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全国でも稀有なニセコ・メソッド
原子力防災計画と
原発再稼働の背景とは(1)

齋藤真実
掲載月日:2014年2月25日
 独立系メディア E−wave Tokyo
無断転載禁

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 ◆斎藤真実(Saito Mami) プロフィール

 立教大学物理学科卒
 東京農工大学大学院農学研究科卒
 環境総合研究所非常勤研究員
 環境行政改革フォーラム国際担当幹事
 千葉商科大学非常勤講師
 千葉県市川市生まれ、在住

 専門:原子力と環境哲学 
     エネルギー政策

 2014年2月19日、青山貞一先生に同行させて頂き、北海道はニセコ町の第9回原子力防災専門委員会を傍聴させて頂いた。

 本稿は当該委員会の様子、傍聴した感想を述べるものであるが、@原子力防災計画とその背景、A原発再稼働との関連性、Bニセコ町原子力防災専門委員会の特徴といった事柄と絡めながら論をすすめてゆきたい。

@原子力防災計画とその背景

@−1.原子力防災計画とは?


 防災に関する基本法である「災害対策基本法」に基づき、都道府県や市町村が地域の実情に合わせて作成した計画を「地域防災計画」という。

 東日本大震災での福島第一原発事故を受けて、原子力災害対策基本法特別措置法が改訂され、国の原子力防災対策である「防災基本計画」も改訂となった。加えて、2012年10月に原子力規制委員会が策定した「原子力災害対策指針」(以下「指針」)により、原発から約30km以内の自治体(UPZ)では「地域防災計画(原子力防災計画編)」(以下「防災計画」)を2013年3月18日までに策定することが義務付けられた。

@−2.防災計画作成スケジュール

 この指針が策定された2012年10月31日の原子力規制委員会定例会見中、委員長である田中俊一氏は今後のスケジュールについて「UPZの一つを選び一ヶ月ほどでひな形を作るので、その後一ヶ月ほどで他の自治体も計画を作成して欲しい」旨を述べていた。

 筆者は耳を疑った。対象自治体のお手本ともなる重要なひな形をたった一ヶ月ほどで作成できると言うのか。そのひな形は何処かしら具体的なUPZを対象としたもののはずで、それを各地域の状況に合わせて焼き直さなければいけないのだが、その作業がたった一ヶ月でできると言うのか。

 防災や原発、シミュレーションの専門家たちが一同に会し、一ヶ月間毎日議論すれば作成可能かもしれないが、担当する者の多くはこれまで原発の防災計画など作成したことのない自治体職員である。しかも彼ら彼女らは他の業務をしながら関わるうえ、担当者の人数も多くは割けない。そのような状況で短期間でまともに実効性のある計画作成など極めて困難である。

 これは原子力規制委員会のスケジュール見積もりの甘さというより、防災計画の重要性をまるで認識していないと言ったほうが良いだろう。付け焼き刃の作業で取りまとめられるくらいの軽い内容で宜しいと言っているようなものだ。

更に、指針自体はその後2013年2月、6月、9月と全面改正され、対象自治体にとっては腰を据えて計画作りに集中できる状況ではなかったと言えよう。

@−3.住民参加無しのスケジュール

 このスケジュールの背後には、二つ大きな問題がある。

 一つ目は住民参加の削除である。こういった防災計画においては、何より住民の理解が必要であり、計画策定過程からの住民参加が望ましい。指針が策定される前にたたき台となった文書
http://www.nsr.go.jp/committee/kisei/h24fy/data/0003_01.pdf
のなかでは、「防護方策の計画作成には、住民の代表者の参加が不可欠である」(p.43(A)放射線防護への人々の参加)と、住民参加の必要性が明記されている。これは当然であると同時に極めて重要である。しかし、2012年10月31日に策定された指針では、住民参加の記載が消えていたのである。

◆現時点での最終版の指針
http://www.nsr.go.jp/activity/bousai/data/130905_saitaishishin.pdf
を見ても、前文の目的・趣旨の部分で「住民の視点に立った防災計画を策定すること」としか書いていない。

 この文は一見聞こえはいいかもしれないが、要は住民の参加無しで(作成する職員が住民でもある、という場合はあるが)作成して良い、ということである。住民参加が削られた背景としては、前述の通り原子力規制委員会は防災計画の実効性を求めていないだろうことと、タイトなスケジュールのなかで住民の意見を聞いている余裕がないことが考えられる。

@−4.拡散シミュレーション無しのスケジュール

 問題の二つ目は、公表している拡散シミュレーションの不確実性の自覚である。原子力規制委員会は防災計画の参考資料とすべく、各原発事故時の放射性物質拡散シミュレーション図を公表している。これらの問題点については以下のブログに詳細に解説されているので参照されたい。

◆地形考慮なき稚拙な原子力規制委拡散シミュレーションの問題点
  〜環境総合研究所 Super AIR/3DDと対比して−

  青山貞一・鷹取敦 環境総合研究所(東京都目黒区) 
  独立系メディア E−wave Tokyo
http://eritokyo.jp/independent/aoyama-fnp20121024sim..html

 原子力規制委員長の田中氏は規制委員会発表のシミュレーションに対して、役に立つとは思っていないと認めている。実際の地形によっても、発生源の高さや当日の気象によっても拡散の状況は異なってくるので、あくまでも参考程度だと述べている。筆者に言わせればそれは「参考程度」にもならない。

 「国費を投入して当てにならないと分かっているシミュレーションなんかするな!」という怒りはとりあえず横に置いておこう。田中氏の発言を考えてみると、公表したシミュレーションについてはさほど深く考えなくて良いということになる。つまり、防災計画においてシミュレーションは軽く流せ、時間をかけないでよい、ということである。

 以上の2つの観点からも、各対象自治体の防災計画の内容は棚上げで、早くひな形通りに作成してくれ、という意図がありありと見える。

 後に触れるが、これら「住民参加」、「シミュレーション」はニセコ町防災計画の独自の特色と深く関わってくる。


つづく