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会期延長と
時間的ゲリマンダー


佐藤清文

Seibun Satow

2007年6月22日


無断転載禁
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すべて執筆者である佐藤清文氏にあります。


「悪癖は民主主義の行き過ぎから発生する経験だった。人民は美徳を欲してなどいない。ただ、口先だけの愛国者のカモである」。

エルブリッジ・ゲリー


 政府・与党は、2007621日、国会の会期を75日まで12日間延長する方針を決定しました。これにより、参議院議員選挙の投票日が当初予定されていた722日から29日へとずれこむこととなりました。

 参議院議員選挙の日程を変えてまで会期を延長したのは前代未聞です。自宅から余裕を持って出発したものの、あちこちより道をした挙げ句、交通渋滞に巻き込まれたからと東京駅に電話で新幹線の出発を遅らせろと言っているようなものです。安倍晋三内閣総理大臣には責任ある政権担当能力に欠けている証であり、これだけでもこの内閣は総辞職に値します。

 扇千景参議院議長は、同日、延長を申し入れにきた中川秀直自民党幹事長に対し、「参院は今年は選挙。最初から22日に閉会と決まっていた。参院での見通しを立てないで法案を出し、最後のしわ寄せが来て、落ち着いて審議ができない。不本意ですよ」と不満を表わしました。安倍政権には、実は、国対経験者がいません。

 小泉純一郎前首相でさえ、国対副委員長をしたことがありますから、この法案であれば、審議日程はどれくらいで、いつ通過させられるかの目処はだいたいついていました。けれども、今の素人政権はそれができないのです。

 解散のない参議院議員選挙に支障がないように、法案に優先順位をつけ、審議日程をやりくりする当然の作業ができないのはお粗末と言うほかありません。政権を担える経験も知識も技術も乏しいのです。今の日本の政治は小学生に新幹線の操縦をさせているよう状態なのです。

 現在の代議制において、選挙は有権者が自らの意思を表明できる唯一と言っていい機会です。それを政権が自分の不手際で変えるとしたら、選挙の公正さが成り立たなくなってしまいます。これは、選挙における完全な公正さの困難さのはるか以前の問題です。

 衆議院におけるいわゆる7条解散は、野党が選挙準備をできない時を不意打ちできますから、政府・与党に圧倒的に有利となり、憲法上問題があるという意見もあります。

 政府・与党は政権を担当しているだけでアドバンテージを持っています。故河野謙三参議院議長は、国会運営には「七・三の構え」で臨まなければならないと言っていました。与党は力が強いのだから、野党に7割、与党に3割の姿勢で議事運営をして公正だというわけです。

 選挙は有権者が一時の感情に流されず、十分に熟慮・議論・吟味して、投票行動を行うようにしなくてはなりません。そのため、ある程度の周知期間が必要です。ところが、日本は、諸外国と比べて、これが短く、選挙制度以前の問題点なのです。イスラエルで20063月に行われた総選挙は数ヶ月前の議会の解散を受けてのことです。

 2005年の衆議院議員選挙は、その意味で、相当に問題のある選挙でした。この公正とは言いがたい選挙での圧勝を利用して安倍政権は誕生しました。その経緯同様、この内閣は公正さなど気にもかけず、強行採決を繰り返してきました。

 政権が自分に有利に選挙の区割りを変えることを
(それをたくらんだエルブリッジ・ゲリーにちなんで)「ゲリマンダー」と言いますが、日本の国政では「時間的ゲリマンダー」が横行してきました。今回の会期延長により、安倍政権はまさにその不公正さの頂点に達しているのです。

〈了〉