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本質的思考

第五章 精神の健康のために

佐藤清文

Seibun Satow

2010年4月28日


無断転載禁


第5章 精神の健康のために

 本質的思考は、その対象が何であり、何であり得るかを明らかにすることである。その原理は、定義の明確化、歴史的・論理的相対化、定義に適した分析方法の選択の三つである。これらは核心の把握、自明性の解体、恣意性の除外という動因として機能する。

 日々、政治的・経済的・社会的問題が各種メディアを通じて報道され、それについての感想や意見、コメントがさまざまなところで飛び交っている。三つの原理のどれか、あるいはすべてを欠いた議論はもっともらしく感じても、自分のひらめきや信念を絶対化しているだけである。目の前で展開されている論議が本質的であるかどうかは、この三つの原則に照らし合わせれば、判定できる。

 非常に影響力のある表象的概念である言説は、キャッチーなだけで、本質的思考の三つの原則を書いていることも珍しくない。一見したところでは説得力がありそうだが、相対化の作業が欠けていて、もっともらしいだけである。議論は相対化の作業が見られず、対象を絶対化し、自明性を強化、恣意性に覆われている。

 もっとも、使用者に気ままな裁量を許せるから、普及しているとも言える。対象の定義が不明であれば、それは何でもないので、何にでもなり得るというわけだ。拡大したり、別のものと癒着したりする。悪性腫瘍のように、無秩序に増殖し、健康な精神を脅かす。もっともらしい議論は危険この上ない。精神の健康のために、思考習慣の見直しが必要だ。

〈了〉

参考文献

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セクハラ・パワハラ問題ドットネット
http://s-p.web.infoseek.co.jp/index.html
ストレス・ラボ
http://stress-labo.com/
DVD『エンカルタ総合大百科2008』、マイクロソフト社、2008年