンタカーで十分だと考える人も増えてくると思います。

 いずれにせよ、日本の自動車産業にとっては一大事だと私は思います。

 ところが、自動車産業の影響力が強い経団連は、今回の事態に対してあたかも道路族の一員のように涼しい顔をしています。私には信じられません。

 なぜ、自動車業界の人たちが知らん顔を決め込んでいるのか、不思議でなりません。

 ガソリン価格の高騰という向かい風がなくても、日本は
 若者の車離れという実態が浮き彫りになってきているのです。


 以前のニュースの視点メルマガでもお伝えしましたが、20代の人は2000年からの7年間の間に、車の所有率(23.6%→13.0%)も所有欲(48.2%→25.3%)も大きく減退しています。

※大前研一ニュースの視点 KON177(2007年8月31日)「所有欲の減退する若者。その意味と今後の戦略」を見る。
→ http://vil.forcast.jp/c/ai35aahNkuykiMad


 もしかすると日本の車の需要が半減するような壊滅的な事態になれば、少しは悔い改めてくれるのではないかとも思います。

 しかし、それでは遅すぎます。今このタイミングこそ、国民は自分にとって車が必要か否かを真剣に考えはじめているのです。

 今回の暫定税率の問題、道路財源の問題を通じて、道路問題や車の所有に関する国民の意識は確実に高まっています。

 こうした国民の心理を理解した上で、政治的な立場から打てる手は何か、自動車業界の立場なら何をするべきか、ということを考えて有効な手を打っていくべきでしょう。

 民主党の方々や自動車産業に携わる人たちには、大いに考えてもらいたいと思います。 


  以上