日本政府が踏み込んだ
戦後最大の間違った道

 

青山 貞一



 周知のように日本政府は2003年2月時点で米英のイラク攻撃を早々と国益にかなうとして支持した。日本政府が米国を支持した最大の理由は、イラクにおける「大量破壊兵器」の存在だったはずである。この支持は政府単独で決めたものだ。国会にも国民にも何の相談、審議、合意もなかった。

 
現在明らかになったことは次のことである。すなわち、米英両国は結果的に何ら正当な理由もないまま、いわばエネルギー植民地主義的に他国を侵略したことだ。それがイラク戦争の実態、素顔である。米国による先制攻撃の最大の論拠としていた「大量破壊兵器」は今になっても何一つ発見されない。ブッシュ大統領は一月の一般教書演説で「英国政府はフセインが相当量のウランをニジェールから入手しようとしたことを知った」と述た。しかし、この情報は後で捏造であることが分かった。

 もちろん、仮に米英が主張したことにそれなりの「正義」があったとして、他国を先制攻撃する権利はない。国際法上も許容されない。これは民主主義を標榜する民主主義国家、法事国なら自明なことである。

 ところで米英両国は3月末に終戦と勝利を宣言し、その後、イラクを一方的に占領、統治している。米国は占拠後、何をしているかが問題である。米国はイラク国内に散在するバスラやチクリートにある油井地域を優先的に占有した。米国占領軍は副大統領系石油関連会社(ハリーバートン)の子会社に対し特命随意契約で優先的に石油関連業務に与えた。ブッシュ政権に関連する企業に軍隊の各種調達を優先的に与えた。これだけをみても、米国による侵略戦争の素顔を見えてくる。それは世界第二位の採掘可能原油量をもつイラクの石油、エネルギーを米国は収奪すること、また兵器や軍需物資の在庫一掃と、各国から拠出させた金をブッシュ政権関連企業に回すことである。
 
 これらイラク戦争で明らかになったことは、戦争前に日本の政治学者や評論家が分かったように言っていた「中東の民主化」でも「安定化」でもない。それらは、米国による中東諸国への侵略戦争を覆い隠す空論にすぎずないものだった。明らかになったことは、言うまでもなく米英両国による他国への侵略である。湾岸戦争時、米国は一方的にクウェートを侵略したイラクを非難し、多国籍軍を組織して武力攻撃した。だが、今回、米英がイラクにしていることは湾岸戦争時のイラクに類することではないのか。勝てば官軍ではすまされないはずだ。

 2003年夏当たりから、米国以外にイラクに軍隊を送ったり援助を申し出ている国々にへのイラク人らによる攻撃が激しくなってきた。米英に限った場合でも、3月の戦闘期間中に死んだ兵士の約3倍の兵士が現在までに死んでいると言う。

 日本のマスコミは、これらイラク人らによる攻撃を「テロ」と言い、その犠牲者をテロの被害者と報じている。だが、他国を一方的に侵略し、終戦を宣言し、領土を占拠している国々に対し、地元イラク人がゲリラ、救国戦線、解放戦線戦、レジスタンスなど呼び名はいろいろあるであろうが、攻撃をしかけることをなぜテロ呼ばわりするのであろうか。

 これについてマサチューセッツ工科大学(MIT)のチョムスキー教授はいみじくも次にように述べている。

 「テロとは他者が『われわれ(米国)』に対して行う行為であり、『われわれ(米国)』がどんなに残虐なことを他者に行っても『防衛』や『テロ防止』と呼ばれる」と。まさにその通りではないだろうか。ひとたび悪者そしてテロの烙印を押されると、何をしても構わないと言う風潮がありはしないか。
 
 そもそも正当性がまったくないだけでなく、エネルギー利権、権益に満ちた米英の侵略戦争に、日本政府はいち早く支持を表明した。だがそれだけではなかった。日本政府は憲法第九条の最後の砦も無視し、イラク特措法を強引に制定した。そしていまだ戦争状態にあるイラクに自衛隊を派兵しようとしている。

 さらに日本政府はブッシュ大統領が来日時に向こう3年で50億ドル、イラク復興支援として拠出しようとしている。この額は米国に次いで世界第二位である。何ら正当性がない米英の侵略戦争に日本政府がここまで荷担しているは、なぜか? 

 日本政府はもともとブッシュ政権の先制攻撃を日本の「国益」にかなうなどと言ってきた。日本政府の言う「国益」とは何か? 私見では日本政府は公言はしないものの、次の諸点について国益と言う名のもと、既成事実づくりをねらっていると思う。

 その第一は、国家主義を強める日本政府、与党のもくろみは憲法第九条を改正(改憲)させ軍国主義化の道を走ること、イラク特措法はそのための既成事実づくりであること。その第二は、いわゆる土建系公共事業の限界から軍事産業を今後の公共事業として推進すること、その第三は、米国の尻馬に乗ってイラク、イラン、アフガニスタンなど中東の石油、天然ガスなどのエネルギーにありつくことだ。これらはどれも日本が「普通の国」となる道なのであろうか、否、いずれも昔来た道をたどることだ。

 とくに第二の軍事産業の巨大公共事業化は、まさに米国が行ってきたことだが、軍事分野は情報公開がなくとも政策形成、意思決定が可能となりやすいことがある。私たちが道路、ダム、堰など土建系公共事業やIT系公共事業さらにはODAなどがもたらす財政、環境リスクを問題にしているうらで、政府は着々と人目につきにくい防衛産業、軍事産業分野を巨大な公共事業化しようとしていると思える。

 スウェーデンのストックホルムにある国際平和研究所データによれば、2002年度における世界の軍事支出額ランキングでは、日本は米国についで世界第二位となっている。

 このような文脈、経緯からすれば、日本が米英のプードルとしてだけでなく、手先として攻撃を受けること、まして自衛隊を現地に派兵した場合、攻撃の標的となるとことは自明である。いずれにしてもイラクへの自衛隊の派兵は、日本政府が踏み込んだ戦後最大の間違った道となるであろう。