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日本変革のブループリント





第三章 グローバルな小日本主義
「ミニマ・ヤポニア」(14)


佐藤清文
Seibun Satow

掲載日:2007年1月元旦


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すべて執筆者である佐藤清文氏にあります。



全体目次



3「未来はわれわれを必要としているか」

 2000年4月、サン・マイクロシステムズ社の共同創業者でチーフサイエンティストのビル・ジョイが『ワイヤード』誌に「未来はわれわれを必要としているか(Why the future doesn’t need us)」という衝撃的な論文を発表しました。

 漢字で「美流上位」と自分を記すこの人物は、バークレー版
UNIXを創始し、Java言語やSPARCプロセッサを開発するなどIT技術への貢献は計り知れません。

 その彼が、同論文の中で、自らも寄与してきたコンピューター技術も含めた科学技術──中でも、遺伝子工学・ナノテクノロジー・ロボット工学──の秘めた危険性について警鐘を鳴らし、次のような五つの倫理規範を提唱しました。

 医療の「ヒポクラテスの誓い」にならい、科学者・技術者が大量破壊兵器につながる研究開発への非従事を誓う。

2 新技術の危険や倫理問題を検討する国際的な場をつくる。

3 製造者責任の概念を広げ、民間企業も技術の結果責任を負う。

4 危険と判断された技術や知識を国際的に管理する。

5 危険な知識の探求や技術開発はしない。

 これは掲載されると、賛否両論を巻き起こしましたが、その悲観的なヴィジョンのために、産業革命期に職が奪われるのを恐れた熟練労働者が機械を叩き壊して回った運動になぞらえ、「現代のラッダイト運動」と鼻であしらう者さえいます。けれども、彼の批判的考察を無視して、科学技術の将来はありえません。科学技術において、問われているのはその発展自身ではなく、人間の判断力なのです。

 しかも、この「未来はわれわれを必要としているか」という問いは、科学技術の問題を超えて、政治全般にも投げかけられるものです。

 もちろん、ジョイの5原則を政治家や官僚に適応できたら素晴らしいというだけでなく、現在のことばかりを考え、享楽的に二〇世紀の政治は振舞ってきました。

 未来を語りつつも、実際には、今の自分たちのことしか頭になかったのではないかと未来から非難されても返す言葉がありません。

 環境問題はその典型です。近代以前は蓄積されてきた伝統に立脚する「過去の時代」だったのに対し、近代は、それとの断絶を強調するあまり、「現在の時代」です。けれども、これからは将来の影響を優先する「未来の時代」です。

 フリードリヒ・ニーチェの『ツァラトゥストゥラはかく語りき』における「精神の三段の変化」の比喩を用いるなら、それぞれ「ラクダ」・「ライオン」・「幼子」に対応します。

 そもそも未来がそんなわれわれを必要としていてくれるのだろうかは重い問いです。この問いかけを反芻しつつ、謙虚に政治活動をしていかなければなりません。

 と同時に、多くの狭量な原理主義が世界を苦しめていますが、人々はユーモアを愛していることでしょう。未来もユーモアは歓迎してくれているはずです。

つづく